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努力か才能か?三段時代から予見される棋士の活躍度

time 2018/03/08

棋士にとって、努力と才能のいずれがより重要かは永遠の議論のテーマです。渡辺棋王のように「才能7割、努力3割」と言う方もいれば、かたや永瀬七段のように「将棋は努力、才能は必要ない」と断言する棋士もいます。この両者が現在棋王戦で対決しているのも興味深いところです。


ですが、過去のデータを見る限り、才能と努力のどちらが重要にせよ、プロ入り前に開花させなければその後の大幅な棋力向上は望めないようです。と言うのも、棋士のその後の活躍度は奨励会時代の成績のある特徴によってかなり予想出来てしまうのです。

プロ入り後の成績を予見させる、奨励会時代のある特徴

次の二組のグループの共通点がすぐに分かる方は相当な棋界通です。

正解は、左は直近10期の三段リーグを1位通過した棋士、右は2位通過した棋士、です。

奨励会三段レベルともなると、その実力差は紙一重です。ましてや、1位と2位通過の差は全18回戦の勝敗に換算すると僅か1勝、もしくは0勝(前期の順位差のみ)である場合が殆どなので、四段昇段さえ果たせれば通過順位を気にすることはまずないと思われます。

しかし、1位通過の棋士と2位通過の棋士を比べると、プロ入り後の成績に少なからず開きが生じています:

三段リーグ通過順位別のプロ入り後の勝率(過去5年)

三段リーグの僅か1勝(もしくは0勝)の差が、プロ入り後は4%もの勝率差となって表れています。なお、藤井六段の成績は「1位通過」グループの勝率を引き上げてはいますが、まだ対局数が少ないこと(通算成績なので、プロ入り後の年数が長い棋士の成績の比重が高くなります)や、彼と同期昇段の大橋四段も8割近い高勝率を挙げて「2位通過」グループを引き上げているため、全体的な結果への影響はほぼありません。

現行の三段リーグが始まった1987年までさかのぼっても、「1位通過」グループの優位性は揺らぎません:

三段リーグ通過順位別のプロ入り後の勝率(過去30年)

過去30年を見ると両グループの勝率差は1.6%と縮まっているようですが、サンプル数がそれぞれ3万局以上と膨大なため、統計学的には1.6%は十分に(95%以上の確率で)有意な差だと言えます。

また、タイトル戦や順位戦の活躍度を見ると、「1位グループ」と「2位グループ」の差はより目に見える形となって表れます。「僅か」1.6%の勝率の差が、長期的には大きな差となって結果に表れるのが将棋の世界なのです。

タイトル挑戦経験、及び順位戦自己最高クラスの人数(過去30年)

努力も才能も、奨励会時代には殆ど決まってしまう

努力と才能のどちらがより重要なのかは分かりません。また、羽生竜王が「以前は才能は一瞬のひらめきだと思っていたが、今は10年とか20年、30年を同じ姿勢で同じ情熱を傾けられることが才能だと思う」と仰っているように、「才能」の定義も人それぞれです。

しかし、そのどちらが重要にせよ、素質を10代後半~20代前半までに開花させ、三段リーグを圧倒的な成績(1位)で通過するようでなければ、プロ入り後に大活躍することは難しいようです。三段リーグの通過順位というほんの僅かな差でも勝率にこれだけ有意な差が生じたということは、プロ入り年齢、三段リーグの通過速度や通算成績といった変数を調べれば、より大きな違いが見られると思われます。

大器晩成型の例外棋士達

ただし、先の結論はあくまで全体としてみた場合なので、当然例外的な棋士もいます。例えば、現在のタイトルホルダーの中で、久保王将、佐藤名人、中村王座は「三段リーグ2位通過組」です(羽生竜王の昇段時は三段リーグはありませんでした)。

この三名はいずれも17-8歳でプロ入りしているので、「苦労人」というイメージはあまりありません。しかし、久保王将は初タイトルを獲得したのがプロ入り16年目で、C級2組を突破するのに佐藤名人は4年、中村王座は6年を要するなど、デビュー当初の前評判と比べるとトップ棋士と肩を並べるまでにやや時間が掛かっています。元々高かった実力をプロ入り後に人一倍向上させたという意味で、将棋界においては大器晩成型だと言えるかも知れません。

将棋界では早熟型の棋士がそのままトップ棋士となるケースが非常に多く、三段時代のほんの僅かな成績の差がプロ入り後の勝率の差に如実に表れてしまいます。しかし、そのような環境下で、プロ入りしてから大きく評価を挙げた大器晩成型の棋士が早熟型のライバルと戦う姿は、ファンの心を打つのではないでしょうか。

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