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将棋名局集「△4七角」:羽生vs谷川 第62期棋聖戦第1局

羽生vs谷川戦の谷川九段の勝局には、「△7七桂」や「△6八銀」など、終盤に派手な決め手が見られる印象があります。本局はその中でも屈指のインパクトのある名手が生まれ、「名探偵コナン」など多くの作中で棋譜のモデルとして使われています。


第62期棋聖戦五番勝負第1局

1993年6月19日
羽生善治3冠(0勝) vs 谷川浩司棋聖・王将(0勝)
対局場:大阪府大阪市「ホテルニューオータニ大阪」
持ち時間:各5時間

前年の竜王戦でフルセットの末に谷川竜王からタイトルを奪取したことで、羽生3冠は初めてタイトル数で谷川2冠を上回りました。谷川2冠も棋王戦で挑戦者になりますが、ここでもフルセットの末に羽生3冠に敗れ、時代が動く気配が漂っていました。

羽生3冠の先手で相矢倉となり、両者共に雀刺しに構える珍しい展開に。

双方の角と守備銀が良く利いていて、攻め駒を働かせることが難しい形ですが、ここから△2五銀、▲3八飛、△1四歩と逆サイドから後手が戦端を開きます。1筋の逆襲が受からない形ですが、9二飛や6二銀が立ち遅れそうな展開でもあり、先手も▲2六歩、△同銀、▲2八飛、△5四歩、▲7三角成と反撃し、難解な形勢です。

一直線の斬り合いへ

後手は1筋の香を取って駒得を果たしますが、先手も▲4四桂と急所の金へ迫っています。△4二金寄と受ける手も有力ですが、「光速流」は自玉に見向きもせずに△8一香。以下▲3二桂成、△同玉、▲4四銀、△同金、▲同歩、△8六香と、足を止めての壮絶な殴り合いへ突入します。

▲3四金としばられて後手玉は風前の灯ですが、谷川2冠はここも手抜いて△8七歩成。▲同金は△8六銀、▲同玉、△8二飛以下詰むため、▲同金と取りますが、△7九飛、▲8八玉、△7八銀、▲4三歩成、△4一玉と進んで次の図へ:

後手玉はいかにも詰みそうな形ですが、▲5二金と迫っても△同飛、▲同と、△同玉、▲4三角、△6二玉、▲2二飛に、△4二歩が中合いの妙手で、最後は後手玉が8四まで逃げた末に打ち不詰めの形となり、奇跡的に詰みません。しかし、羽生3冠も秘術を尽くし、▲4二金、△同飛、▲同と、△同玉、▲4八飛と、王手銀取りの攻防手を繰り出します。

豪快な決め技、「△4七角」

△5一玉のような平凡の受けでは▲7八飛で先手玉が一気に安全になってしまいますが、ここで△4七角(!)が最後の決め手でした。

▲7八飛は今度は△同飛成、▲同玉の時に4七角が働き、△6九銀以下詰み。本譜はやむなく▲同飛と取りましたが、△5一玉、▲5三香、△6二玉で、先手に角を渡したにもかかわらず後手玉はギリギリ詰まず、谷川2冠の勝ちとなりました。序盤からずっと立ち遅れていた7三の銀が、最終盤で守備の要として利いてくる辺りも、「勝ち将棋、鬼のごとし」ですね。

「△4七角」が歴史的な名手であることは間違いありませんが、そこに至るまでに両者がミスと呼べるほどのミスを一手も指さず、一直線に斬り合ったギリギリの戦いの末にこの名手が生まれたことが、本局をより美しい棋譜へ昇華させています。

幸先のいいスタートを切った谷川2冠でしたが、五番勝負はその後3連敗でまたしても羽生3冠に敗れてしまい、羽生時代の到来がより濃厚となって行きます。「△4七角」レベルの名手を繰り出さない限り勝てないのだとすれば、7冠へ向けて邁進していた当時の羽生3冠の力がいかに傑出していたのかがうかがえますね。

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