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藤井七段が都成五段に勝利、「藤井ゾーン」と相手を威圧する終盤力を徹底検証

第31期竜王戦決勝トーナメント1回戦、藤井聡太七段vs都成竜馬五段の対局は、藤井七段が104手で勝利しました。


出典:Abema TV

相手に傾きかけた流れを食い止めた「藤井ゾーン」の隠れた妙手と、相手の判断を誤らせた終盤力を検証します。

相雁木

先手の都成五段の雁木に対し、藤井七段も同じく雁木で対抗しました。先日行われた王座戦の深浦九段戦でも後手番で相雁木を採用しており、本局も漠然と先後同型に進むと打開が難しい先手側に工夫が求められる展開となりました。

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その都成五段の工夫が自ら守備の要を繰り出す▲5六銀でした。非常に浮かびづらい一手ですが、△4五歩を防いで4六銀を安定させれば、後手の3四銀の不安定さの方がより負担になるだろうと見ています。△4三金左には▲3五歩、△4三銀には▲3五銀があるため、後手も形よくまとめることは難しいようです。

本譜は藤井七段が△3三金と悪形を受け入れて先手の攻めを防ぐことを選んだため、▲6七金、△3二玉以下駒組が続きました。

驚異の辛抱

一手一手に時間を使う神経戦が続きましたが、自然に組み合ってみると先手の二枚の歩超し銀が機能しておらず、都成五段の工夫は結果的にうまく行きませんでした。しかしここで▲3六歩(!)と辛抱したのが本局に懸ける意気込みを感じさせる一手でした。自らの仕掛けの失敗を認める一手ですが、後手からの△3五歩~△3六歩を消して、自分からは決して自滅しないという強い意志が表れています。解説者が思わず絶叫してしまったほど(管理人も釣られて絶叫してしまいました)非常に指しづらい一手でしたが、この辛抱がこの後実を結びます。

夕食休憩前に都成五段が▲6八金と手待ちをした局面。藤井七段はこの時点で持ち時間を1時間以上多く残しており、後手番ということもあり千日手を受け入れても何ら不満はありませんでしたが、本譜は形勢有利と見て△7二銀、▲7八金引、△8三銀と打開しに行きました。しかし結果的にこの構想はやや危険で、▲3五歩、△7二銀に▲4五桂(!)と跳ねたのが攻めを繋げる強手でした。△同歩に▲3四歩と進み、懸念だった2枚の銀をさばく目途が立った先手が息を吹き返します。

藤井ゾーン

▲3四歩に△同金、▲4五銀左と進んだ局面。後手は桂得ながら左辺の金銀が遊び気味で、玉頭を強襲されて非常に怖い状態でしたが、ここで△3三歩と埋めたのが腰の入った受けでした。以下▲3四銀にも△同銀とあくまで3三の地点を死守し、先手に決定打を与えません。

△3三歩のように玉の近くの3段目に歩を埋める手は藤井七段が好む受けですが、将棋ソフトが台頭する前までの棋士の感覚では、進展性の無さから違和感を覚える指し手でした。本局も△3三歩に対して先手が明確にリードを奪う手順は見当たりませんでしたが、空間を歩で埋めることによる守備力上昇のメリットを、藤井七段は他の棋士よりも正確に認識しているのでしょう。

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「信頼」の強さ

数手進み、後手が△2三歩と受けた局面。終盤に差し掛かった場面で飛車を逃げて手番を明け渡すようでは勝機はなさそうですが、▲3四飛と切っても△同歩、▲4四角、△5二金で、次の△6九銀や△3八飛が猛烈に厳しく先手が勝てません。本譜は先に▲4四角と打つ勝負手を放ちましたが、冷静に△2四歩と取られ、▲6二角成に△6九銀、▲6八金打、△7八銀成、▲同金、△3八飛、▲6八金打と持ち駒を使わせるだけ使わせてから△8二飛と手を戻したのが決め手となり、先手の攻め駒不足がはっきりしました。この後は藤井七段の着実な寄せを見るばかりとなりました。

△2三歩の局面では、怖くとも開き直って▲2八飛と引いておけば意外と大変だったようです。すぐに△6九銀には▲6八金寄、△4九角、▲7七金打で簡単には潰れませんし、△6五歩や△4九角のようなやや遠巻きな攻めなら▲3五歩、△4三銀に▲5六角と2筋を狙う手が単純ながら受けづらい形で、先手にも十分勝機がある展開でした。

とはいえ、先述の通り先手玉が薄く後手の攻め駒が豊富な状況で、直感的には飛車を逃げるだけの一手では勝てないと判断するのは自然な感覚ではあります。ましてや都成五段はこの時点で残り20分を切っており、手番を渡さなければならない相手が藤井七段とあっては、寄せられてしまうという恐怖を振り解くことは困難でしょう。藤井七段の終盤力への絶大な信頼が、終盤力を発揮する前から相手の判断を誤らせたとも言えるかも知れません。

勝った藤井七段は29日に2回戦で増田康弘六段と対戦します。両者は昨年度の竜王戦では1回戦で対戦し、藤井七段が史上最多となる29連勝目を挙げています。この一年でさらなる進化を遂げた西の天才に対し、東の天才はどのように立ち向かうのでしょうか。

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