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豊島八段が澤田六段に勝利、挑決進出を懸けた大熱戦を徹底検証

time 2018/05/31

第59期王位戦挑戦者決定リーグ白組プレーオフ、豊島将之八段vs澤田真吾六段の対局は、101手で豊島八段が勝利しました。豊島八段が挑戦者決定戦で羽生善治竜王と対戦します。


関西を代表する若手実力者同士の熱戦を検証します。

豊島八段(左)、澤田六段。出典:日本将棋連盟

序盤の澤田ワールド

全勝同士で迎えたリーグ戦での直接対決では、澤田六段が会心の指し回しで勝利を収めたものの、最終局で豊島八段に追いつかれてしまいました。

プレーオフは豊島八段の先手で角換わり腰掛銀へ進みました。

ここ数年で完全に角換わりの主流となった▲4八金+▲2九飛型の何気ない序盤のようですが、ここから△5二金、▲6六歩、△6二金と進めたのが、いかにも澤田六段らしい待機戦術でした。澤田六段は千日手が多い棋士としても有名ですが、特に後手番の角換わりではこのような指し方を選ぶことも珍しくなく(過去には藤井聡太四段の20連勝目の対局でも待機戦術から一瞬の隙を突いてリードを奪っています)、この戦型では先手から打開することが難しいという見解を持っておられるようです。

本譜は△6二金以下、▲5六銀、△5四銀、▲7九玉、△5二玉、▲8八玉、△4二玉に、豊島八段は比較的短い考慮で▲4五桂、△2二銀、▲3五歩と仕掛けました。

緻密な指し回し

互いに玉頭に傷を抱えて迎えた中盤戦。後手は次の▲7四歩を受けなければなりませんが、ここから△6六角、▲7七角、△同角成、▲同金としてから△7四歩と手を戻したのが細かい妙手でした。先手の金の位置の損得は微妙ですが、7七の方が将来△7五歩、▲同金に△6五桂や△7六歩の当たりが厳しくなる意味があります。実際に本局も後にそのような展開になり、澤田六段が僅かにリードを奪ったようです。

相居飛車の中盤戦では、桂損しても歩得で相手が歩切れであれば悪くない、というのが良くある展開ですが、本局の場合は(玉頭の傷はお互い様だとすると)後手も歩を持っており、さらにそれを有効に使えそうな筋が多い(3~4筋、6~8筋の全てに歩が打てます)ことが大きかったようです。そして、後手も持ち歩を手にすることが出来たのは、一つ前の図で▲6六歩を待ってから△6二金と待機戦術を開始したことで、将来の△6五歩という反撃の争点を得ていたためです。

澤田六段の待機戦術がどこまで先を想定したものだったのか、そして▲6六歩を突かなった場合はどう指す予定だったのか(△5二金+△8一飛型は△5四銀と上がると▲7二角と打たれる傷を抱えているため、駒組がしづらい意味があります)は非常に興味深いところですが、こういった細かい序盤の変化は企業秘密だと思われるため、完全に解明されることはなさそうです。

強烈なプレッシャー

十数手進み、7七へ金を移動させた効果で後手が先手の玉形を存分に乱すことに成功しています。すぐに目につく受けは▲7八歩ですが(▲7六金には△6七角)、△8六角成、▲8七歩に△6四馬と味よく引き付けられると後手の馬が非常に手厚い形で、駒損の先手は長引いても勝ちづらい展開でしょう。

本譜の豊島八段は▲8七玉と勝負手を繰り出しました。△5九角打が非常に厳しいのですが、▲7六金、△4八角成とあえて金を取らせ、馬と角の働きが一瞬弱まった瞬間に▲8三銀成と桂を入手します。6四歩の拠点が残っていると後手も次の▲4三桂が非常に怖い王手となり、先ほどの△6四馬と引き付けられた展開と比べると段違いにプレッシャーを掛けられています。

▲8七玉が厳密な意味での最善手だったのかどうかは分かりませんが、苦しめの局面で相手に楽をさせないという意味では実戦的な勝負手ではありました。そして、△5九角打の局面では既に澤田六段の残り時間は4分(豊島八段は20分)と切迫していました。

踏み込めなかった勝ち筋

▲5四銀の局面でついに澤田六段は1分将棋に突入しました。後手玉は非常に怖い恰好ですが、ここで△8五歩と踏み込んでいれば、恐らく澤田六段が勝ち切れていたでしょう。

△8五歩は詰めろなので▲同歩しかありませんが、△7五金、▲同金、△同馬で先手玉は僅かに詰めろでこそないものの受けは利かない形です。駒を渡さずに後手玉に迫るには▲6三歩成しかありませんが、以下△8六馬、▲7八玉、△7七金打、▲6九玉に△8七馬が王手銀取りとなることが大きく、5四銀を除去すれば後手玉は急に寄せづらくなります。

本譜は▲5四銀に△5三歩と打ったため、▲6三歩成、△5四歩、▲6二と、△5三玉に▲4五銀と抑えられ、非常に受けづらくなりました。以下△6四玉、▲5六歩と進みます。

ここで△7四玉とすれすれの顔面受けを続けていれば、先手がやや良さそうながらもまだ激戦が続いていました。本譜は△7四銀と打ってしまったため、▲6九飛が角の入手を確実にするあまりにもぴったりな決め手となり、豊島八段の勝ちが決まりました。

炎の豊島ロード、再び

勝った豊島八段は6月4日に羽生善治竜王と挑戦者決定戦を争います。その2日後の6日には棋聖戦第1局も控えており、2~3月の久保vs豊島戦を彷彿とさせるような過密日程が羽生vs豊島戦でも実現しました。

対羽生戦の通算成績は9勝12敗と決して大きく負け越しているわけではないものの、2度のタイトル戦、2度のトーナメント準決勝、そして3月の順位戦プレーオフと、ことごとく大一番で苦渋を味わってきた豊島八段。今年こそはその実力に相応しい栄冠を手にすることが出来るでしょうか。

願わくば、対羽生戦では3勝3敗ながら、王位戦挑戦者決定戦勝利+棋聖戦2勝3敗で惜敗という、非常に失礼ながらいかにも豊島八段らしい「不運な」組み合わせだけは避けて欲しいところです・・・

澤田六段としてはリーグ戦では豊島八段に勝って優勝をほぼ手中に収めており、本局でも老獪な序中盤の指し回しでリードを奪っていただけに、悔いが残る結果となってしまいました。昨年度の挑戦者決定戦での敗退に続いてタイトル初挑戦を逃してしまいましたが、豊島八段と互角以上に渡り合った2局の内容を見れば、次のチャンスは近い将来必ず巡って来ると思われます。

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