第43期棋王戦五番勝負第4局は、永瀬拓矢七段が161手で渡辺明棋王を下し、2勝2敗のタイに持ち込みました。最終局は3月30日に行われます。
今シリーズ初の相掛かりの出だしから、永瀬七段が得意の早繰り銀へ。先手が銀冠へ組み替えて作戦勝ちを築き、後手の4筋の位へ反発して自然にリードを奪います。
▲1六角と打たれ、渡辺棋王が局後に「これはもう投了ですね」と苦笑するほど先手の攻めが決まっています。△3三金右に▲2六桂が激痛で、先手は攻め駒を全て働かしながら駒得を果たす理想的な展開で、渡辺棋王も対局中に頭を抱える場面が目立ちました。
渡辺棋王が△8六歩と迫った局面ですが、平凡に▲同金(△7七銀は▲5五角)と取り、△5四金に▲8八角と王手で△7七銀を消しておけば後手は指す手がありませんでした。本譜は▲7七角、△3二玉、▲8六角とさらに万全を期しましたが、後に左辺に駒が残る形となり、紛れが生じる遠因になったようです。
後手は駒損ながら何とか飛車交換へ持ち込み、先手も焦らされる局面に。ここで▲2五角と切って(△同金は▲6四飛成が詰めろ)、△同飛成に▲6四飛成とすれば、先手がまだ押し込まれる展開でした。本譜は単に▲6四飛成としたため、△5八飛成と取られていよいよ形勢が接近します。1六に角が残った形が後手玉が1五へ逃げた時に寄せづらく、先手は上部脱出の変化に苦しむことになります。
後手玉の上部の視界が開け、ついに逆転したかに思えた局面。渡辺棋王の対局姿勢にも明らかに闘志が蘇りました。渡辺棋王は△7六歩、▲5九角、△7七銀と迫りましたが、▲8八歩で明快な寄せを見つけることは出来ませんでした。感想戦でも、後手が猛追していたもののはっきり勝ちになった局面はなかったようです。
ここで▲7四角が気が付きづらい妙手で、次の▲4一角成が受かりません。△1四玉に▲4八角(△同竜は▲1六香)が激痛となり、ついに永瀬七段が勝利を確実にしました。活用に苦慮していた1六角が最後は左辺へ大転換して決め手となるなど、永瀬七段としては最後に運が残っていました。
投了直後の渡辺棋王は茫然自失の様子で、投了寸前の将棋をあわや逆転という形勢まで追い上げての負けは、余計にダメージが大きいそうです。理事として対局に立ち会った鈴木大介九段の、「手数が伸びると永瀬さんは強いですね」という言葉が、永瀬七段の底力を物語っていました。
今シリーズは4局とも先手が勝利しており、最終局の振り駒が勝敗に大きな影響を与えそうです。特に渡辺棋王は他棋戦でも後手番で苦戦しており、今年度は最後まで試練が続くことになってしまいました。
永瀬七段の本日のおやつは午前、午後共にチョコレートケーキとホットコーヒー。前局まで大量に注文していたバナナが見られず、驚いた方も多かったかも知れません。しかし、実は対局開始前に2.5本分のバナナ(2本でも3本でもなく、2.5本ちょうどを永瀬七段が指示したそうです)が永瀬七段の席に用意されていました。その他にも自室に2.5本、午後の対局再開前に2.5本が届けられ、計7.5本分のバナナを完食されました。
また、これだけのバナナを平らげながら、昼食でもどう見ても二人前としか思えないボリュームを完食した永瀬七段。楽勝ムードから一転して思わぬ長期戦となってしまった本局では、このエネルギー補給が吉と出たようです。
最終局は東京将棋会館で行われます。これまでのバナナの最多本数は第3局の8本ですが、否が応でも気合が入る大一番で、果たして永瀬七段は自己記録を更新するのでしょうか?