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豊島新棋聖誕生!スキがない名局と、戦国乱世の将棋界の今後を徹底検証

time 2018/07/17

第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第5局、羽生善治棋聖vs豊島将之八段の対局は、豊島八段が108手で勝利し、3勝2敗で自身初となるタイトルを獲得しました。


出典:Abema TV

羽生棋聖の秘策を完璧な対応で下した豊島八段の名局を振り返りつつ、戦国模様が一段と色濃くなった将棋界の今後について考えます。

羽生棋聖の秘策

最終局は改めて振り駒が行われ、羽生棋聖の先手で角換わり腰掛銀となりました。序盤を早指しで飛ばす豊島八段のスタイルに羽生棋聖が合わせる形で、本局も午前中から非常に速いペースで進行しました。

対局開始から1時間も経過していませんが、先手の4筋からの仕掛けに対して後手が飛車を転換して対抗したこの局面は実戦例もあり、現代角換わりのテーマ図の一つになっています。前例では▲4五歩と▲4七歩が指されていましたが、羽生棋聖は僅か3分の考慮で▲4七角と打ちました。明らかに本局のために用意してきた秘策で、持ち歩を温存しつつ角で間接的に7四の地点を睨んでいることで次の▲7五歩が強烈な狙いになっています。

さすがの豊島八段も▲4七角を見て手を止めましたが、それでも比較的短い17分の考慮で△4一飛と引きます。▲4七角は想定していたとはとても思えないほど浮かびづらい一手ですが、棋界屈指の研究家である豊島八段ならもしかすると、と思わせるような時間の使い方ではありました。

スキがないバランス感覚

十数手進み、先手は狙い通り▲7五歩から金を釣り上げて▲5五銀と決戦に持ち込むことに成功しましたが、後手陣も離れ駒こそ多いものの意外と後一押しが難しい形です。羽生棋聖は▲4四銀、△同飛、▲4六歩と桂を支えましたが、そこで△8六歩、▲同歩、△8七歩が実戦的な妙手でした。手を渡された先手はどう応じても味が悪い形で、本局の命運を託した4七角が6五歩で止められたこともあり、自信が持てない展開となってしまいました。

本譜はこの後4四飛の4段目の効きが潜在的に物をいう変化が多かったこともあり、▲4四銀では▲5四銀とこちらを取る手が勝った気がしますが、それでも先手が具体的にリードを奪うことは難しいようです。

怒涛の反撃

先述の△8七歩に対し、先手が3筋を突き捨てて攻めの継続を図った局面。羽生棋聖は▲3四歩と垂らしましたが、△5五銀、▲3三銀、△同桂、▲同歩成の瞬間に手抜いて△8八銀と攻め合ったのが厳しい反撃でした。以下▲同銀、△同歩成、▲同玉に△7七歩から後手が豊富な持ち駒を活かして畳みかける形となり、形勢が傾きました。

▲3四歩では、▲7五歩、△6四金に▲7四銀と▲5六桂を含みにもたれておき、△5五金、▲7三銀不成、△4六金、▲6四銀成と進めれば、左辺の上部の勢力が本譜と大きく異なるため、やや苦しいながら先手も戦える形勢だったようです。

後手の猛攻がさく裂し、羽生棋聖が▲6七歩と角を取って首を差し出した局面。豊島八段は席を立ち、1分ほどで戻って来ると、△9九銀成、▲同玉、△9七香と先手玉を即詰みに打ち取りました。

A級棋士にして未だに7割近い通算勝率を誇り、毎年のように各棋戦で活躍しながら後一歩のところで栄冠を逃し続けてきた豊島八段。5度目の挑戦で初めてのタイトル獲得を目前にした1分間で、何を思われたのでしょうか。

戦国時代

出典:Abema TV

豊島新棋聖の誕生により、将棋界は八大タイトルを八人の棋士が分け合う形となりました。二冠以上の棋士がいなくなるのは実に31年ぶりのことで、若手の台頭が著しい近年の将棋界の勢力図が反映されています。

悲願の初タイトルを奪取した豊島棋聖がこれまでの鬱憤を晴らすのか、それとも羽生竜王の不死鳥のような復活が再び見られるのか。はたまた現在王座戦で挑戦者決定戦まで勝ち進んでいる渡辺棋王が一足先に二冠へ返り咲くのか。戦国乱世の将棋界はますます目が離せなくなりそうです。

ちなみに、31年前の戦国時代を統一へ導いたのは、2年後に当時19歳2ヵ月で初タイトルを獲得した羽生竜王でした。戦乱の時代が新たな英雄誕生の予兆だとすると、タイトル戦の舞台まで足音が響きつつある天才の名がすぐに思い浮かびます。

終局後の記者会見では、藤井聡太七段に関する質問をされた際、比較的はっきりと考えを口にするタイプの豊島棋聖がかなり慎重に言葉を選ぶ場面がありましたが、内心では思うところがあったことは容易に想像出来ます。歴史は繰り返すものではありますが、豊島棋聖にこれまで以上の活躍で歴史の流れを塗り替えて頂きたいと期待するファンも多いはずです。

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