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木村九段が羽生竜王に勝利:混戦の王位リーグと名人戦への影響を考察

time 2018/05/03

第59期王位戦挑戦者決定リーグ、羽生善治竜王vs木村一基九段の対局は、85手で木村九段が勝利しました。


出典:Abema TV

「千駄ヶ谷の受け師」の強襲

後手の羽生竜王の横歩取りに対し、木村九段は青野流に構えました。オールラウンドプレーヤーとして有名な羽生竜王ですが、最近の後手番では早指し棋戦以外は横歩取りの採用率が高い印象です。現在挑戦中の名人戦でも佐藤天彦名人の得意戦法である横歩取りが今後も出現する可能性が非常に高いことも影響しているのかも知れません。

しかし本局は木村九段が非常に積極的な指し回しを見せ、後手としては課題が残る序盤となりました。

8五歩と高い位置で飛車筋を受け、2枚の桂の活用を優先させるなど、先手はいかにも青野流らしい速攻の構えですが、ここで木村九段はさらに▲4五桂と飛んで仕掛けました。△4四角、▲2二歩、△同角にさらに▲6五桂と跳ねたのが狙いの一手で、△同歩なら▲2二角成~▲3一角で後手陣は崩壊します。

羽生竜王は△4四歩と角交換を拒否して受けましたが、▲5三桂右成、△同銀、▲同桂成、△同玉、▲8四歩と進んだ局面は、後手がやや駒得ながら玉形と大駒の働きにかなりの差があり、実戦的には先手がかなり勝ちやすそうな局面です。

攻め合いに活路

数手進んで▲6六角と出た局面は飛車交換が濃厚となり、玉形が勝る先手が順調に指しているようですが、あっさり△3五桂と取り、▲8四角に△3七歩から攻め合いに転じられてみると、いつの間にか先手陣にも嫌味が生じています。△3七歩に▲同銀と取ればやや先手が指せそうでしたが、本譜は▲2九銀と引いたため混戦になりました。

▲6六角には△8七飛成と金を取ってから△3五桂が自然ですが、じっと▲同歩と取られた局面は6六角が攻防に利く絶好の位置にいるため、8七金が取れない代わりに3五桂が生きていてかつ先手の角が8四で遊んでいる本譜との比較は微妙です。

ちなみに、△8七飛成には▲5四銀という返し技も見えます。△同玉、▲8七銀、△3五桂に▲5五飛と打つ狙いですが(単に▲8七同銀、△3五桂に▲5四銀だと△4二玉と逃げられます)、△3五桂に代えて飛車を取らずに△4五桂(!)と打つ手があり、後手が良くなります。ほぼ一直線に見える僅か数手の斬り合いの中にもこれだけ難解な変化が潜んでいる辺りは、いかにもトップ棋士同士の中盤戦です。

素朴な決め手

羽生竜王の猛攻を木村九段が受けながら反撃のチャンスを伺う展開が続いていますが、ここで△4七角と打った手が結果的に敗着になりました。▲7一飛、△5二金に▲4一飛成と成ったのが持ち駒がない後手には意外と受けづらい一手で、△4二金左、▲2一竜、△2九角成に▲2三竜と手順に銀を入手し、以下は木村九段が手堅く勝ち切りました。

▲4一飛成に△4二金右と受ける手もありましたが、▲5一飛成、△5二歩に▲5六歩が気づきづらい妙手で、急所の5五桂への当たりと▲3五角の王手竜取りを同時に受けることが出来ず後手が勝てません。

△4七角では△9九飛成と香を補充しておけば依然として難解な形勢でした。先手は▲5八金からもうしばらく受ける手と▲7一飛と攻め合う手のいずれも有力で、方針の分かりやすさという観点からはどちらかといえば後手が勝ちやすい将棋だったかも知れません。本譜と同じように▲7一飛と攻め合うと、▲2一竜の時に△4六香~△4九香成と金を取り、▲2三竜に△3三金打と竜取りで受けられることが大きく、激戦が続きそうです。

△9九飛成は難解な局面で相手に手を渡して難しい選択を迫るいかにも羽生竜王らしい一手だっただけに、それを見送って△4七角を選んだのはもしかすると▲4一飛成と素朴に成る手の厳しさをやや軽視されていたのかも知れません。

本局は木村九段が青野流らしい非常に積極的な仕掛けを見せましたが、その後はいつの間にか羽生竜王の猛攻を先手が受け続けるというこの両者らしい展開が繰り広げられました。手数こそ横歩取りらしく短手数だったものの、随所に難解な変化が潜む濃密な将棋でした。

王位リーグと名人戦

木村九段はリーグ戦の成績を2勝2敗に戻し、紅組プレーオフ進出の可能性を残しました。羽生竜王が最終局に敗れることが絶対条件という厳しさはありますが、王位リーグのプレーオフは同星が3人以上出た場合は該当者同士の直接対決の成績上位者2名によるプレーオフとなるため、羽生竜王が敗れた場合は本局の対羽生戦の勝利はかなり物を言いそうです。

また、4-5月に公式戦が少ない将棋界において、王位リーグは名人戦の期間中に勝負勘を維持出来る貴重な対局機会であるため、現在名人戦を戦っている羽生竜王にとっては王位リーグの内容は名人戦にも多少は影響を及ぼしそうです。過去には中原16世名人が王位リーグに出場することによる名人戦への好影響を語っておられましたし、直近15年の名人戦を見ても、出場者のどちらかのみが王位リーグにも所属していた年にはその棋士が5勝2敗と勝ち越しています。

羽生竜王は王位戦はこれで3勝1敗となり、依然として紅組暫定首位に立ってはいるものの、本局の序盤は不満が残る展開だった気がします。名人戦では後手番の第2局では角換わりで完敗しており、現在流行している青野流への対策が思わしくなかったとすると、角換わりや横歩取りで修正案を用意出来なければ後手番では戦型の幅が限定されてしまいます。5日後に迎える名人戦第3局は羽生竜王の先手番ですが、第4局以降は羽生竜王の後手番での戦型選択も注目されます。

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