藤井六段の驚異的な詰将棋解答能力は広く知られていますが、詰将棋作家としても優れた作品を多数発表しています。ここでは藤井六段の詰将棋の中でも、メディアに取り上げられて特に有名になった作品をご紹介します。
優れた詰将棋には、大きく分けると三種類の特徴があると思います:
食べ物に例えると、1点目は高級店で味わう美味、2点目は燕の巣やフォアグラのような珍味、3点目は大盛が売りの激安店で得られる満腹感を感じさせるものです。
藤井六段の詰将棋は、明らかにこの中の3点目に最も重点が置かれています。つまり、一般的な同じ手数の詰将棋と比べ、非常に難しい問題が多いのです。延々と悩まされた末にようやく正解にたどり着くと、超大盛ラーメンを食べ終えたような達成感が得られます。
まずは今年1月に放送された、BSプレミアム「一二三!羽生善治の大逆転将棋」で出題された問題です。
驚かされるのは、この番組が初心者にも分かる内容だということで、この直前には藤井六段の7手詰めの問題を5分近くかけて1手1手丁寧に解説しています。この視聴者層にはあまりにもスパルタな問題ですね。
出演した羽生竜王も、「これはかなりの難問です」と太鼓判を押しています。ひふみんに至っては「私はまだ分からない。多分あと10分くらいかかる」と発言し、司会者が「ひふみんに分からないんだったら、もう無理だ」とさじを投げる場面も(^-^;。
次に、2016年に愛知県知事を訪問した際に送った色紙の問題です:
この問題は詰みそうな手の組み合わせがいくつもあり、ちょっとした指し手の順番の違いで結論が変わってしまいます。さらに、攻め方の手のみならず玉方の逃げ方も難解な変化を複数考えなければならず、非常に解きにくい問題になっています。これだけの難問を角と香だけの非常にシンプルな初形にまとめていることも見事と言うよりありません。
知事が「難しい?」と尋ねると、「プロでも三十分以上、かかります」と、ひょうひょうと答えたとか。その言葉に、知事は「俺にわかるわけないじゃんか」とさじを投げ、一度も読んでいないという。
(中日新聞より)
最後に、2017年1月に放送されたNHK「クローズアップ現代」の中で、藤井四段が名古屋市内の行きつけのラーメン店「陣屋」へ送った色紙です:
この問題は正解のとっかかりを得ることの難しさもさることながら、途中で玉方に受けの絶妙手が出てきます。詰将棋の場合、玉方の正しい受け方を発見できないと、詰んだとしても詰将棋らしくない不自然な手順になり、それにより解答者が正しい受けを見落としていることに気づく場合が多いです。しかし本作では、玉方が間違った逃げ方をしても作品としてあまり違和感のない詰め上がりになってしまうため、解答者が罠にはまる可能性が高くなっています。
この問題は店内に飾ってあるそうですが、客がラーメンを食べ終えるまでに正解にたどり着くことはほぼ不可能なので、回転率が命のラーメン店に向いているとはとても思えません(^-^;。
三段時代には谷川九段のアドバイスで、詰将棋創作からはしばらく遠ざかっていた藤井六段。プロ入りした現在も、公式戦の多忙さを考えると、とても詰将棋を作る時間があるとは思えませんが、いずれは作品集を出版して欲しいと願うファンは多いはずです。
ちなみに、ここで取り上げた問題の正解は以下の通りです。どうしても気になる方のみご覧ください。
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