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羽生竜王が広瀬八段に先勝、積極性溢れる最強の踏み込みを徹底検証

time 2018/10/12

第31期竜王戦七番勝負第1局、羽生善治竜王vs広瀬章人八段の対局は、羽生竜王が141手で勝利し、通算100期目のタイトル獲得へ向けて幸先の良いスタートを切りました。


最も激しい順に踏み込み続けた、昨年度の竜王戦を彷彿とさせる羽生竜王の積極的な指し回しを検証します。

出典:Abema TV

最強の踏み込み

振り駒の結果、羽生竜王の先手番となり、角換わり腰掛銀へ進みました。広瀬八段は前日のインタビューで四間飛車穴熊の可能性を問われた際に、笑顔で「絶対にないとは言い切れない」と仰っていましたが、居飛車党本格派に転身して好成績を収めているここ数年の棋風を考えると、角換わりが本シリーズの主戦場となることは間違いなさそうです。

6筋の位を取った後手に対し、先手が▲6六歩と反発し、さらに▲7五歩と仕掛けた直後の局面で封じ手を迎えました。

▲4五桂や▲4七玉など候補手が広く、展開が大きく分かれそうな局面でしたが、羽生竜王の封じ手は▲7四歩でした。△同飛に▲7六歩が継続手で、△同飛と引っ張り込んで▲6七銀、△7四飛、▲8三角と追撃し、全面戦争に突入しました。

形勢は難解ですが、後手はほぼ必然の応手が多く続くため、羽生竜王としては形勢に自信を持っておられた気はします。

一気に終盤へ

先手の攻勢が続いていますが、先に角を手放していることや自玉の薄さもあり、長引くと徐々に形成が悪化します。ここで▲7六銀と上がり、6五桂を目標に盛り上がる順も有力でしたが、羽生竜王はあくまで▲4五桂と激しく踏み込みました。以下△4四銀に▲2四歩、△同歩、▲同飛、△2三歩に▲3四飛と突撃し、飛車の退路を断って決戦を挑みます。こうなると後手も勢い△6三歩と催促するよりなく、▲7三歩成、△6四歩、▲8三と、△3三歩、▲4四飛、△同歩、▲7三とと一気に終盤戦を迎えます。

鋭手一閃

数手前に打たれた△2五角が攻防に働く好位置で、△3六角よりも先に広い後手玉を寄せ切ることは難しそうに見えましたが、ここで▲2四桂(!)が目の覚めるような継続手でした。△同歩には▲同竜と飛車交換を避けられ、自陣飛車が空を切ってしまう後手が勝てません。やむなく△2一飛と取りましたが、▲3二桂成が金を取りながら詰めろ飛車取りとなり、ようやく先手優勢が見えてきました。

後手としては、封じ手前後からこの辺りまで、細かい分岐点はあったものの大筋としては選択の余地が少ない受けの手を強いられて続けていました。明確に形勢を損ねた要因があったとは思えないだけに、▲2四桂で先手のギリギリの攻めが繋がってしまったのは広瀬八段としては不運でした。

体力勝ちへ

後手の自陣飛車を召し取って駒得を果たした先手が右辺に金銀を投入して体力勝ちを目指しています。ここでさらに▲2九飛(!)と打った手が手厚い勝ち方で、△7七歩、▲7九金、△2四飛に▲2六飛と切り、△同飛、▲3一角、△4三玉、▲6四角成と着実に後手玉を追い詰めます。

零れた砂

羽生竜王が順当に勝ち切るかと思われましたが、ここで▲5四馬と取った手が当然に見えて疑問手だったようです。△3四玉、▲2六桂、△同竜、▲3八歩に△3九飛が詰めろとなり、形勢は俄かに混沌として来ました。

▲5四馬では▲5四銀とこちらで取り、△3四玉に▲4五銀打、△同歩、▲同銀、△2四玉、▲2五歩、△同竜、▲3八歩と進めれば先手が勝勢でした。本譜と違って▲3八歩に△3九飛が詰めろにならず、さらに後手玉は▲3六桂を△同竜と取るしかない(△3五玉は▲5三馬、△1三玉は▲3一馬)ため見た目以上に受けづらい形です。

辛くも逃げ切る

一瞬の間隙を縫った後手の反撃が急所に刺さり、先手玉は風前の灯のようですが、1分将棋の中で▲4九銀と再度自陣に投入したのがしぶとい一着で、先手がギリギリ残していたようです。20分ほど時間を残していた広瀬八段はここで最後の長考に入りましたが、勝ち筋を発見することは叶いませんでした。

▲1二成桂を見て広瀬八段の投了となりました。先手玉周辺の異様なバリケードの跡が、激闘の様子を物語っています。

本局は羽生竜王が▲7五歩の仕掛けから常に最も激しい手順を選び続け、自玉の薄さというリスクを承知で攻め切れるかどうかのギリギリの攻防に身を投じました。感想戦では終始自信がなかったと仰っていましたが、先手側からは他にも選択肢がありそうな局面もあっただけに、実際は成算を持たれた可能性は高そうです。昨年度の竜王戦でも積極的にリードを奪いに行く指し回しが目立ちましたが、今期も相変わらず年齢を全く感じさせない攻撃的な指し回しが見られそうです。

一方の広瀬八段としては目立った疑問手がない中で先手番の利を活かし切られてしまった形となりました。特に終盤はチャンスが訪れたように思えた局面がありながら、結果的にギリギリ足りなかったという結末で、疲労度がより一層溜まる負け方だったかも知れません。とはいえ、他棋戦を含めた今年度の成績(本局前まで20勝6敗)を見れば充実ぶりは明らかなだけに、第2局以降の巻き返しが期待されます。

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