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藤井七段が深浦九段を下し王座戦準決勝進出、底知れぬ快勝譜を徹底検証

time 2018/06/22

第66期王座戦決勝トーナメント準決勝、深浦康市九段vs藤井聡太七段の対局は、藤井七段が120手で勝利しました。


出典:Abema TV

両者ともに手が広いじりじりとした序盤が非常に長く続きましたが、終わってみれば藤井七段が着実に差を広げての快勝となりました。改めて底知れぬ強さを感じさせた一局を検証します。

神経戦

先手の深浦九段が得意の雁木を目指したのに対し、藤井七段も同じく角道を止めて相雁木模様の出だしとなりました。

このまま相雁木の先手後手同形に進むと先手からの打開がやや難しい、というのがプロ間での最近の見解のようですが、本局では深浦九段がここで▲3八飛から3筋の歩の交換を目指す工夫を見せました。以下△6三銀、▲3五歩、△同歩、▲同飛と進み、△4二角のように反撃含みで指す手も考えられましたが、藤井七段が△8一飛から右玉へ構えたことで長い駒組が続く展開となりました。

ついに開戦

先手が▲9八香と、▲6八玉~▲9九飛の地下鉄飛車を見せた手に対し、藤井七段が△6一玉と早逃げした局面。お互いに手が広くじりじりと間合いを図り合う指し手が続いていましたが、夕食休憩直前に深浦九段が▲2四歩と仕掛けたことでようやく戦いが始まりました。

以下△同歩、▲2二歩、△3三桂、▲2一歩成に、今度は一転して後手が△9五歩と9筋から反撃しました。

異筋の最善手

本譜はここで▲1一とと香を取りましたが、△9六歩、▲6五歩に△5二玉が非常に味の良い一手となり、後手がリードを奪ったようです。先手が期待する▲8四香に対して8一飛の横への可動域が広がったことが大きく、9筋からの後手の確実な攻めを上回る手段がありません。

そのため、結果的には△9五歩には▲同歩と取り、△6五歩に▲8八玉と顔面受けで頑張るしかなかったようです。とはいえ、△6一玉と後手玉が早逃げしているのに比べ、自ら▲8八玉と戦場へ近づかなければならないこの手順は実戦的には相当指しづらい手ではあります。▲1一とと駒得をする楽しみや、9筋からの反撃の味、▲5七角の潜在的な9筋への効きなどを総合すると、実際は先手も戦えそうではありますが、後手にも△2五桂と攻め駒を補充する手段があり、やはり先手にとっては自信が持てる展開ではないでしょう。

大差の一手勝ち

9筋を破りつつ駒得を果たした藤井七段が優位を広げていますが、6二金を睨む先手の8筋の大軍もかなりの迫力で、方針を誤ると一気に逆転し得る情勢です。しかしここで△5一角と一転して自陣へ手を戻したのが冷静な一手でした。

▲7三桂成とされると依然として駒の数が足りていないだけに怖い形ですが、△同金、▲同成香に△8三歩が妙手で、角を渡すと△7七角から詰まされる先手が明らかに一手負けになります。深浦九段はやむなく△5一角に対して▲6六銀と受けに回りましたが、そこで△9八香成もまた相手の剣先を完全に見切った落ち着いた勝ち方で、▲7三桂成に△7一香と催促され、攻めを切らさないためには駒を大量に渡さざるを得なくなった先手は手段に窮しました。

▲6一銀不成まで、先手は手段を尽くして何とか後手玉を詰めろまで追い詰めましたが、藤井七段は満を持して△7八とから反撃に出ます。▲同玉には△9六角から長手数の即詰みがあるため▲5九玉しかありませんが、△6八金、▲4八玉、△5八金(取ると詰み)、▲3八玉に、△4八金が当然ながら厳しい決め手で、▲2七玉なら詰みこそないものの、そこで△5一金と手を戻されると先手陣は収拾困難で見込みがありません。

本譜は△4八金に▲同玉と首を差し出し、△5七金、▲同銀、△同桂成、▲同玉、△6六角までで藤井七段の勝ちとなりました。中終盤の粘り強さは天下一品の深浦九段をもってしても、終盤では半ば形づくりのような綺麗に斬られる手順しか残されておらず、終わってみれば藤井七段の快勝と言っていい内容でした。

底知れぬ強さ

夕食休憩前まで長い駒組が続いていた時点では、実際の形勢は難解でも、混沌とした終盤で驚異的な粘り腰を発揮する深浦九段が得意の展開に持ち込みつつあるかと個人的には思っていました。昨年12月の叡王戦で藤井四段(当時)を相手に苦しい将棋を粘り倒して逆転勝ちしたイメージはそれほど強く、最近では序盤からリードを奪ってそのまま圧勝してしまう将棋も多い藤井七段としても決して楽な展開ではなかったはずです。

しかし終わってみると、▲2四歩と仕掛けて以降は藤井七段が着実な指し手を積み重ねる中で徐々にリードを広げ、最後は一手違いの形を作るのがやっとという、プロ的には大差がつく結果となりました。深浦九段が中盤以降に明らかな疑問手を指したとはとても思えませんが、実戦的には非常に違和感のある▲9五同歩~▲8八玉という手順を逃してからは一度もチャンスの気配すら感じさせなかったのは、藤井七段の底知れぬ強さの賜物でしょう。

勝った藤井七段は準決勝で斎藤慎太郎七段と対戦し、その勝者が挑戦者決定戦で渡辺明棋王vs永瀬拓矢七段の勝者と戦います。タイトル保持者の渡辺棋王はもちろん、斎藤七段と永瀬七段もいつタイトルを獲得してもおかしくない若手トップクラスの強豪ですが、年明け以降24勝2敗(!)という驚異的な勝率を記録している藤井七段が挑戦権争いの本命であることはもはや疑う余地がないでしょう。史上最年少でのタイトル挑戦がいよいよ視野に入ってきました。

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