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将棋名局集「20連勝」:藤井vs澤田 棋王戦予選

time 2018/03/09

2017年に史上最多となる29連勝を達成した藤井六段。その中でも屈指の大熱戦となった、20局目の澤田六段との一局をご紹介します。


出典:産経新聞

第43期棋王戦予選

2017年6月2日
藤井聡太四段 vs 澤田真吾六段 (千日手指し直し局)
対局場:大阪府「関西将棋会館」
持ち時間:各4時間

史上5人目の中学生棋士としてデビューした藤井四段は、プロ入り前から高かった前評判をも上回るペースで勝ち続けます。本局までの19連勝中は苦戦に陥った局面すら殆どなく、前局では連勝を止める有力候補と目されていた若手の近藤五段を一蹴するなど、底知れぬ強さを見せつけていました。

対する澤田六段も、本局まで8連勝中と絶好調。直前には王位戦の挑戦者決定戦進出を決めるなど、若手トップクラスの実力者です。

同じ東海地区在住の両者は、藤井四段が研修会に在籍していた頃に何度も指導対局を指していた間柄でもあります。僅か5,6年前の出来事ですが、かつての教え子のあまりの急成長ぶりに、澤田六段は後に「自分も歳を取った」と苦笑しながら語っています。

老獪な澤田六段の序盤戦術

澤田六段の先手で始まった対局は、角換わりから膠着状態となり序盤に千日手が成立します。澤田六段は千日手を苦にしない棋士で、全棋士の中で永瀬七段に次いで2番目に高い千日手率(対局数に対する千日手の割合)を誇ります。長期戦になれば最後は強い者が勝つ、という自信の表れでしょうか。

指し直し局も角換わりとなりますが、澤田六段は待機戦術に徹し、またしても千日手辞さずの姿勢を見せます。先手番の藤井四段は打開を模索しますが、老獪な澤田六段は虎視眈々とスキを狙っていました。

先手が何気なく1歩交換をした局面ですが、澤田六段は持ち駒に歩が入ったこの瞬間、△8六歩、▲同歩、△8五歩、▲同歩、△9五歩、▲同歩、△7五歩と、これまでの待機姿勢が嘘のように猛然と先手玉に襲い掛かります。形勢そのものは難解ですが、先手陣がやや薄くなった瞬間(銀が5六から動いたことで△6五歩や△4七歩などの攻めが生じています)に後手玉が堅い状態で先攻する体制となり、後手としては不満のない展開です。

▲5二銀の両取りが受からず、先手の反撃が決まったかのように見えますが、ここで△7六角が攻防に利く絶好手でした。先手陣は浮き駒が多く、見た目以上に受けが難しい形です。藤井四段は▲7七金と催促しましたが、結果的には▲6八桂の方が難しかったようです。本譜は△8七歩、▲同金に△6七角打が攻めを継続させる豪打。▲同銀、△8七角成、▲同玉、△6七歩成と進み、後手が優位に立ちました。

斬り合いで追いすがる藤井四段

先手玉は△7六金と打たれると駒を取られながら詰めろの連続で寄せられてしまう状態です。受けるには▲8八桂しかないですが、△4二金、▲6三銀成、△8四桂となると、後手の攻めを振りほどくことは困難で、勝負は長引くものの逆転は非常に難しい展開になります。

形勢不利の中、先手は▲4三銀成と斬り合いに活路を求めます。後手玉が詰めろにならないので考えづらい一手ですが、藤井四段はこの時点で数十手先に逆転の可能性を感じ取っていました。

先手玉は完全に必至ですが、先ほどの局面と比べ先手の持ち駒が銀一枚増え、後手のと金の位置が変わっています。藤井四段はこの瞬間に▲3三成銀から突撃します。

△同玉、▲3四銀、△4四玉、▲2二角、△3三銀、▲同銀不成、△5五玉、▲3二銀不成、△6四玉、▲7六桂と進み、クライマックスへ・・・

究極の2択

この▲7六桂が藤井四段渾身の勝負手。△同金と取ると先手玉の必至が解け、▲6七歩で息を吹き返されてしまいます。しかしそれを嫌って△7五玉と逃げると、先手に2二角の利きと豊富な持ち駒を活かされてかなり迫られ続けることになります。

どちらの応手もその先に非常に難解な変化が潜んでいる上に、後手はかなり前から1分将棋が続いています。さらに、藤井四段は30分以上持ち時間を残していましたが、▲3三成銀と王手を掛け始めてから殆どの手を一分以内に指しており、後手に考える猶予を与えていません。そのため、正確に指せば後手勝ちの局面ではありましたが、ミスを最も誘いやすい状況へ追い込まれているとも言えました。

結果的に澤田六段は正解を選ぶことが出来ず、△同金に▲6七歩と進んで体が入れ替わりました。△7五玉ならば後手玉は寄らず、後手が勝ち切っていたはずです。

神に選ばれた天才

「神に選ばれている」

この対局を控室で観戦していた棋士が、△同金を見てつぶやいた言葉です。澤田六段ほどの相手を土壇場で誤らせてしまった20連勝目の勝利は、将棋の神に愛されているとしか思えない劇的なものでした。

藤井六段の実力は今や将棋界の誰もが認めるところですが、中盤で差をつけてそのまま勝ってしまうケースが多いため、真の終盤力が発揮されたと言える将棋は意外に多くありません。そんな中、本局は非勢の局面から相手に最大限のプレッシャーを与える勝負手を探り出す、天才的な勝負術の一端が垣間見えた名局でした。今後トップ棋士と対戦を重ねると共に、藤井六段の真の凄みが見られる場面も増えることでしょう。

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