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将棋名局集「△7七同飛成」:石田vs藤井、第31期竜王戦5組決勝

time 2018/06/17

先日行われた第31期竜王戦ランキング5組決勝にて、藤井聡太七段が石田直裕五段を破り決勝トーナメント進出を決めました。


将棋に限らずどのような競技であっても、時の洗礼を浴びた過去の勝負の評価はどうしても当時と比べると数段階下がります。しかし本局に関しては、今後数十年に渡って語り継がれるであろう絶妙手のインパクトがあまりにも強いため、時を待たずに「名局集」に追加させて頂くことにしました。

出典:Abema TV

第31期竜王戦ランキング5組決勝

2018年6月5日
石田直裕五段  vs 藤井聡太七段
対局場:関西将棋会館
持ち時間:各5時間

史上5人目の中学生棋士としてデビューし、史上最多の29連勝を達成してから約1年。藤井七段は朝日杯での棋戦初優勝を含め、年明け以降は22勝2敗と爆発的な勢いで勝ち続けていました。特に持ち時間5時間以上の対局(順位戦、竜王戦、王座戦)では佐々木勇気六段に29連勝を止められて以降は一度も負けておらず、前年のような一大フィーバーを巻き起こす気配が再び漂い始めていました。

対戦相手の石田五段はプロ6年目の29歳。2014年には加古川清流戦で優勝した実績があり、この年度も対局数は少ないながら4月以降全勝をキープしていました。

用意の作戦

先手の石田五段が角換わり腰掛銀へ誘導し、午前中から早いペースで指し手が進みました。

ここから▲4五銀、△6三銀、▲2五桂、△2二銀、▲3四銀、△2四歩、▲5六角、△4二玉と進みました。先手が桂損の代償に歩得を主張しながら主導権を取りに行くという、部分的には相居飛車でよくある展開となりましたが、そこで▲1三桂成(!)と何もない空間へ飛び込んだのが、石田五段の研究手と思われる妙手でした。

△同銀には▲2三銀成、△同香には▲2五歩、△同歩、▲2四歩が厳しいため、△同桂と取るしかありませんが、▲1五歩、△同歩、▲1四歩で取られそうだった桂を捌きながら端に傷をつけることに成功しました。

藤井七段は初手は必ず飛車先の歩を突くことに象徴されるように、序盤の作戦の幅が比較的狭いため、対戦相手にとっては事前研究がしやすいタイプではあります。本局は5組決勝という大舞台ということもあり、石田五段も並々ならぬ準備を整えた上で本局に臨んだと思われ、▲1三桂成はその氷山の一角だったのでしょう。

ただし実際の形勢はまだ難解で、藤井七段も△6五歩、▲同歩、△7五歩と反撃し、全面戦争へ突入しました。

一直線の斬り合い

数手進み、藤井七段が△3三歩と催促した局面。▲4五銀と引くようでは利かされなので、▲1三歩成の攻め合いが自然ですが、石田五段はさらに激しく▲4三銀成と踏み込みました。

瞬間的に銀損となる思い切った手段ですが、△同金とさせてから▲1三歩成と成った局面は、後の▲5五桂の傷を抱えた後手が急がされている局面です。

藤井七段はこの中盤の難所で夕食休憩をはさむ大長考に沈んだ末、銀取りを放置して△7六歩、▲同銀、△4七歩と攻め合いに出ました。先手も金取りにどう応じても味が悪い形で、勢い▲6四歩、△同銀、▲6三歩と壮絶な殴り合いへ進みます。

▲7二銀の傷があるだけに直感的には金を逃げる一手と即断してしまいそうですが、藤井七段は△同金とさらに踏み込みます。以下▲2二と、△4八歩成、▲7二銀、△8六飛、▲8七歩、△7六飛、▲7七歩と進んでクライマックスへ。

歴史的絶妙手

後手玉は次に▲6三銀成と取られると必至ですが、先手玉に詰めろを続ける手段も難しそうに見えます。しかし藤井七段は強烈な決め手を用意していました。

△7七同飛成(!)

飛車と歩を刺し違える強手が詰めろを継続させる唯一の寄せでした。以下▲同金に△8五桂も際どく詰めろとなり、▲7六金、△7八歩、▲同玉、△7七歩、▲8八玉に△7八銀で後手の勝ちが決まりました。変化は多岐に渡りますが、いずれも際どく後手の寄せが決まっており、後手玉は飛車と桂の持ち駒だけでは詰みません。

最終盤を迎え、ここで△6六角と捨てたのが最後の決め手で、▲同玉には△5五角以下の詰みがあります。石田五段の最終手となった▲6七玉には、際どい勝負であまりにも華麗な寄せを決められてしまった無念さが現れているようにも感じられましたが、これにも△7七金でぴったり捕まっています。

異次元の終盤力

感想戦では、藤井七段は▲6四歩と突かれた局面では11手先の△7七同飛成も可能性の一つとして見えていたそうです。しかし、夕食休憩後にさほど時間を使っていないことを踏まえると、もしかすると休憩前の▲1三歩成の局面での大長考の時点で、既に後の絶妙手を見つけていたのかも知れません。

敗れた石田五段は感想戦で▲6四歩と攻め合った手が「我慢が足りなかった」と振り返っておられましたが、この手を敗着だと認定してしまうのはあまりにも酷でしょう。将棋は本質的には妙手を指した者が勝つのではなく、ミスをした者が負けるゲームですが、本局に限っては藤井七段が絶妙手を指して勝った、という評価の方が真実に近い気がします。

この当時の藤井七段の将棋は序中盤で大差をつけてしまうことも多く、終盤力を発揮するまでもなく終わってしまう内容が目立っていました。例えば、一般的に最も有名な藤井七段の妙手と言えば、第11期朝日杯決勝の大舞台で指された▲4四桂でしたが、この将棋も藤井七段が序盤から圧倒しており、▲4四桂以外にも勝ち方が複数あったため、純粋に将棋の内容としての評価では「名局」とは言い難いでしょう。

本局に関しては終盤まで両者共に目立った疑問手は全くなく、形勢が拮抗していた中、一直線の攻め合いの中で唯一の勝ち筋となる「△7七同飛成」という絶妙手が登場したこと、及び藤井七段が十数手以上前からこの手を発見していたことに価値があります。対戦相手が限りなく最善に近い指し手を終盤まで続けなければ藤井七段の真の力を引き出すことさえできない、という事実が、藤井七段の現実離れした終盤力の凄みを物語っています。

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