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関西将棋界の一大勢力を率いる、井上九段の名指導者エピソード

time 2018/04/04

3月28日に行われた王将戦1次予選で、藤井聡太六段の連勝を16で止めた井上慶太九段。過去には順位戦でA級まで上り詰め、七冠時代の羽生善治竜王に最初の黒星を付けたことでも知られる実力者ですが、一手のミスもない内容で藤井六段に勝利したことで改めてその健在ぶりを示しました。


出典:Abema TV

そんな井上九段は、将棋界屈指の名指導者としても知られています。主催する将棋教室での指導に感銘を受けて弟子入りした門下生も多い他、過去にはゴルフコンペでクラブの握り方を少し指導しただけで初心者を優勝させてしまったという逸話も残しています。指導者としての井上九段の素顔に迫りました。

関西の一大勢力、井上一門

井上九段の弟子の中からは、これまでに3人の棋士が誕生しています。平成生まれ初のタイトルホルダーとなった菅井竜也王位、A級棋士で昨年は名人戦にも挑戦した稲葉陽八段、そして過去に順位戦でC級2組を10戦全勝で突破した船江恒平六段です。

左から菅井王位、稲葉八段、船江六段(出典:日本将棋連盟

また、現在の奨励会には井上九段の弟子が15人が在籍しており、うち4人は三段リーグまで上り詰めています。師匠としてはいずれも最多の人数で、今後は井上門下の棋士がさらに増えることは間違いないでしょう。

子供将棋教室

井上九段は兵庫県加古川市の加古川将棋倶楽部で、長年に渡って子供向けの将棋教室を開催しています。井上九段の指導風景からは、子供に将棋の楽しさを教える極意が学べます。

出典:「NHK将棋講座」2016年7月号

「ええ形やな」「ほー、なかなかええ手や」。

教室は主に実戦形式。子どもの棋力ごとに分かれ、手合が付けられる。井上九段は休むことなく声をかけ続ける。まず褒めてから子どもの横に座り、目線を同じ高さにする。

中級クラスの子が、次の手に迷っていた。井上九段が「王手や。どっちかで取るしかないんや」と言うと「どっちか分からん」。しかしそこで正解は示さず「そうね、考えてみようか」。子どもは長考した。井上九段は待つが、子どもは答えが見つからない。そろそろ正解手順を教えるのだろうか? すると、「そうねー、よう考える子は賢いねんな」。じっくり考えること自体を褒める。

(中略)

人数の都合で手合がつかない子がいた。井上九段は簡単な詰将棋を出す。不正解が続いたが、「あ、そこですかー、こうしたら? な、あかんな。そ、あかんて気づくところがよかったわ」「違うのすぐ分かるから偉い」。ようやく正解にたどりつくとひときわ大きな声で「そうや!」。そして「よしもう1回やってみようか」。正解手順を再び並べさせた。

褒める、待つ、考えさせる、復習させる。これが井上流将棋指導のキーワードである。

(「NHK将棋講座」2016年7月号)

ゴルフでも非凡な指導力

2004年に棋士や観戦記者などが20人ほど参加するゴルフコンペが開催されました。実力に応じて様々なハンデが設定される中、初心者の小林裕士五段には「彼が160を切ることは絶対にありません」という親しい棋士の太鼓判もあり、68という大きなハンデが与えられました。

18ホールを終え、酒井順吉六段が69(グロス=ハンデを引いていない純粋なスコアで86)、小林健司九段が70(グロス84)の好スコアを記録し、優勝と準優勝が決まったかに思えた頃、最終組で回ったダークホース・小林五段が大外から突っ込んできました。

小林裕士五段は、最初は矢倉五段の話していた通りに160を超えるような実力通りのゴルフを展開していたらしい。しかし、一緒に回っていた井上慶太八段がそれを見かねてクラブの握り方を指導し、そこからドトウのゴルフを展開してしまったというのである。結局、小林裕士五段が68(グロス136)で優勝。後日、優勝した小林裕士五段と一緒に回った井上慶太八段、佐藤康光棋聖、久保利明八段には、小林裕士五段から贈り物が届いたそうである。

(「近代将棋」2004年10月号)

矢倉五段が「160を切ることは絶対にありません」とまで言い切る以上、小林五段は少なくとも何度かは矢倉五段と一緒にプレーしていたはずで、全くの初心者ではなかったはずです。そんな小林五段に、ラウンド中にクラブの握り方を指導しただけでスコアを25以上向上させてしまった井上八段。その指導力は将棋以外にも発揮されるのでしょう。

さらなる活躍が楽しみな井上一門

井上九段が藤井六段に勝利したことで、井上門下の棋士が藤井六段に対して3戦全勝(菅井王位、稲葉八段がそれぞれ1勝0敗)だというジンクスにも注目が集まっています。もう一人の井上門下の棋士である船江六段も藤井六段にとって最速での七段昇段が懸かる勝負の対戦相手となる可能性があり(両社は竜王戦5組でベスト8に進出しており、後1勝すると準決勝で対戦します)、今後も井上一門と藤井六段の対決から目が離せません。

藤井六段17連勝ならず:井上九段が見せた「藤井キラー一門」の底力

また、今月1日には井上門下の中七海奨励会員が女性としては史上4人目となる初段昇段を果たしました。前回の三段リーグでは女流棋界の第一人者でもある里見香奈女流五冠が惜しくも年齢制限により退会となってしまいましたが、中初段は現在19歳7か月と、里見女流五冠の初段昇段年齢(19歳10か月)を上回るペースで昇段を果たしています。1級では3年近く停滞を強いられた中初段でしたが、8連勝で入品を果たした勢いも味方につけ、史上初の女性棋士への道を駆け上がることが出来るでしょうか。

名指導者として名高い井上九段とその弟子達のさらなる活躍に期待するファンは多そうですね。

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