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羽生棋聖が豊島八段に勝ち最終局へ、おやつも手につかない大激戦を徹底検証

time 2018/07/10

第89期ヒューリック杯棋聖戦五番勝負第4局、羽生善治棋聖vs豊島将之八段の対局は、羽生棋聖が133手で勝利し、2勝2敗のタイに持ち込みました。


出典:Abema TV

豊島八段の周到な序盤研究を打ち破った羽生棋聖の驚異の対応力を検証します。

深すぎる研究

羽生棋聖の先手で角換わり腰掛銀へ進み、豊島八段はいつも以上に序盤を早指しで飛ばしました。

後手の待機戦術に対して先手が▲4五桂と打開した局面。豊島八段は今期の王位戦白組プレーオフ(対澤田六段戦)でこの局面の先手番を持っており、その時は澤田六段が△2二銀と引き、主導権を握った先手に対して後手が桂得を主張する展開になりました。

本譜は豊島八段が△4四銀と上がり、▲2四歩、△同歩、▲同飛、△2三歩、▲2九飛に△6五歩と反撃に転じました。王位戦での読みの蓄積にさらなる研究を加え、相当な準備を重ねてきたことは明らかでした。

実戦的勝負術

その後も豊島八段の早指しは続き、62手目の△6七歩まで何と14分(!)しか時間を使っていません。ただしこの局面は公式戦の前例はないものの、少し前までは将棋ソフト同士の対局では出現したことが知られている局面だったようで、将棋ソフトを研究に活用していることで知られる豊島八段も当然熟知していたはずです。

明らかに相手の研究通りの手順がこれほど続くと、先手に掛かるプレッシャーは尋常ではないはずですが、羽生棋聖は僅か12分の考慮で▲2二歩と打ちました。入るかどうかかなり微妙なタイミングでの利かしで、さすがの豊島八段も32分の長考を余儀なくされます。

本譜は▲2二歩に対して△4五銀直、▲同歩、△6五銀と強く決着を付けに行きましたが、△3三桂や△6八歩成~△5九角も有力で、いずれも難解な形勢でした。ただし、指し手の善悪以上に、相手に手を渡して絶妙に難しい選択を迫る▲2二歩はいかにも羽生棋聖らしい勝負術で、持ち時間が4時間と短い棋聖戦で持ち時間に大差を付けさせなかったことが結果的に勝因になったと言っても過言ではないでしょう。

攻守逆転

後手の猛攻が続く中、羽生棋聖が▲5四桂、△同歩、▲7五角と8六歩を外しにかかった局面。豊島八段は△5三桂と受けましたが、▲8六角、△7四桂に▲6四銀が妙手でした。△8六桂、▲5五銀と進むと後手の3枚の桂がやや空を切らされた形となり、△同歩、▲6五銀に△2一飛と粘りに回るしかないようでは先手優勢がはっきりしました。

△5三桂では△6四桂と打っていれば激戦が続いていました。次に△7六桂と取れるわけではなく、5五角が動くと取られてしまう非常に不安定な位置ですが、▲8六角、△7七桂成、▲同桂、△7四桂と進めば後手の攻めはまだかなり続く形で、どちらかと言えば先手が勝ちづらい展開だった気がします。

後手玉の長い逃避行の末にようやく△6八香と再び攻めの手番が回りましたが、▲7八玉が受けの決め手でした。6九の地点をあっさり明け渡すのが当然ながら好判断で、△6九香成、▲6七玉、△5九竜、▲5八金、△4九竜に、▲3四桂から素早く寄せ切った羽生棋聖が五番勝負を最終局まで持ち込みました。

追い詰められていた王者、追い詰められた挑戦者

本局は終盤で形勢には差がついてしまいましたが、実際の対局室の空気は全く異なるものでした。例えば、終局直前の羽生棋聖の駒台は過去の対局では見た記憶がないほど乱れていました。

また、午前中から大決戦に突入する早い進行となったこともあり、15時に配られたおやつは全く手を付けられずに残っていました。

先手が勝勢になってからも、羽生棋聖はしきりに髪を掻き上げたり、扇子で顔を仰ぐ仕草が目立ち、余裕は全く感じられませんでした。カド番という状況に加え、棋界屈指の研究家である豊島八段の研究手順にはまりかねないというプレッシャーを感じる中での対局がいかに過酷だったかを物語る、鬼気迫る雰囲気でした。

一方の豊島八段としては、かなり深くまで想定して来た手順通りに進みながらの敗戦となり、ダメージが大きい結果となりました。プロ同士の対局では例え研究通りに進んだとしても形勢に大きな差がつくことは稀ではあるものの、持ち時間を多く残して中終盤の難所を迎えられるというメリットにより結果的に勝率は上がりやすいのですが、本局では羽生棋聖が▲2二歩に象徴される勝負術を決断良く繰り出し続けたことで実戦的なアドバンテージを握れませんでした。

A級棋士にして未だに7割近い勝率を誇り、対羽生戦の通算成績も互角に近いものの、ここぞという大一番で敗れて何度も栄冠を逃して来た豊島八段。今年度は6勝9敗と決して本調子ではない羽生棋聖に最終局まで持ち込まれ、嫌な流れを感じざるを得ませんが、今回こそは悲願の初タイトルを手にすることは出来るでしょうか。

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