今年度の勝率ランキングは、藤井聡太六段が8割4分を超える圧倒的な成績を収め、年度末を待たずして1位(他の記録部門も独占)を決めました。そして、2位から10位までは全て20代の棋士が名を連ねており、若手の躍進を強く印象付けた一年となりました。
ただし、勝率上位を若手が占めるのは、将棋界においては実はあまり珍しいことではありません。棋士の年齢と勝率との相関関係と、過去の名棋士達が年齢とどのように戦ったのかを調べてみました。
以下の図は、過去30年の公式戦の勝率(縦軸)を、対局時の年齢(横軸)別に計算したものです。
(注:「年齢」は「対局年度-誕生年」の近似値を使用しています)
15歳以下と65歳以上はサンプル数が少ない(15歳以下は藤井聡太六段しかいません)ので近似曲線との誤差が大きくなっていますが、その間の年代は綺麗に右肩下がりの直線を描いています。近似曲線を参考にすると、年齢が一歳上がるごとに平均勝率は約0.9%下がって行きます。
また、平均勝率のピークは(15歳以下を除くと)19歳に訪れ、68%です。
しかし、実際の棋力のピークは、以下の要因によりもう少し先にあると思われます。
また、自己最多タイトル数を大雑把な棋力のバロメーターだとすると、過去に3冠以上を同時に保持したことがある棋士の多くは、(若手時代に棋戦数が少なかった大山を除くと)タイトル数が自己最多となったのは25~30歳の間です(中原、谷川、羽生、渡辺。例外は米長、森内)。
平均勝率のピークとタイトル数のピークを総合すると、棋士の指し盛りは25歳前後だと言えそうです。
膨大な数の公式戦のデータが年齢と勝率の間にこれほど強い相関を示している以上、一流棋士と言えども30代以降に若手時代と同じ成績を維持することは至難の業です。しかし、若くして才能を開花させた棋士の多くは、年齢を重ねても世代平均は上回る勝率を残し続けています。
例えば、先のグラフの近似曲線から求められる期待勝率と実際の勝率を比べた際、初の中学生棋士となった加藤一二三九段は、引退までの直近30年間で期待勝率を下回ったのは僅か7年のみです。同じく中学生棋士の谷川浩司九段も、やはり直近30年で6度しか期待勝率を下回っていません。加齢による直線的な読みの能力や反射神経の衰えは避けられないものの、大局観や構想力といった感覚的な才能は比較的変わらないのかも知れません。
さらに別格の凄みを感じさせるのが大山康晴15世名人です。晩年は体調を崩されたこともあり、勝率が5割を割ることも珍しくありませんでしたが、年齢に基づく期待勝率を下回ったことは記録が残っている39年間の中で一度もなく、引退の3年前には棋王戦挑戦も果たしています。大山15世名人のあまりに偉大な実績の前では見落とされてしまいがちですが、将棋界全体の年齢と勝率の関係を考慮すると、69歳にして順位戦A級というのが、今後最も達成困難な記録なのではないでしょうか。
ちなみに羽生竜王も、年齢に基づく期待勝率を下回った年は、若手時代に1年あるのみです。
藤井六段の勝率は別格としても、20代前半の若手棋士が7割を超す高勝率を上げることが珍しくない将棋界。しかし、過去の公式戦のデータを見る限り、このような勝率は年齢によるアドバンテージの範囲内です。棋士としての真価は、この成績を複数年に渡って維持してタイトル獲得などの結果に繋げられるかどうかと、30代を過ぎてからいかに年齢的な衰えに対抗出来るかどうかにかかっているのではないでしょうか。