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羽生棋聖が勝ち1勝1敗に、豊島八段のまさかの大落手を徹底検証

time 2018/06/16

第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第2局は、羽生善治棋聖が豊島将之八段に81手で勝利し、対戦成績を1勝1敗としました。


序盤、中盤、終盤とスキがない棋士として知られる豊島八段にまさかの致命的なウッカリが出てしまった一局を検証します。

もう一つの十八番

後手の豊島八段の雁木に対し、羽生棋聖が右四間飛車から早い段階で銀交換を仕掛けました。6月4日の王位戦挑戦者決定戦と6日の棋聖戦第1局は2局とも豊島八段の得意形である角換わり腰掛銀になり、豊島八段が先後両方を持って2連勝していました。その豊島八段の方が先に変化したのは、同じ戦型で簡単に勝てる相手ではないということを誰よりも理解していることの表れでしょうか。

ここまでは先月指された佐々木勇気六段vs斎藤慎太郎七段と同じ局面で、その将棋は△3三桂、▲7七銀に△3五歩と突いて先手の桂の活用を牽制した後手が制しています。一局全体を見ても後手が作戦勝ち模様から順調に勝ち切った印象でしたが、本局の豊島八段は△3二金、▲7七銀、△3三桂、▲3八金、△4二玉と穏やかに進める順を選びました。

攻める先手、攻めさせた後手

数手進み、後手が△5四銀と出た局面。囲いの要である4三にいた銀を自ら動かす不思議な一手ですが、歩切れの後手は次に△6五歩から歩を手持ちにする価値が大きいという判断でしょうか。

対して▲4七金と活用する手も有力でしたが、羽生棋聖が▲7一角と踏み込んだことで一気に風雲急を告げました。以下△7二飛、▲6一銀、△7一飛、▲5二銀成、△4三銀、▲6二金、△5二銀、▲7一金と進みます。

先手が一方的に攻めながら飛車を入手したように見えますが、4八飛、3八金、7一金などの働きが今一つなため、実際の形勢は難解です。本譜は△4五桂、▲4七金、△3九角、▲5一飛と進み、駒を目一杯働かせた後手と、薄い後手玉を飛車で直接狙う先手の殴り合いが続きます。

直線を避ける

ここで△6九銀とあくまで先手玉へ向かっていれば、▲3九飛に△7八銀成、▲同玉、△4五角が想定され、難しいものの後手が勝つ変化が多そうな展開だった気がします(△6九銀に▲7九金には△4七成桂、▲3九飛に△2四角が詰めろ飛車取りで、この時6九銀がちょうど3九飛の効きを遮っています)。

本譜は△2七角と非常に気づきづらい曲線的な手が飛び出し、▲3九飛、△7二角成、▲5七金と進みました。

まさかの大落手

角と成桂を両方取らせる読みづらい手順でしたが、自陣に馬を作りながら7二の金を取ったことで、ここで△4二銀打として飛車を詰ます手が生じています。豊島八段も感想戦では当初は△4二銀打の予定だったと語っておられましたが、実戦の指し手はまさかの△4八銀・・・

これには▲5二角、△4二金打に▲4三桂が妙手で、△同金左と取れない(以下▲4一飛成、△同金、▲4三角成、△3二銀、▲3三銀で受けなし)ようでは急転直下で形勢が大きく傾きました。以下は羽生棋聖が81手という短手数で勝利を収め、五番勝負を1勝1敗の振り出しに戻しました。

1敗未満、1勝以上

将棋界で最もスキがない男である豊島八段がこれほど明白な見落とし(恐らく△4三同金に対して▲4一飛成と飛車から切る手でしょうか)をした将棋は、過去の公式戦全体でも記憶にありません。また、△4八銀と打つ手は直感的に非常に違和感を覚える(終盤で自玉が危ない局面で持ち駒を投入して敵玉から離れた駒を攻める)一手であり、代えて△2七角~△7二角成の流れと一貫した自然な手である△4二銀打でも形勢がそれほど悪いとは思えないことからも、魔が差したとしか思えないエラーだったとしか言いようがありません。

ただし、技術的な要因による敗戦ではない以上、メンタルを切り替えることが出来れば次局以降に影響を及ぼすことはないでしょう。王将戦や順位戦の惜敗からすぐに立て直して棋聖戦へ登場してきた豊島八段であれば、第3局以降は何事もなかったように再びスキがない男と化すに違いありません。

とはいえ、豊島八段との2連敗を含め公式戦5連敗中だった羽生棋聖としては、敗れれば第3局を後手番の上にカド番という非常に苦しい立場で迎えていました。そのため、本局は直近の嫌な流れを断ち切る意味でも非常に価値のある1勝であることも間違いないでしょう。

敗者にとっては引きずることのない1敗でも、勝者には2冠堅持、及び3冠復帰へ向けて望みをつなぐ大きな1勝。最強の挑戦者の勢いに押されていた感のある羽生棋聖が対戦成績を五分に戻したことで、棋聖戦の行方は俄然面白くなってきました。

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