2018/10/16
第31期竜王戦決勝トーナメント準決勝、三浦弘行九段vs深浦康市九段の対戦は、深浦九段が124手で勝利し、挑戦者決定三番勝負進出を決めました。
A級棋士同士の白熱の空中戦を検証します。
用意の作戦
後手の深浦九段が横歩取りへ誘導し、三浦九段は青野流で対抗しました。
深浦九段の後手番での横歩取りは約1年半ぶりですが、この△４二銀が比較的珍しい一手で、用意の作戦だったと思われます。早めに３三銀型を作ることを目指していますが（△２二銀だと△８八角成の瞬間に▲３二飛成が王手）、先手が将来▲３七桂～▲４五桂と活用して来ることが見えているだけに、一触即発の展開を覚悟する必要があります。
本譜も三浦九段が▲３七桂と足早に繰り出したため、△８八角成、▲同銀、△３三銀、▲３五飛、△４四角と決戦に突入しました。
こびん攻め
△８二歩の局面まで深浦九段は13分しか消費しておらず、事前研究通りの展開が続いていたようですが、ここで▲６六歩を見て手が止まりました。△同角と取れる上に、自ら玉のこびんを開けるだけに非常に思い切った一手ですが、6筋の歩が切れれば▲６四歩の反撃が厳しいと見ています。また、△７七飛成、▲同銀、△９四角の王手飛車もありますが、冷静に▲８六歩と受けられると、４四角の働きが鈍るため後手としては面白くないでしょう。
深浦九段は昼食休憩をまたぐ長考の末に△同角と応じ、▲８三歩、△７七角成、▲同銀、△３六飛、▲８二歩成、△９四角、▲６七角と、華々しい斬り合いが続きました。
後手リード
先手は▲６六歩からの狙い通り6筋を攻める展開に持ち込みましたが、現実の桂損も大きく、攻めが止まった瞬間に反撃が飛んできます。三浦九段は▲４一角と斬り込みましたが、△同玉、▲６三角成、△５二金と自然に応じられてみると、▲４五馬の瞬間に△６六桂が厳しく、後手がリードを奪いました。
当然に見えた▲４一角では、▲６四歩、△７四銀、▲６三角と迫れば激戦が続いていました。以下△同銀、▲同角成、△４二玉、▲４五馬と進めば、本譜と比べ後手玉が４二にいるため、△６六桂には▲同銀、△同飛、▲３四桂が激痛になります。ただし、▲６四歩と打つと先手は歩切れになるため、将来の△９四角が受けづらくなるという懸念もあり、選びづらい手順ではありました。
僅かなスキ
後手の的確な攻めを先手が必死にしのぐ展開が続いています。駒の損得こそ先手がリードしていますが、右辺が壁形の先手玉に対し、4筋方面に広大な逃走路が開けている後手玉は飛び道具がなければ相当寄らない形で、後手が勝利目前まで迫っています。しかしここで△７五桂と打った手が僅かに甘く、▲７六銀打、△８六歩に手抜いて▲７五銀と取られて差が詰まりました。以下△８七歩成にも▲７九歩で先手玉はもうひと粘りが利く形で、桂を渡したことで後手玉も４四竜が動くと▲３四桂で一気に寄り形に陥る危険性が出てきました。
最後の勝負手
▲４六香の竜取りに△同竜と切った局面（▲同歩には△７七銀引成以下後手勝ち）。数手前に▲５九金～▲６九金と活用したのが右辺の壁形も解消する好手順で、形勢はさらに接近しています。
三浦九段は「竜を移動させて▲３四桂」という先述の狙い通り▲３四桂と迫りましたが、不運にもこの手が敗着となりました。△７七銀引成、▲同金、△同銀成、▲同玉に△７六香が妙手で、▲同玉には△６六竜、本譜の▲６八玉には△８八飛成、▲７八銀、△５六桂、▲同歩、△５七金以下長手数の詰みとなりました。
手順中の△７七同銀成に▲５九玉なら詰みはありませんが、△６七桂、▲４九玉、△５九金、▲３九玉に△３五竜から急所の３四桂を外されてしまいます。
▲３四桂では代わりに▲８六銀と取ればアヤが残されていたようです。△同桂ならそこで▲３四桂と打ち、△３二金に▲６三銀、△４一玉、▲２三歩で後手もかなり怖い思いをします。この手順も正確に指せば後手が僅かに残していそうではあり、▲８六銀に対して冷静に△４四竜と長期戦辞さずの構えで指す手もありましたが、いずれにせよ先手としては▲８六銀と指すよりなかったようです。
勝った深浦九段は次戦で久保利明王将vs広瀬章人八段の勝者と対戦します。深浦九段は2010年に王位を失冠して以降はタイトル戦の舞台から遠ざっており、勝率も5割前後と、往年の活躍と比べると物足りない成績が続いていました。しかしここ一年ほどは、叡王戦で藤井聡太七段、王座戦で羽生善治竜王、順位戦最終局で久保王将、そして竜王戦では豊島将之棋聖に勝利するなど、ここ一番の大勝負で存在感を示す場面も目立っています。久々のタイトル挑戦のチャンスとなる挑戦者決定三番勝負でも持ち前の中終盤の粘り腰を発揮することが出来るでしょうか。
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