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将棋名局集「天才達の序章」:藤井vs佐々木 岡崎将棋まつり

time 2018/04/01

2017年7月に、歴代最多連勝記録を更新中だった藤井聡太四段の連勝を29で止めた佐々木勇気五段(段位は当時)。藤井四段の29連勝目の対局日に、棋士同士では異例の「敵情視察」に訪れ、大挙して訪れるマスコミの雰囲気に慣れるためのイメージトレーニングまで行うという徹底した藤井対策を施した末に、完璧と言える内容で藤井四段を圧倒しました。


出典:Abema TV

しかし、この二人の天才の本当の戦いは、29連勝目の対局はおろか、藤井四段の連勝が始まる以前から始まっていました。本局は1手20秒の公開対局という過酷な対局条件の中で誕生した奇跡的な名局です。

第23回岡崎将棋まつり

2016年5月1日
藤井聡太三段 vs 佐々木勇気五段
対局場:愛知県岡崎市「岡崎公園」
持ち時間:1手20秒

藤井三段は当時13歳10か月。史上最年少で三段昇段を果たし、詰将棋解答選手権でも2連覇を達成するなど、既に将棋界では名の知れた存在でした。奨励会員が公開対局で棋士と指すのは非常に稀ですが、地元愛知県の将棋まつりということもあり、この日のメインイベントの渡辺竜王vs谷川九段戦を差し置いてテレビや新聞の取材が来ていました。

対して、藤井三段以前の最年少三段記録保持者でもあった佐々木五段は、今回の対戦依頼をあっさり「いいですよ」と快諾したそうです。相手は奨励会員かつ中学生、しかも何が起こるか分からない超早指しという条件にも全く躊躇しなかったのは、噂の天才への好奇心と、自分なら勝てるという強い自信の表れでしょうか。

「新感覚の一手」

藤井三段の先手で相矢倉へ。現在の藤井六段は先手では角換わりを得意にしていますが、矢倉に対して有力とされている後手の居角左美濃は当時はまだ普及していませんでした。

ここで▲2四歩と突いたのが、佐々木五段いわく「新感覚の一手」。この瞬間なら▲8五銀、△同歩、▲5六桂の筋があるため△同銀とは取りづらいだろうと主張しています(▲5六桂以下△5五角、▲4四桂に、△同金は▲5三銀、△同角は▲4六歩から攻めが繋がります)。積極性とスピード感を重視する、攻めの技術が発達した現代将棋らしい一手です。

佐々木五段は△同歩と取りましたが、▲2五歩、△同歩、▲1七桂と進み、後手の玉頭に大きなプレッシャーを掛けた藤井三段がややリードを奪います。

後手玉に傷が多く先手が指せそうな局面ですが、後手から△6六桂の狙いも相当な迫力です。▲3五歩からあくまでも攻め合う手も有力でしたが、藤井三段は▲7七金上。△4六桂との交換の損得は微妙ですが、後手の指し手を限定させて局面を分かりやすくしようという、優勢な将棋を勝ち切るテクニックを感じさせる手ではあります。とはいえ後手の攻めを呼び込む意味もあり、必然的に壮絶な殴り合いとなりました。

極限の一手争い

お互いに速度アップの手筋を駆使した末に後手が△6七とと寄った局面。先手玉も非常に怖い形ですが、藤井三段は▲3五銀と詰めろを掛けて最短の勝ちを目指しました。△7七と(取ると3筋に飛車を打たれて王手銀取り)に▲9七玉とかわし、先手玉はこの一瞬は非常に詰みづらい形です。

しかし佐々木五段も△9六歩、▲同銀、△7六角成という攻防手をひねり出します。

詰めろ逃れの詰めろ

△8五桂以下の詰めろをかけつつ、3二の金へも利かせた「詰めろ逃れの詰めろ」です。対して藤井三段も▲3四銀打から後手玉に肉薄します。

先手が王手の連続で迫っていますが、先ほど7六へ成った馬が強力で後手玉は詰みません。しかしここで▲4三歩が馬の利きをさえぎる、「詰めろ逃れの詰めろ」風の一手。

対して後手も△2七飛と、2筋へ利かしながら敵陣も睨む、「詰めろ逃れの詰めろ逃れの詰めろ」風の一手!。

▲4三歩も△2七飛も、厳密にはどちらも僅かに詰めろになっておらず、この2手で形勢は目まぐるしく揺れ動きましたが、1手20秒の秒読みの中でこれらを読み切るのは不可能でしょう。両者秘術を尽くした応酬の中、本譜は△2七飛に対し藤井三段は▲2二金(!)というただ捨てを放ち、王手の連続で強引に自玉の安全を図りました。

詰めろ逃れの詰めろ逃れの詰めろ

王手の連続で▲3二角と自陣に利かせた後、藤井三段が▲8五桂と打った局面。△8五桂からの詰めろをふせぎつつ、▲4三角成、△7一玉、▲4四馬、△5三桂、▲8二銀(△同玉には▲5五馬)以下の詰めろを掛ける、「詰めろ逃れの詰めろ」です。

しかしここで△5九飛成と指した手が、本局3度目の「詰めろ逃れの詰めろ」となる決め手でした。先ほどの順の最後の▲5五馬と飛車を取られる手を避けつつ、△9九竜以下の詰めろになっています。

藤井三段はなおも▲4三角成、△7一玉、▲5三角、△8一玉と自陣へ大駒を利かせてから▲7三桂成と「詰めろ逃れの詰めろ」風の一手で追いすがります。しかしこの手は惜しくも詰めろを逃れておらず、△9九竜から長手数の即詰みに打ち取った佐々木五段が大熱戦を制しました。

奇跡の名局

本局の終盤では厳密には両者にミスもありましたが、詰めろ逃れの詰めろが3度(及び詰めろ逃れの詰めろ「風」の手が3度)も飛び出すせめぎ合いは観る者を圧倒する迫力でした。解説の谷川九段も、「こんなにいい将棋を指されたら、後から指す人間がつらい」と苦笑していました。

最終盤の「詰めろ逃れの詰めろ」の応酬などは非常に難解な変化で、その場で観戦していた殆どの棋士が終局後に佐々木五段の解説を聞いて驚いたそうです。これほどの将棋を、1手20秒という条件はおろか、1分将棋でも実現できる棋士は少ないでしょう。本局は二人の天才がお互いに刺激し合った末に、「ランナーズハイ」に似たトランス状態に陥ったことで生まれた、奇跡的な名局ではないでしょうか。

戦いの序章

この当時から始まっていた佐々木六段と藤井六段の戦いは、1年後に実現した公式戦初対戦でも佐々木六段が貫禄を示しています。若き日の大山15世名人にとっての升田幸三実力世4代名人、中原16世名人にとっての米長永世棋聖、羽生竜王にとっての谷川九段のように、後に時代を築く大棋士は5~10歳ほど年齢の離れた好敵手との戦いの中で実力を高めて来ました。佐々木六段は今後も藤井六段にとっての壁であり続けてほしい棋士ですね。

棋王戦舞台裏:佐々木六段の永瀬七段への熱い想い

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