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藤井六段17連勝ならず:井上九段が見せた「藤井キラー一門」の底力

第68期王将戦1次予選、井上慶太九段vs藤井聡太六段の対局は、井上九段が137手で勝利しました。藤井六段の公式戦の連勝は16でストップしました。


出典:産経新聞

長いねじり合いに

急戦矢倉の出だしから迎えた中盤の局面。後手は6筋に先手の傷を残すことに成功しましたが、先手も攻めの銀を交換する戦果を上げています。

ここから後手の藤井六段が△4五銀、▲3五角、△3四銀、▲2六角、△3五歩と進めたのが気づきづらい構想でした。一方的に銀を手放し、しかも後手を引いてしまう手順ですが、それ以上に先手の飛車と角の自陣への睨みを大きく緩和したことを評価しています。この後6筋からうまく攻めを繋げることにも成功し、藤井六段がややリードを奪いました。

筋の良さが裏目に

後手は6六へ急所のくさびを打ち込み、さらに竜を作ることにも成功しましたが、井上九段も地力を発揮して攻め駒を目一杯躍動させ、全面戦争に突入しています。直前に放たれた▲6四歩を△同銀と取ると▲3一角の両取りが激痛ですが、△7二銀と引くようでは後手を引く上に守備駒の連携を大きく乱されていかにもシャクな形です。藤井六段は△3六歩と攻め合いましたが、▲6三歩成とただで一枚はがされたのも大きく、形勢は優劣不明に。

結果的には、つらいようでも△7二銀と辛抱し、▲5三銀の強襲に△3六桂と攻め合えば後手がリードを維持出来たようです。しかし、△7二銀のような一方的な利かされ方はプロが最も嫌うタイプの手で、特に藤井六段の将棋ではまず見られません。もし直感的に読みの本線から外していたのだとすると、筋の良さが裏目に出た形でした。

また、感想戦では藤井六段は「早い段階で形勢を損ねてしまった」と語っており、一局を通して形勢を悲観していたようです。△7二銀のような手は形勢不利の局面ではじり貧に陥る危険性をはらんだ手でもあり、悲観的な形勢判断が△3六歩の攻め合いに活路を求めさせたのかも知れません。

痛恨の悪手

井上九段が▲9五角と打った局面。単純な王手ではありますが、△6一玉や△5二玉には▲5八金が~▲2五角のラインが気になり、△8四歩では竜が敵陣に利かなくなってしまうため、応手が悩ましいところです。

後手は△4一玉とかわしましたが、すかさず▲3四桂と跳ばれて一気に敗勢に陥りました。△同金には▲4三銀と打たれ、▲3二銀打の詰めろをどう受けても次の▲1五角(詰めろ飛車取り)が激痛となります。やむなく△5二玉と上がりましたが、やはり▲1五角が飛車金両取りとなって後手は収拾がつきません。

△4一玉は藤井六段としては非常に珍しい終盤の見落としで、▲3四桂が見えていれば△7三桂と打つしかありませんでした。唯一の持ち駒を使ってしまう指しつらさはありますが、先手も歩切れのため細かい攻めが利かず、優劣不明の戦いが続いていました。しかし、難解な中盤から約60手もの間局面の均衡を保ち続けた井上九段の底力が、藤井六段のミスを誘発したという側面も確実に存在するでしょう。

「君たち、悔しくないのか」

藤井六段が2月に朝日杯優勝を果たした際、谷川浩司九段は以下のようにコメントしています:

名人と竜王を破っての優勝は見事ですが、但し、20代・30代の棋士に対しては、「君たち、悔しくないのか。」と言いたい気持ちもあります。

日本将棋連盟

自身が20~30代の頃に羽生七冠誕生を許すという屈辱を味わいながら、その後に何度もタイトルを獲得するなど羽生世代に対抗し続けた谷川九段らしい辛辣なコメントで、刺激を受けた棋士は多かったはずです。

藤井六段に朝日杯以降初めてとなる黒星を付けた井上九段は54歳ですが、奇しくも谷川九段の弟弟子でもあり、もしかすると偉大な兄弟子の言葉に期するものがあったのかも知れません。

また、今回の勝利で対藤井六段戦の最年長勝利記録(これまでは深浦康市九段の46歳で、その他は全員20代)も大幅に更新されました。

(追記:コメントでご指摘を頂いた通り、羽生七冠誕生後に初めて黒星を付けたのも、当時の井上六段でした。兄弟子が王将戦でストレート負けを喫した直後でもあり、今回の対藤井戦以上に気合の入る一番だったようです。)

「藤井キラー」の一門?

井上九段は弟子を多く育ている師匠としても知られており、これまでに3名の棋士を輩出していますが、藤井六段の井上一門の棋士との対戦成績はこれで0勝3敗となりました(菅井竜也王位と稲葉陽八段にそれぞれ0勝1敗)。タイトルホルダーとA級棋士、そして井上九段も元A級の実力者ではありますが、藤井六段の8割5分に迫る通算勝率を考慮するとこの対戦成績は意外な偏りと言えそうです。弟子達の戦いぶりに井上九段も刺激を受けていたのかも知れません。

また、井上門下のもう一人の棋士である船江恒平六段は竜王戦5組でベスト8へ進出していますが、次戦で勝利すると同じくベスト8に勝ち残っている藤井六段と準決勝で対戦する可能性があります。もし実現すればこの将棋が藤井六段にとって最速での七段昇段(竜王戦2年連続昇級)を懸けた勝負となるため、井上一門の「藤井キラー」ぶりが改めて注目されるかも知れません。

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