2018/10/16
第31期竜王戦1組出場者決定戦、渡辺明棋王vs久保利明王将の対局が本日行われます。本局を含め2連勝すれば決勝トーナメントへ出場できます。
昨年度は棋士人生初の負け越しを喫するなど、試練の一年となった渡辺棋王ですが、最後の対局となった棋王戦第5局では永瀬拓矢七段に快勝し、タイトルを死守しました。今年度は捲土重来の一年にしたいところですが、初戦となる本日の対局は渡辺棋王にとって相性が良い条件が揃っています。
渡辺棋王の「当たり月」
渡辺棋王の過去の成績を月別に見ると、4か月周期で傑出して勝率が高い月が訪れています。
4,8,12月の勝率がこれほど高い原因は分かりませんが、あえて理由を想像すると、研究家タイプの渡辺棋王にとっては、対局数が比較的少ない4月と8月は1局当たりの準備期間が長く取れることがプラスに作用するのかも知れません。また、渡辺棋王は12月には竜王戦七番勝負の第5-7局を戦っていた年が多く、番勝負を通して蓄積した序盤研究が実を結んでいたとも考えられます。
「当たり月」と相性抜群の竜王戦
竜王を11期獲得し、初代永世竜王でもある渡辺棋王にとって、竜王戦は言うまでもなく相性抜群の棋戦で、タイトル戦の中で最も高い勝率を記録しています。
さらに、トップ棋士とばかり対戦する七番勝負の戦績を除くと、竜王戦のランキング戦と決勝トーナメントの勝率は78.5%(33勝9敗)にも上ります。
また、竜王戦の日程は渡辺棋王の「当たり月」とも非常に良くかみ合っています。例えば、決勝トーナメント入りを懸けた戦いが佳境を迎えるのは4月―5月ですし、決勝トーナメントの挑戦者決定3番勝負は8―9月、そしてタイトル戦七番勝負を決する第5-7局は12月に行われます。
先後の差
昨年度の渡辺棋王は後手番の作戦に苦労したことが不振の大きな原因でした(先手番では14勝9敗に対し、後手番は6勝18敗)。しかし研究勝負になりやすい相居飛車の戦いと比べ、対抗形となることが予想される振り飛車党の久保王将との戦いでは、仮に後手番になったとしてもその損は相居飛車の戦型と比べると小さいのではないでしょうか。一例として、久保王将の通算勝率は先手番で0.631、後手番で0.610と、先後の差は平均より小さくなっています(先手勝率の平均が52.5%だとすると、先後の平均勝率の差は5%)。
久保王将との過去の対戦成績は15勝15敗です。
奨励会時代のジンクス
蛇足ですが、渡辺棋王は奨励会時代にも特定の月に勝率が偏る傾向がありました。
近代将棋2001年5月号、渡辺明四段の「16歳高校生棋士 トップを狙え」より:
みなさんこんにちは。だいぶ暖かくなってきて、プロ野球の開幕も迫ってきました!! ボクは小学生のときから野球が大好きだったのですが、そのせいで?? プロ野球シーズン中に奨励会で昇級したことがあまりありませんでした。理由は簡単。小学生当時、巨人ファンだったボクは、当然、テレビ中継を毎日見ていたんです。
小学生時代の一日は……学校が終わり、友だちと遊んで帰ってくるのが6時ごろで、風呂に入り、夕食を食べ、7時~9時半まで野球を見て寝る……あれれ? 将棋を指してる時間がありませんね~……このままではいけない!!と思ったボクはとてもナイスな考えをあみ出したんです。さて、ここで問題です。小学生だったボクがあみ出したナイスな考えとは、なんでしょ~??
(「近代将棋」2001年5月号)
渡辺棋王の6級から三段までの9度の昇級/昇段のうち、5-9月に達成されたものは一度もありませんでした。三段リーグを突破したのも野球シーズンと外れた10-3月期でしたし、4月に2度昇級しているのも3月以前の成績が物を言っているため、野球中継による将棋への影響はかなり大きかったと言えそうです。
ちなみに、渡辺少年の「ナイスな考え」とは、「巨人ファンをやめる」ことだったそうです。現在の渡辺棋王はヤクルトファンで、今年も既に神宮観戦へ行っています。「渡辺明ブログ」によると、巨人に3連勝したことで、「早くも優勝を意識します」とのことです(笑)。
プロ入り後の渡辺棋王に極端な「当たり月」が見られることにも、もしかすると本人にしか分からない意外な理由があるのかも知れません。
コメント
[…] 渡辺棋王、復活なるか?相性抜群の「4月」の「竜王戦」で本日対局 […]
by 今週の注目対局(4/9/2018) | 将棋を100倍楽しむ! 4月 9, 2018 10:44 am