2018/10/16
第43期棋王戦五番勝負でタイトルを争っている渡辺明棋王と永瀬拓矢七段。20日に行われた第4局を永瀬七段が制し、勝敗の行方は30日の最終局までもつれ込んでいます。
今年度最後の大一番となる第5局を前に、渡辺棋王と永瀬七段はそれぞれ他棋戦の対局が1局ずつ組まれていました。棋王戦の行方を占う試金石とも言うべきこの対局では、両者の明暗がくっきりと分かれる形となりました。
永瀬流「負けない将棋」
王座戦2次予選で三浦弘行九段と対戦した永瀬七段。先手の雁木模様に対し、永瀬七段は得意の早繰り銀で速攻の構えを見せます。それに反応した三浦九段が角交換から足早に左桂を繰り出して永瀬陣へ襲い掛かります。
後手は駒得ながら玉の薄さが目立ち、まとめづらい局面に見えますが、ここから「負けない将棋」の真骨頂ともいえる手厚さが発揮されます。
△4四角、▲2九飛、△6三金、▲4五桂、△2四金、▲3三歩、△3四角
4段目に角、角、金が並んだ異様な形ですが、先ほどの局面と比べて後手陣が見違えるほど手厚くなっています。7八金が浮き駒なのも痛く、先手は思うように攻めをつなげられません。
以下は▲4六歩、△3三桂、▲6七銀に、△3二歩と自陣にさらに手を入れた形が非常に堅く、永瀬七段がその後万全の体勢から反撃を決めて勝利を収めました。
渡辺棋王は痛恨の見落とし
渡辺棋王は棋聖戦決勝トーナメントで戸辺誠七段と対戦しました。先手の戸辺七段がゴキゲン中飛車から先攻し、渡辺棋王が△6四銀と打った局面:
ここで▲8三銀と打たれる手を渡辺棋王はウッカリされたそうです。△同飛には▲3三角成~▲7二銀、△6二飛には▲6四角~▲5一銀、△5二飛には▲3三角成~▲7二銀打で、いずれも攻めが続きます。
派手な手とはいえ、この手をウッカリするようではプロの将棋ではないし論外でした。
(「渡辺明ブログ」より)
一度攻めが筋に入ってしまうと逆転が非常に難しい戦型だったとはいえ、渡辺棋王としては力を発揮するチャンスすらない完敗となってしまいました。
勢いに乗る挑戦者と、百戦錬磨の棋王
今年度の両者の調子(渡辺棋王は20勝28敗、永瀬七段は42勝12敗)をそのまま反映する形となった、棋王戦五番勝負の前哨戦。第4局で永瀬七段がカド番をしのいでいることもあり、勢いは完全に挑戦者にあります。
負けると14年ぶりに無冠へ転落してしまう渡辺棋王。今年度は試練が続いていますが、過去には大一番で幾度となく底力を発揮してきた実績があります。特にフルセットまでもつれ込んだタイトル戦では、最終局の通算成績は6勝1敗と驚異の勝負強さを見せています。一方の永瀬七段は毎年のように高勝率を記録しながらも、2016年の棋聖戦最終局(対羽生棋聖)や、2015年の竜王戦挑戦者決定三番勝負第3局(対渡辺棋王)などの大一番で敗れ、タイトルを逃しています。
直近の勝率や内容を見ると永瀬七段が絶対的に有利に思えますが、渡辺棋王のタイトル戦における勝負強さは、それをも覆してしまうのではないかと期待させることも事実です。最終局の行方は、果たして。