2018/10/16
オールラウンドプレーヤーとして有名な羽生竜王ですが、時折指される振り飛車でもその強さを遺憾なく発揮されます。そんな羽生流振り飛車の名局となった渡辺棋王との一戦です。
第60期王座戦五番勝負第4局
2012年10月3日
渡辺明2冠(1勝) vs 羽生善治2冠(2勝)
対局場:神奈川県泰野市「陣屋」
持ち時間:各5時間
王座戦では前人未到の19連覇を果たすなど、無敵の強さを誇っていた羽生2冠ですが、この前年には渡辺竜王にまさかのストレート負けを喫してタイトルを失っていました。しかし王座戦との抜群の相性は健在で、この年は当然のように挑戦者に名乗りを挙げ、第3局まで2勝1敗として奪還に王手を掛けます。
渡辺2冠の初手▲7六歩に対し、羽生2冠は△3二飛!
初見だとギョッとするような手ですが、▲2六歩から角頭を狙われても後手も十分戦えることがこの少し前に発見されていました。後手番で角道を止めずに三間飛車を指すためのギリギリの工夫なのですね。
渡辺2冠は左美濃を選択します。二十年ほど前に四間飛車に対して左美濃が流行しましたが、この局面自体もなんと1990年に行われた竜王戦第5局、谷川王位対羽生竜王と同じ局面です。最新の後手3二飛戦法から結果的に過去の流行型が出現する辺り、まさに温故知新といった感じですね。
この戦型らしく、双方の玉頭付近で戦いが始まっています。色々な手が目につきますが、△6四金打がなんとも手厚い一手でした。7四の傷が気になる後手玉でしたが、この一手で急に7五の位が逆に奪還できそうな局面になりました。
玉頭での総力戦へ
後手は目論見通り7筋の位を奪い返しましたが、先手もその間に大駒に活を入れ、ねじり合いが続いています。ここで羽生3冠は△7二飛!玉頭戦に戦力を加えつつ、△2二角と逃げる手を見せて先手に角を取る手を催促しています。
△3三角だと将来▲4四銀で簡単に止まりますが、2二へ引かれると先手陣への直射が防げなくなります。そこで▲6六銀と取るしかないですが、△同歩で6-7筋は完全に後手の勢力圏となりました。ただし、先手も▲4三角、△7一金、▲6八歩、△3三桂、▲8八玉、△5四歩、▲8七銀打と、玉型を再構築して徹底抗戦の構えです。
後手の左桂が5七まで跳躍していますが、その間に先手も後手玉へ迫っています。ここから△6九桂成と馬取りで迫りますが、▲7二金、△同銀、▲同馬、△同玉と切ってから▲6九金と手を戻し、依然として難解な形勢です。
激しい一手争いの中、後手が竜を切った局面です。この瞬間、先手玉は駒を何枚渡しても詰まない「ゼット」の形なので、▲7四桂、△9三玉、▲7二銀不成と迫ります。しかし後手も△7九角打、▲8八金打と、先手に合い駒を使わせてから一転して△9二金と受けに回りり、容易に倒れません。以下▲6九銀、△8八桂成、▲同金と進んでクライマックスを迎えます。
鬼手、「△6六銀」
先手玉に詰みはなく、一方後手玉は▲8三飛、△同金、▲同銀成、△同玉、▲8二飛、△7四玉、▲6六桂以下の詰めろです。しかしここで羽生2冠は当時誰も気が付いていなかった鬼手をひねり出します。
△6六銀!
先手から6六へ桂を打つ余地を消しながら、△8八角成、▲同玉、△7七銀成以下の詰めろを掛ける、詰めろ逃れの詰めろです。そのため▲同歩と取るしかないですが、銀を渡したにも関わらずこの瞬間後手玉は詰めろではなくなっています。
以下、△8九金、▲7八飛、△8八金、▲同飛、△8九金、▲7八金、△8八金・・・と進み、両者打開する手がなく、何と千日手になりました。
千日手指し直し局は羽生2冠が制し、1年で王座へ返り咲きます。しかし渡辺竜王もこの年は棋王と王将を奪取し、この両者が3冠ずつ持ち合うこととなりました。両者充実著しいこの時期の羽生vs渡辺戦には熱戦が多いですが、△6六銀はその中でも屈指の名手だったと思います。
コメント
[…] 将棋名局集「△6六銀」:渡辺vs羽生 第60期王座戦第4局 […]
by あの棋士愛用のブランドは?勝負を分ける、将棋界の眼鏡事情 | 将棋を100倍楽しむ! 3月 7, 2018 3:38 pm