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「りゅうおうのおしごと!」最終回に登場した、詰将棋史上屈指の問題作

time 2018/03/27

昨日最終回となる第12話が放送された、アニメ「りゅうおうのおしごと!」。原作者がかなりの将棋通ということもあり、ほのぼのとした絵とは裏腹に内容は現実の将棋界における勝負の厳しさを深く描いています。また、棋士の実話に基づくエピソードや、実際の公式戦の棋譜なども数多く登場するため、将棋に詳しい視聴者ほど楽しめる内容となっています。


そんな「りゅうおうのおしごと!」の最終話で、主人公の若き竜王と、通算100期目のタイトルと永世七冠の資格を目指す名人(モデルは言うまでもありませんね)が争うタイトル戦の一局が「両者禁じ手により無効、指し直し」となりました。この対局のモデルとなったのは、現在の将棋のルールにおいて、千日手でも持ち将棋でもなく理論上引き分けとなる唯一の状況でありながら、現実の実戦では歴史上一度も現れたことがない、とてつもなくマニアックなケースなのです。

連続王手の千日手

作中で「無効、指し直し」となった局面には、モデルとなる詰将棋があります。

作者:縫田光司

発表場所:「詰将棋パラダイス」1997年1月号

変化もかなり難解な作品なので解説は省略しますが、作意手順だけを記すと:

▲5六角、△4四玉、▲3三銀引不成、△5三玉、▲4二銀引不成、△5二玉、▲7四角、△6三角、▲同角成、△同玉、▲8五角、△6二玉、▲5一銀不成、△5三玉、▲4二銀上不成、△4四玉、▲4五歩、△同玉、▲6七角、△5六歩(手順①)

ここで▲同角と取ると、初手に▲5六角と打った局面と同一になります。そして、「手順①」を3回繰り返すと、「先手が▲同角と取った瞬間に4度目の同一局面が出現する」という状況が生じます。

将棋では同一局面が4度出現すると「千日手」という引き分けになりますが、例外として「連続王手の千日手は反則」と言うルールもあります。この場合は先手が王手の連続となる手順を続けているので、3度目の「手順①」の最後の△5六歩を▲同角と取ると、「連続王手の千日手」により反則負けとなってしまいます。したがって、先手は▲同角と取ることが出来ません。

打ち不詰め

一方で、▲同角と取る以外に先手玉が詰みを逃れる手段はありません。ということは、後手が△5六歩と打った瞬間に先手玉を詰ましてしまったことになり、△5六歩は「打ち歩詰め」の禁じ手だということになります。

この最後の「△5六歩」という手を後手が指すことが認められるのかどうかが、現在の将棋のルールでは明文化されていません。「駒の性能上、物理的に▲同角と取れるのだから打ち歩詰めではなく、▲同角と取った瞬間に先手の反則負けだ」、及び「▲同角と取る手が連続王手による反則なのだから、先手玉は△5六歩の瞬間に詰みで、したがって打ち不詰めによる後手の反則負けだ」という二つの解釈がどちらも成り立ってしまうのです。

「りゅうおうのおしごと!」では、対局の立会人がこの状況をサラッと解説した後、「引き分けにより千日手と同様に指し直し」という裁定を下します。アニメで初めてこの状況を見た視聴者が、引き分けの理由を正確に理解することは不可能でしょう(^-^;。

「最後の審判」

ちなみに、アニメ第12話のタイトルは「最後の審判」。タイトル戦でカド番に追い詰められた主人公が、全身全霊で史上最強の名人に挑む対局の状況を表現した題名かと思いきや、じつは先ほど紹介した詰将棋のタイトルがずばり「最後の審判」なのです。原作者と、この事実に気づいた少数の視聴者は、思わずほくそ笑んでしまいそうですね。

管理人は原作を読んだことがなかったので、アニメで「最後の審判」が登場した瞬間に、原作者のあまりにもマニアックすぎるチョイスに度肝を抜かれました。将棋ファンでも99%以上は知らないであろう詰将棋を、状況が殆ど理解されないことを承知の上であえて物語の重要なシーンのモデルに使用する辺りに、原作者の将棋への深い知識と愛情を感じずにはいられません。

なるほど、これは原作も売れるはずだと、細部へのこだわりから妙に納得させられた最終回でした。

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