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渡辺棋王が谷川九段に勝利、中盤の迫力満点の斬り合いを徹底検証

第66期王座戦決勝トーナメント1回戦、渡辺明棋王vs谷川浩司九段の対局は、112手で渡辺棋王が勝利しました。


トップ棋士同士の迫力満点の中盤のねじり合いを検証します。

渡辺棋王(左)、谷川九段。出典:日本将棋連盟

「光速流」の踏み込み

先手の谷川九段が得意の角換わりを目指したのに対し、渡辺棋王が角道を止める雁木模様の立ち上がりに。

後手が△7五歩とジャブを繰り出した局面。▲同歩、△6四銀、▲7四歩と自然に進める手順も有力でしたが、守勢に回ることを嫌った谷川九段が手抜いて▲2四歩、△同角、▲4五歩と攻め合ったことで局面は風雲急を告げました。

最近の谷川九段は以前にも増して序盤から斬り合い志向が強いように感じられ、勢いのある若手を一刀両断にするような鋭い将棋も目立っています。

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ただし、本局では△7六歩と先手で取り込まれたのは大きく、また平凡な▲同歩でも不満のない展開に思えたため、結果的には指し過ぎだった可能性はあります。

迫力満点のねじり合い

後手が△2二玉と上がった局面。先手の角筋に入るだけに思い切った一手ですが、8五飛や4二銀の守備力が強いため、例えば▲4四歩、△同銀、▲4五歩、△3三銀引、▲2五桂のような攻めには黙って△7三桂と跳ねておき、銀桂交換でも玉の堅さや歩の枚数の差で後手が十分だと見ています。

そこで谷川九段は▲2五飛とひねった攻めを繰り出しました。次の▲4四歩(△2五飛には▲4三歩成が王手)を防いで△7三桂と飛車にひもをつけますが、そこで▲1五歩、△同歩、▲同香、△同角と歩を入手して▲7四歩と打ちます。後手は△6五桂と逃げる一手です。

先手が好調に攻めているようですが、香損の上に後手の角や桂を手順に働かせてしまう意味もあり、成否は微妙です。例えばここで▲7三歩成のような手では△7七歩成、▲同桂に△3七角成と強襲され、▲同金でも▲8五桂でも△7六桂と急所に打たれる手が厳しく先手がいきなり敗勢になります。また、▲6五同銀、△同飛、▲4四歩も浮かびますが、△6六飛と攻めの要の角を外されると、▲4三歩成、△4六飛、▲3二とで金を2枚はがすことは出来るものの、それ以前の駒損が大きく先手が勝てません。

しかし谷川九段も▲4四歩、△同銀、▲6五銀と最善の手順で応じ、△6四歩の催促に▲5四銀(!)といかにも「光速流」という踏み込みを見せます。△2五飛と取る一手に、▲4三銀成、△同銀、▲2五桂と進みます。

渡辺棋王が逃げ切る

この手順はここで△4八角成と金をただで取れるため、「後手優勢」で読みを打ち切ってしまいそうですが、実際は△4八角成だと先手玉が瞬間的に詰めろが続かない形になるため、▲4五歩と攻め合われて形勢不明の激戦になります。しかしここで渡辺棋王が△7七香と速度重視の踏み込みを見せたのがさらなる妙手で、ようやく後手の1手勝ちが見えてきました。

先手玉は土俵際まで追い詰められていますが、▲9六歩が粘り強い一手。対して△8五飛、▲9七玉、△7五飛と平凡に進めていれば、△2五飛と急所の桂を外す手が残るため後手勝勢でしたが、△7五飛の瞬間は先手玉が絶対に詰まない形(しかも桂を渡さなければ詰めろを掛けることさえも難しい形)になるため、実戦的にはかなり指しづらい手でしょう。

実戦は△2九飛と、△6八馬以下の詰めろを掛けながら2五桂を外しに行きましたが、これにより先手も入玉を目指して頑張れる形になりました。しかし上部脱出の代償として駒をかなり取られる展開となり、最後は入玉をほぼ確定させたものの9一竜を捕獲され、後手玉を寄せ切ることも持将棋に持ち込むだけの点数を確保することも絶望的となったところで、谷川九段のやや早めの投了となりました。

復活への道

本局の中盤戦は激しい斬り合いの中に難解な変化が多く潜む見ごたえある応酬が続きましたが、両者が最強の指し手を繰り出し続けた結果が△7七香の局面なのだとすると、やはり結果的には中盤の入り口で先手が△7六歩の取り込みを許してまで攻め合いに出た構想にやや無理があったのかも知れません。

勝った渡辺竜王は準々決勝で菅井竜也王位vs行方尚史八段の勝者と対戦します。まさかのA級陥落を喫した昨年度の不振を受け、「客観的に見て、もう自分が名人戦に出るとは思えません」(「将棋世界」2018年5月号)と語られたのには多くのファンが衝撃を受けましたが、翌月号の棋王防衛後のインタビューでは今年度の目標を「具体的には複数冠に、そして順位戦でもA級に戻ることです」と明言されています。いずれの発言も自身の考えを包み隠さず語る渡辺棋王らしいもので、少なくともA級陥落による精神的なショックが今後も尾を引くことはなさそうです。

まさかのA級陥落となってしまった渡辺明棋王。降級枠が3名と例年より多かった不運にも泣かされましたが、今期は勝率がプロ入り以来初めて5割を切り、竜王位を失うなど、試練の年となっています。 出典:朝日新聞ここでは過去の実例などを元に、渡辺棋王が来年以降...
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とはいえ、渡辺棋王が今年度中に複数冠へ復帰する可能性がある棋戦は王座戦と王将戦しか残されていません(トーナメント制の予選が圧倒的に多い将棋界においては、一度でも敗れると殆どの棋戦では挑戦するまでに最速でも一年以上かかります)。王座戦決勝トーナメントには羽生竜王、佐藤名人、久保王将、藤井六段らそうそうたる面々が名を連ねていますが、完全復活を内外に印象付けるためにも、この棋戦では是が非でも勝ち進みたいところです。

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