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女流棋界新時代の幕開け:絶対女王の一角を崩した渡部愛新女流王位とは

time 2018/06/14

昨日行われた第29期女流王位戦五番勝負第4局は、渡部愛女流二段が里見香奈女流五冠を139手で下し、3勝1敗で自身初となるタイトルを獲得しました。


女流棋界の絶対女王として君臨し続けてきた里見女流五冠の一角を崩した渡部愛(ちなみに読み方は「わたなべまな」さんです)新女流王位のこれまでの公式戦の好局を振り返ると共に、「奨励会未経験者で」「LPSA所属の」タイトルホルダー誕生の意義について考えます。

女流王位戦第4局

渡部女流二段の2勝1敗で迎えた昨日の第4局。後手の里見女流五冠のゴキゲン中飛車から迎えた中盤の難所で、駒損の上に飛車の働きが悪い先手が苦戦気味の局面です。

しかしここで▲6六歩と突いた手が味わい深い妙手で、以下△3六歩、▲9五歩、△同香、▲6七金右、△7五飛、▲6五歩と進んで差が縮まりました。上部から攻められている先手玉は5八の金を6七へ上がるメリットが非常に大きく、7七角の効きが遮られるデメリットも最終手の▲6五歩(同時に後手の飛車の効きも止めています)で解消されています。

結果的には手順中の△3六歩がやや疑問で、△9六歩や△9七香成と直接端を攻めていれば後手がリードを保っていたようです。しかし、先手からも▲8八桂や▲8六桂~▲9四桂といった反撃があるので、後手としても簡単には踏み込めない手順ではあります。第一人者を相手に難解な中盤を堂々と渡り合った▲6六歩以下の手順は、地味ながら鍛えの入った実力を十分に示すものでした。

女流王位戦第3局

第4局とは対照的に、1勝1敗で迎えた第3局では渡部女流二段の派手な決め手がさく裂しました。

2枚の桂が捌け、7七角が後手玉を直射している先手に対し、後手は左辺の駒が凝り固まった形で苦戦に見えますが、ここで△6六金(!)と何もない空間へ滑り込んだのが次の一手のような妙手でした。

▲同角には△7九飛成があるので▲同歩しかありませんが、△4五歩と桂を取られた局面は一瞬にして双方の大駒の働きが逆転していて、先手は駒得でも支え切れない展開に陥っています。6五まで跳ねて活躍していたように見えた先手の桂が、この場合は7七角の活用を阻む(▲6五歩と突けない)邪魔駒と化しており、後手の穴熊は角の睨みさえなければ非常に堅い囲いへと様変わりしています。以降は後手が一方的に攻める展開が続き、渡部女流二段がタイトル獲得へ王手を掛けました。

男性棋戦での金星

初めて男性棋戦への出場を果たした2015年の新人王戦では、初戦で新進気鋭の若手実力者である三枚堂達也四段(当時)を破る大金星を挙げています。

中盤から後手の渡部女流二段がリードを奪いましたが、三枚堂四段の秘術を尽くした粘りに手を焼き、中々決め手を掴めませんでした。しかしここで△7九角成(!)とタダの地点へ飛び込んだのが決め手で、▲同玉に△5八成銀、▲同歩、△6八金と飛車を奪いながら先手玉を危険地帯へ引きずり出すことに成功し、後手の勝ちがはっきりしました。

三枚堂四段はこの年は7割近い勝率を収めており、それ以降も毎年のように安定して6~7割勝ち続けています。その実力者に3年前の時点で勝利していることからも、渡部女流二段の地力の片鱗が見て取れます。

女流棋界の新時代へ

近年の女流棋界は里見女流四冠を筆頭に、西山朋佳女王(奨励会三段)、加藤桃子奨励会初段、香川愛生女流三段、伊藤沙恵女流二段など、奨励会経験者がタイトル戦の舞台をほぼ独占していました。これは女性の将棋人口の増加と共に奨励会で棋士を目指し得るだけの実力者が増えたことによる吉兆ではありますが、男性棋士と比べて公式戦が少ない女流棋士にとって、奨励会という真剣勝負の場で切磋琢磨した経験がなければ、棋士に迫るほどの実力を身につけることが難しいという現実も象徴していました。

渡部女流王位は奨励会未経験者としては2012年の上田初美女王(当時)以来6年ぶりのタイトル保持者となり、努力次第では奨励会以外にも強くなる道があることを証明されました。元奨励会三段である里見女流四冠を破ってのタイトル獲得は、将棋ソフトの進化により勉強法が豊富になった現代において、女流棋界全体のレベルが上がる余地がこれまで以上に広がっていることを示しています。

また、渡部女流王位はLPSA(日本女子プロ将棋協会)所属の女流棋士ですが、関東の若手棋士のグループである「東竜門」が主催するイベントに出演したり、日本将棋連盟フットサル部に所属するなど、日本将棋連盟と特に友好的な関係にあるようです。約10年前にLPSAが日本将棋連盟から独立した背景は当事者にしか知り得ませんが、一般論としては同じ競技にプロ団体が二つ以上存在することは、殆どの場合百害あって一利なしでしょう。女流棋士の待遇改善を求める声が独立の発端だったのだとすれば、空前の将棋ブームに沸く今は過去の負の歴史(と言ってしまってもいいでしょう)を解消する好機だと思われます。

また、渡部女流王位はLPSAが2012年に独自に女流棋士と認定した初めてのケースでもあり、その後日本将棋連盟が約1年もの間女流棋士として認定しなかったことでLPSAと日本将棋連盟の関係が悪化した、という過去があります。これは当然ながら本人には何ら責任はなく、24歳の新女流王位に将棋の内容以外で多くを求め過ぎることは筋違いでしょう。しかし、当時の当事者がタイトル保持者として女流棋界を代表する立場になられたことが、LPSAと日本将棋連盟の関係を変える一つのきっかけになれば、将棋界全体にとっては大きなプラスになるのではないでしょうか。

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管理人の棋力はアマ五段くらい。好きな棋士は谷川浩司九段、「将棋の渡辺くん」に登場する渡辺棋王、佐々木勇気六段の話をする三枚堂達也六段、「りゅうおうのおしごと!」に登場する空銀子女流二冠です。

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