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豊島八段が初タイトルに王手、羽生棋聖の猛追を振り切った大激戦を徹底検証

time 2018/06/30

第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第3局、羽生善治棋聖vs豊島将之八段の対局は、豊島八段が145手で勝利しました。


出典:Abema TV

意表の袖飛車

豊島八段の初手▲2六歩に対し、羽生棋聖は△3二金。名人戦第6局の2手目△6二銀に続いて珍しい出だしですが、本局は▲2五歩に対して△7二飛(!)とさらに予想の斜め上を行く力戦型となりました。

意欲的な序盤を連投している羽生棋聖の将棋への飽くなき探求心にはいつもながら恐れ入ります。ただし、実際は角換わりや横歩取りの最新型で現在やや後手の旗色が悪いという事情も影響しているのかも知れません。

先手の角を封じ込めることに成功し、後手の袖飛車が目一杯主張を通しているようですが、このまま漠然と駒組を進めると先手陣も▲6六歩~▲6七銀や▲5七銀~▲7九角などと駒が働いて来ます。そこで羽生棋聖は△7六歩と仕掛けましたが、さすがに7筋の位を自ら放棄するだけに自信のある攻めではなかったはずで、以下▲同歩、△同飛に▲1五歩、△同歩、▲7七銀、△5六飛、▲1五香と自然に対応した豊島八段がリードを奪いました。

△1三角+△3三桂の形では、部分的には△3五歩~△3四飛と飛車を転換するのが形ですが、本局の場合は▲5七銀と上がられ、▲6六銀と▲7九角~▲2六銀~▲4六銀の二つの狙いがあって後手が支えきれません(7五の位が伸びすぎになっています)。

△7六歩も△3五歩も後手が思わしくないとすると、この局面に至るまでの構想に既に無理があったということになってしまいます。ただし、それ以上に4時間というタイトル戦としては短い持ち時間の中で予想だにしない力戦へ持ち込まれたにも関わらず、さほど時間を使わずに、本譜の自然な駒組で悪くないと判断した豊島八段の大局観を称えるべきでしょう。

妖術

激しい斬り合いの中、後手もかなり先手玉へ迫っていますが、玉の安全度(7四に桂を打たれる筋があるため後手玉は見た目以上に詰みやすい形です)の差が大きく依然として先手が優勢です。しかしここで△7八歩と打ったのがいかにも羽生棋聖らしい怪しい勝負手で、豊島八段も対応に悩まされることとなりました。

本譜は▲6六角と受けましたが、△3七角に▲4二桂成、△同銀、▲6八銀打と駒を使わされるようでは後手玉も安全になり、徐々に中盤へ逆戻りするかのような泥仕合へと引きずり込まれました。

直感的には△7七歩と垂らす手が自然でしたが、▲7九歩と受けられると金駒がない後手からは厳しい手が続きません。△7八歩に対しては▲2一竜や▲7四歩で強く攻め合う手も有力で、先手に分がありそうな終盤でしたが、△8八角に▲7八玉と攻め駒に近づく受けを強要される順は実戦的には非常に指しづらいでしょう。相手に手を渡して非常に悩ましい選択を迫り、曲線的なねじり合いに持ち込む指し回しはさすがの勝負術でした。

一瞬の勝機

羽生棋聖の粘りが功を奏し、ようやく後手にチャンスが回ってきた局面。馬を追い回して打たれた▲6六金や▲5五銀がダブっていて、後手玉は瞬間的にかなり安全になっています。ここで馬取りを放置して△6五桂打と迫れば、逆転していてもおかしくない形勢でした。▲2四角には△5七銀(▲同金は△7九歩成)が厳しく、▲6八角にも△4九銀、▲7八玉、△7七歩以下かなり攻めが続きます。

本譜は△3六馬と逃げたため、▲7八玉とようやく目障りな歩を外せた先手玉が息を吹き返しました。

受けの決め手

後手も必死に追いすがっていますが、ここで▲7八歩と自陣に手を戻した手が激戦に終止符を打つ決め手となりました。駒得の先手からは▲3四桂や▲7二成桂などの確実な攻めが見えており、後手は△7五歩、▲同金右、△同銀、▲同金に△7七歩と打つ一歩が足りず、▲7八歩が鉄壁の守備駒と化しています。

最終盤、豊島玉の不詰めがはっきりしたかと思われた瞬間、羽生棋聖の△6六角成(!)が飛び出しました。両者一分将棋の中、心臓が飛び出しそうな華麗な捨て駒で、▲同銀や▲同歩はトン死します。しかし当然ながら▲同玉が冷静な対応で、△5五竜、▲5五玉で僅かに駒が足らず、先手玉は詰みません。

羽生竜王の意表の袖飛車に対し、自然な対応でリードを奪った豊島八段。感想戦では「手が広すぎるのであまり考えても仕方がない」と語っておられましたが、この合理的思考で持ち時間を温存できたのも、大局観に自信があるからこそでしょう。終盤は羽生棋聖の粘りに手を焼きましたが、混沌としかけた将棋をきっちり勝ち切ったのはさすがのスキのなさでした。

一方の羽生棋聖としては、結果的には後手番の戦型に苦労しておられる印象が強い今年度の嫌な流れを払拭することは出来ませんでした。まずはカド番となる第4局を凌ぐことが最優先ですが、最終局にもつれ込んだとしても後手番となった場合の対策に苦慮されることになりそうです。

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