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歳の差59歳!若き羽生四段が体験した大先輩との23時間に及ぶ死闘

藤井聡太六段のデビュー戦は、年の差何と62歳の、将棋界のレジェンド加藤一二三九段との対戦でした。加藤九段の十八番である相矢倉を受けて立った藤井14歳の四段は、重戦車のような加藤九段の攻めを巧みにかわし、終盤に的確に反撃に転じて勝ち切りました。


出典:毎日新聞

同じ中学生棋士としてデビューした羽生竜王も、プロ一年目に59歳差の大先輩との対局を経験しています。スマートに勝ち切った印象の藤井四段と異なり、羽生四段の対局は終わったのが何と翌日の午前九時過ぎ(!)という死闘になりました。

現役最年長対最年少

1986年8月に行われたC級2組順位戦。羽生四段は当時15歳の高校1年生で、デビュー以来21勝4敗、さらにこの対局の直前まで13連勝中と、藤井六段に引けを取らない勝ちっぷりを見せていました。

対する小堀清一九段は明治45年生まれの74歳。現役最年長はもちろんのこと、70代の棋士すら他にいない状態で、まさに現代の加藤一二三九段のような存在でした。

出典:「将棋世界」1986年10月号

相掛かり模様の出だしから、角交換後に両者矢倉へ組み替える展開に。後手の小堀九段が果敢に先攻しますが、羽生四段は丁寧に受けながら徐々にリードを奪います。しかし小堀九段も苦しい局面を100手近くも頑張り続け、勝負がついたのは午前0時33分、159手目でした。

午前10時の対局開始から14時間以上経っていますが、持ち時間各6時間の順位戦では終局が日付をまたぐことはそれほど珍しくありません(当時は全クラスでストップウォッチ形式だったため、チェスクロックを使用している現在のB級2組以下と比べ約2時間ほど終局時間が遅い傾向がありました)。そこから感想戦が始まりましたが、内容的には手数こそかかったものの全体的に先手が押していた局面が多く、両対局者の年齢を考えても比較的早く終わりそうな対局でした。

終わらない感想戦

しかし、74歳の小堀九段は将棋が大好きな棋士です。その飽くなき探究心は14時間もの対局後も一向に衰えず、1時間、2時間と経過しても一向に感想戦が終わりません。プロの感想戦は基本的に敗者の気が済むまで行われますが、特に高校生の羽生四段としては大ベテランの先輩に対して自ら帰りたいと言えるはずもありません。

気づくと他の対局は全て終了し、対局室には小堀vs羽生戦だけが残りました。さらに3時間、4時間と経過し、羽生四段も眠りに落ちる寸前ですが、そこはさすがに天才棋士で将棋の手は見えます。感想戦と言えども先輩に華を持たせるようなことはなく、殆どの変化で先手が優勢になってしまいます。

記録係の勝又奨励会員(現六段)は途中で意識を失い、慌てて目を覚ますと午前八時。外はすっかり明るくなっていましたが、感想戦は何とまだ続いています!

ついに決着

午前9時頃に到着した清掃員の女性は、対局室にまだ1局残っていたのを見て呆れ果ててしまいます。このままでは掃除が始められず、午前10時に始まるこの日の対局に間に合いません。

「いい加減やめなさい!」

小堀九段をも一喝したベテラン清掃員の一声で、ついに死闘に終止符が打たれました。記録係が盤駒を片付けようとすると、この日の対局の記録係が既に来ていて、次の対局にもそのまま同じ盤駒が使われたそうです。

午前9時の対局風景

残念ながら小堀vs羽生戦の終局後の写真は残っていませんが、2004年には他の対局で2度の指し直しの末に午前9時過ぎに終局した事例があります。その当時の行方七段と中川七段の様子がこちら:

ちなみに行方vs中川戦の決着がついたのは午前9時15分で、感想戦は10時前に終わりましたが、両者共に興奮が収まらず連れ立って築地へ飲みに行ったそうです。やはり棋士の本能として、長時間の対局後のクールダウンのためにも感想戦は必要なようです。

小堀vs羽生戦も、午前9時の対局室はこれほど壮絶な絵になっていたのかも知れません。

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