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プロ棋士でもやらかしちゃう・・・禁断の反則・大ポカ集

time 2018/02/23

プロでも指してしまう、反則・ポカとそのドラマ

プロ棋士と言えども人間で、公式戦でも平均で年1程度は反則負けが出現するようです。


断トツで多いのが二歩、次が二手指しです。大雑把に言うと、約50%が二歩、25%が二手指し、25%がその他、という感じです。中には5七に歩がいるのに5六歩と打った、後手なのに初手を指して初形のまま投了など、びっくりするようなケースもあります(^-^;。

また、反則ではないものの、アマチュアからみても信じられないような大ポカが出現することもあります。ここではその一部をご紹介しましょう。

注目される対局でこそ出てしまう二歩

反則の中で最も有名になってしまうのが、全国放送されるNHK杯戦です。NHK杯は持ち時間が短く、秒読みも30秒なため、ミスが出やすい棋戦だとは言えそうですが、それでも運悪く反則をしてしまった棋士にとっては「よりによってNHK杯じゃなくても・・・」といった心境でしょうか。    

最近では2015年に、橋本崇載八段がその貧乏くじを引いてしまいました。行方尚史八段との準決勝で後手の橋本八段は角交換四間飛車を採用します。中盤のねじり合いの最中、橋本八段はNHK杯では長考と言える2分の考慮時間を投入し、最後の1分の秒読みを迎えます。そして、中段の好位置へ進出した相手の金へアタックする、△6三歩と打ちました・・・

痛恨の二歩に気づいた橋本八段もそうですが、行方八段の驚愕の表情も面白いですね(^-^;。

ちなみに、この対局の放送日の前日には、橋本八段は以下のようにツイートしています:

ところで、明日は私のNHK杯の放映日です。その時間帯は飛行機に乗っておりますが、何やらトンデモない事が起きる!?

— 橋本 崇載 (@shogibar84) 2015, 3月 7

生放送ではないNHK杯ですが、当然ながら将棋ではNGで取り直し、というわけには行きません。

対局前のインタビューや勝利後のカメラ目線など、NHK杯では何かと魅せてくれる橋本八段らしい、壮大な前振りでした。

NHK杯に次いでダメージの大きいのが、公開対局であるJTプロ公式戦でしょうか。全国各地で行われるこのイベントでは大規模な子供将棋大会が同時に開催されるため、観客の大部分はトッププロ同士の対局に目をランランと輝かせる少年少女達です。そのような絶対にミスが許されない舞台ですが、持ち時間はNHK杯と殆ど変わらない早指し棋戦でもあります。

そのJT杯で被害者となってしまったのは、2016年の郷田真隆王将でした。過去にこの棋戦で3連覇も成し遂げている郷田王将は、佐藤天彦名人の急戦矢倉に対してうまく反撃に転じ、徐々にリードを広げて行きます。佐藤名人も局後「投了を考えるほど苦しい」と語った局面を迎え、郷田王将が勝利目前まで迫ります。そして、105手目、▲6三歩と打ってしまいます・・・

奇しくもNHK杯の橋本八段と同じ6三の地点には、魔物が潜んでいるのかも知れません。

二手指しの反則は最近では減少傾向にありますが、こちらは二歩と違って秒読みに追われた終盤戦ではなく、一手争いになる前の序中盤で多く見られたようです。

二手指しは絶妙手とともに

こちらは関西のエンターテイナー、神吉宏充七段。1988年に行われた伊達康夫七段との一戦は、神吉七段得意の四間飛車穴熊からさばき合いになり、やや苦しい局面で△4九飛と打ち下ろしました。

ここで、伊達七段は何かを指した、と神吉七段は思いました。何故なら、神吉七段はこの時睡魔に襲われ、隣の対局の駒音で目を覚ましたからです。そして、局面を見ると絶好の一手がひらめき、すかさず駒音高く△3三桂と跳ねます!

後に神吉七段が語ったところによると、伊達七段はその瞬間「え、え??」と神吉七段の顔を覗き込みました。これはいい手を指されたと相手も思っているな、と直感し、神吉七段も「え、え?」と返します。すると記録係まで「え??」と言うので、改めて盤を見て、ようやく二手指しに気づきます。

「しもた~~」と叫んでももう後の祭りです。すると、廊下をタタタタッと走る足音が。対局室へ現れたのは、過去3年で3度も反則負けを喫してしまっていた淡路仁茂九段。盤面から状況を察知すると、にっこり笑顔で「君もやったか~~」と言い残して去って行ったそうです。

さすがは神吉七段、反則負けにもただでは起きず、きっちりすべらない話へと仕上げています。

ひふみんや羽生竜王も、まさかの1手トン死

神武以来の天才、ひふみんこと加藤一二三九段も、長い棋士人生の中でいくつか事件を経験しています。2013年に行われた高野秀行六段との順位戦で、高野六段が△4九飛と打った局面です。先手玉は次に1手で詰んでしまうので、受けの手を指さなければいけません。

ここで加藤九段は▲5八銀打と指しました!

△6九飛成の詰めろと4七の銀取りを同時に受けた手ですが、これが痛恨の見落としです。すかさず△8九銀と打たれて、こちらの1手詰が受かっていません。図では▲3三角成と自玉の逃げ道を開けて、△同桂に▲4五桂と指せば、やや苦しいながらもまだまだ戦える形勢でした。

最後に、あの羽生竜王も、二千局近い対局の中でなんと1手トン死を喫したことがあります。

2001年に行われた、木村一基五段との竜王戦挑戦者決定3番勝負第1局。初の挑戦者決定戦へ勝ち進んだ新進気鋭の木村五段は、当時大流行していた横歩取り8五飛戦法を採用します。この戦型としては珍しい長い中盤戦となりますが、徐々に羽生4冠が相手の駒を抑え込む展開となり、リードを奪います。木村五段も玉を固めながら決め手を与えずに粘りますが、ついに受けの利かない形に追い込まれ、羽生玉へ最後の突撃を試みます。

後手玉は部分的には▲3一角以下の詰めろで、受けても一手一手で寄せられてしまいますが、先手玉に王手を掛けながら手順に5一の馬を外すことができれば息を吹き返せます。そのため、△5六銀に対して▲同玉や▲7五玉だと△5五飛と打たれて難しくなってしまいます。

▲7六玉と逃げ、△6五銀の追撃も▲7七玉とかわしておけば、問題なく先手の勝ちでした。

しかし、羽生4冠の指し手はまさかの▲6四玉・・・△6五飛と打たれてしまい、7二歩と6二桂がぴったり働き、1手詰です。

驚きの一手トン死ですが、当時の対局終了直後の映像を見ると、羽生4冠は平然と感想戦を行っていて、木村五段の方が茫然としていました。その強靭な精神力もあってか、羽生4冠はこの後2連勝で挑戦者決定3番勝負を制し、竜王戦でも藤井竜王を下してタイトルを奪っています。

プロの公式戦でもごく稀に発生する反則や大ポカ。これらが際立つのも、圧倒的大多数の局面で最善に近い手を指し続けるプロ棋士の実力があってこそです。終盤で全くミスを犯さない将棋ソフト同士の対戦よりも、秒読みに追われて疲労困憊の中で死力を尽くして戦う人間同士のドラマの方が、観る者の感動を呼ぶことは言うまでもありませんね。

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