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「悔しい」棋士達の奮闘:谷川九段、佐藤九段、豊島八段の勝局を振り返る

昨夜まで行われていた名人戦第1局の熱戦の興奮がまだ冷めやみませんが、その裏では多くの好カードが組まれていました。


昨年度「悔しい」思いをした、谷川浩司九段、豊島将之八段、佐藤康光九段の勝局を振り返ります。

左から、谷川九段、佐藤九段、豊島八段。出典:日本将棋連盟

谷川九段、緩急自在の指し回し

王位戦挑戦者決定リーグ、谷川浩司九段vs木村一基九段戦。後手の木村九段の雁木から相雁木に進展した戦いは、両者の棋風通り「光速流」谷川九段が先攻し、「千駄ヶ谷の受け師」木村九段が受けながらカウンターを狙う展開に。

1筋で得た香を使用し左辺で駒得を拡大した谷川九段が指せそうな局面ですが、9筋の傷も気になるところです。反射的に左辺を受けてしまいそうですが、谷川九段は▲1五歩、△同歩、▲2七桂と強く踏み込みました。次の▲1五桂が激痛なため後手も△3二玉と受けるしかありませんが、以下▲1五桂、△1四金まで形を決めてから、一転して▲9二歩と左辺に手を回したのが緩急自在の指し回しでした。1五桂が後手玉への強烈なプレッシャーとなり、後手は強い戦いが出来ない形です。以降は左辺で駒を入手してから一気に後手玉を攻略し、谷川九段が快勝しました。

谷川九段はここ数年は不本意な成績が続いていましたが、昨年度は関西の若手実力者を力でねじ伏せる将棋が何度も見られ、復調の兆しを見せています。そして王位戦ではJT杯とNHK杯で優勝した山崎隆之八段や、8割近い高勝率を記録した大橋貴洸四段などを予選でなぎ倒し、リーグ入りを果たしました。

王位リーグは村山慈明七段と羽生善治竜王に連敗する苦しいスタートとなりましたが、昨日の勝利をきっかけに残り2戦も光速流らしい好局を期待したいところです。

光速流復活の兆し、谷川九段が菅井王位に快勝

佐藤九段、豪打で郷田九段を沈める

竜王戦1組出場者決定戦、佐藤康光九段vs郷田真隆九段戦。後手の佐藤九段のダイレクト向かい飛車に対し、郷田九段は持久戦策を取ります。しかし、先手が▲9八香と穴熊を匂わせた瞬間に佐藤九段が右辺で巧みに戦機を捉え、自然に駒得を重ねてリードを奪います。

後手優勢ながら玉形差が大きく、まだ大変に見える局面ですが、ここで△8六銀と取られる寸前の銀を捨てた手が妙手でした。▲同銀と取らせてから△1八馬と香を補充し、▲2三銀、△8五香と進んだ局面は、後に△7七歩と叩く手が厳しく、持ち駒がない先手は粘りが利かない形です。以下は先手の必死の追撃を冷静に見切った佐藤九段が1手勝ちを収めています。

昨年度は会長職の激務によりやや勝率を落とした佐藤九段ですが、それでも叡王戦はベスト8、順位戦でもプレーオフまでそれぞれ勝ち進むなど、上位へ食い込む活躍も見せています。名人戦第1局の前夜祭の挨拶では「実は私もプレーオフに出場しまして」と自虐的なジョークを飛ばして笑いを誘っていましたが、プレーヤーとして再び大舞台に登場する姿を待ち望むファンは多いはずです。

個人的には、叡王戦と順位戦プレーオフで見せた和服姿は、ご本人のタイトル戦出場に懸ける闘志の表れだと確信しています。

豊島八段、手筋一閃

竜王戦1組準決勝、松尾歩八段vs豊島将之八段戦。勝者は決勝トーナメント進出が決まる大一番は、豊島八段の先手で角換わり腰掛銀へ進みます。中盤で馬を作った豊島八段がリードを奪うと、一転してその馬を切って端から松尾玉に襲い掛かりました。

香を死守する△2三角はやむを得ない受けですが、ここで▲4四歩と突いた手が絶好の一手になりました。△同銀には▲2三飛成、△同金、▲3二角で後手陣は崩壊します。本譜の△3四銀にも▲3五歩の追撃が厳しく、以下は△8六歩、▲3四歩、△4四飛に▲2三飛成から豊島八段が冷静に寄せ切りました。

昨年度は前半の爆発的な勝ちっぷりと、王将戦と順位戦プレーオフが重なった3月の超過密日程の中での奮闘が評価され、将棋大賞敢闘賞を受賞した豊島八段。しかし7割近い勝率を未だに維持したままA級まで上り詰めている豊島八段の通算成績からすると、4度のタイトル挑戦でいずれも栄冠をつかみ損ねている現実は不思議としか言いようがなく、「敢闘賞」という言葉も「残念賞」のように響いてしまいます。昨年度の悔しさをバネに、今年こそは悲願の初タイトルを手にすることが出来るでしょか。

豊島八段は竜王戦1組決勝では広瀬章人八段vs稲葉陽八段の勝者と戦います。1組優勝者は竜王戦決勝トーナメントはベスト4からの出場となり、タイトル挑戦に大きく近づきます。1組2位はベスト8からの出場となります。

今年は「敢闘賞」とは言わせない!豊島八段が久保王将に快勝

「君たち、悔しくないのか」

藤井聡太六段が2月に朝日杯優勝を果たした際、谷川九段は以下のようにコメントしています:

名人と竜王を破っての優勝は見事ですが、但し、20代・30代の棋士に対しては、「君たち、悔しくないのか。」と言いたい気持ちもあります。

日本将棋連盟

谷川九段は自身が20~30代の頃に羽生七冠誕生を許すという屈辱を味わいながら、その後に何度もタイトルを獲得するなど羽生世代と大舞台で戦い続けました。「20代・30代の棋士」である豊島八段はもちろん、40代の佐藤九段も、若手時代に羽生竜王という圧倒的な存在に対抗心を燃え上がらせた経験が谷川九段の発言によって呼び起こされたかも知れません。

「君たち、悔しくないのか」:藤井六段の朝日杯優勝で奮起した棋士達

羽生竜王や藤井六段の活躍に注目が集まる昨今の将棋界ですが、その陰で「悔しさ」を募らせる実力者達の奮起からも目が離せませんね。

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