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名人戦第4局は佐藤名人が快勝、周到な研究と抜群の安定感を徹底検証

第76期名人戦七番勝負第4局は、79手で佐藤天彦名人が羽生善治竜王を下し、通算成績を2勝2敗の五分に戻しました。


出典:Abema TV

佐藤名人の序盤研究の深さと、名人戦での抜群の安定感が存分に発揮された快勝譜を検証します。

意表の戦型選択

後手の羽生竜王が横歩取りへ誘導し、佐藤名人の青野流に対して序盤早々から大決戦を仕掛けました。

早くものっぴきならない展開ですが、驚くべきことにこの局面は、僅か2日前に王位リーグ(対松尾八段戦)で羽生竜王が先手を持って55手という短手数で勝った将棋と同一だということです。

第59期王位戦挑戦者決定リーグは最終戦が一斉に行われ、紅組では羽生善治竜王が松尾歩八段に55手で、白組では豊島将之八段が佐々木大地四段に83手でそれぞれ勝利しました。紅組は羽生竜王の単独優勝、白組は豊島八段と澤田真吾六段によるプレーオフとなりました。ヒ...
羽生竜王と豊島八段が圧巻の快勝、棋聖戦を占う王位リーグ最終戦を徹底検証 - 将棋を100倍楽しむ!

公式戦では2局しか前例がない(しかも初めて指されたのは僅か3日前)戦型をあえて採用したからには、羽生竜王は対松尾戦での読みの蓄積と事前研究の中で後手側の秘策を発見していたはずです。自身が先手を持って快勝したばかりの将棋を後手番でも採用するとはあまりにも想像しづらく、佐藤名人も意表を突かれた、と思われたのですが・・・

周到な事前研究

△5五角に対し、佐藤名人は比較的短い考慮で羽生vs松尾戦と同じく▲8七銀と応じ、△同飛成、▲同金、△9九角成に、僅か3分で▲2三歩と新手を放ちました。

一見するとぼんやりした手に見えますが、△8九馬には▲2二歩成を用意して後手の指し手を制限しています。後手は手が広い局面ですが、△3三桂は▲2一飛、△3三金や△3三馬には▲3五飛で思わしい手がないようです。

羽生竜王は1時間20分近い長考の末に△4四馬と応じましたが、▲同飛、△同歩に▲1六角の王手が絶好の味で、△4三香と持ち駒を投入せざるを得ないようでは早くも先手がややリードを奪いました。

封じ手は大方の予想通り▲5六角でした。この時点で持ち時間に2時間弱もの差がついており、羽生竜王が一日目から苦慮されていた様子が伺えます。そしてこの後も佐藤名人の指し手は的確を極めました。

名人の独壇場

羽生竜王が△7二金と上がった局面。後手は将来的に▲8三歩と打たれると、貴重な戦力である持ち駒の銀を温存して8筋を受けるためにはいずれ△7二金と上がらざるを得なかった局面ではありますが、ここで▲2二歩成、△同銀、▲3二角と踏み込んだのが当然ながら厳しい攻めでした。

△3一飛などと桂を受けても▲2一角成、△同飛、▲6四桂が痛烈で、後手陣は崩壊します。本譜はやむなく△7三桂、▲8七飛に△1三桂と逃げ、▲2一角成、△2七歩、▲2九歩、△2四飛と進行しました。

後手が何とか局面の均衡を保とうと粘っていますが、ここでじっと▲3九金と寄った手が冷静な決め手で、先手優勢がはっきりしました。部分的には3筋の金銀が壁となるため指しづらい手ですが、飛車を使わされた後手はこれ以上の反撃手段がないため、長引けば2一馬の存在が大きく先手が自然と勝ちに近づく形です。

羽生竜王もじり貧を避けるためにやむなく△4二玉と攻めを催促しましたが、▲8三歩が当然ながら厳しい追撃となりました。△3二銀、▲8二歩成、△同金、▲3二馬、△同玉、▲6三角成と進み、後手陣は収拾がつかない形です。以下は佐藤名人の着実な寄せを見るばかりとなり、夕食休憩直後に早い終局を迎えました。

自身が数日前に先手番で勝ったばかりの戦型を後手番で採用するという羽生竜王の意表の戦型選択を、完璧に咎めて快勝した佐藤名人。事前の研究が大きくものを言ったことは間違いありませんが、オールラウンダーの羽生竜王に対してこの戦型に絞って研究していたわけではないはずなので、かなりの数の戦型で本局と同等の深さの研究を常に用意されているということなのでしょう。いずれにせよ、名人戦という最高峰の舞台で羽生竜王がこれほどリードを奪われたという事実は重く、青野流に対する本譜の急戦策(△2六歩~△8八角成~△2七歩成~△5五角)が今後公式戦で現れる可能性は極めて低くなったと思われます。

受けに定評がある佐藤名人は元々優勢な将棋を危なげなく勝ち切る技術に優れたタイプではありますが、特に名人戦では2年前の初登場以降、佐藤名人が勝たれた10局の将棋は2年前の第2局を除くと全て快勝と言っていい内容になっています。羽生竜王が本局ほど差をつけられて敗れることも極めて珍しく、それほど9時間という名人戦の持ち時間が佐藤名人の棋風に適しているということなのでしょう。

一方の羽生竜王は、本局を含め直近の後手番の公式戦は3連敗となりました。先手番を含めた全体の勝率は安定しており、王位戦では挑戦者決定戦へ進出するなど、調子を崩されているとはとても思えませんが、名人戦第2局、王位リーグ(対木村九段戦)、そして本局と、後手番では立て続けに序盤でリードを奪われていることは懸念材料でしょう。次に後手番を迎える第6局ではどのような戦型を選択されるのでしょうか。

第59期王位戦挑戦者決定リーグ、羽生善治竜王vs木村一基九段の対局は、85手で木村九段が勝利しました。 出典:Abema TV「千駄ヶ谷の受け師」の強襲後手の羽生竜王の横歩取りに対し、木村九段は青野流に構えました。オールラウンドプレーヤーとして有名な羽生竜王です...
木村九段が羽生竜王に勝利:混戦の王位リーグと名人戦への影響を考察 - 将棋を100倍楽しむ!
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