将棋を100倍楽しむ!

藤井七段が西尾六段に勝ち順位戦3連勝、超スローペースの夜戦を徹底検証

time 2018/08/01

第77期C級1組順位戦、藤井聡太七段vs西尾明六段の対局は、藤井七段が75手で勝利し、順位戦全勝を維持しました。


対局開始12時間後の午後22時までに僅か47手(!)しか進まなかった超スローペースの長考合戦を検証します。

出典:Abema TV

序盤の構想力

後手の西尾六段が得意の横歩取りへ誘導したのに対し、藤井七段は青野流で対抗しました。

僅か6分の考慮で指された▲9六歩が何気ないようで珍しい一手で、西尾六段は早くも40分の長考に沈みます。意味を全て説明することは難しいですが、▲9六歩は一手前の△6二玉に反応した一手で、後手玉が左辺に囲う展開になると、8筋の傷もあり9筋の交換が先手に得になると見ています。

後手としては他の手を優先したいものの、現実に端を突き越されるプレッシャーも大きく、先に形を決めさせられてしまうという懸念もあります。結局西尾六段は△9四歩と応じましたが、この交換は持ち時間を消費させられたことも含め早くも藤井七段がやや得をしたようです。

先手ペース

しばらく進み、先手が狙い通り9筋からの仕掛けを実現させた局面。時刻は既に16時30分を回っていましたが、手数はまだ31手しか進んでいません。

これほど早い段階で端を突かれて取れないようではおかしいのですが、△同歩には▲9二歩、△同香、▲7六歩とされ、△7四飛には飛車交換から▲9一飛と打たれて端が受からないため後手陣は崩壊します。そこで西尾六段は△4四角と辛抱しましたが、いかにも辛い形です。

さわやか過ぎた斬り合い

数手進み、後手も3筋からの反撃の楽しみが出ており、先手としても決断を迫られています。すぐに目につく▲2一飛成には△2六飛がありますが、冷静に▲同竜、△同角、▲5六飛と応じておけば、▲6五桂や▲3四歩の楽しみが残る先手が優勢だったようです。また、単に▲6五桂と跳ねる手も有力で、△8八角成、▲同銀、△2三歩に▲8四飛と回っておけば、駒の働きの差や▲9三歩成の狙いによりやはり先手がリードを保てました。

本譜は藤井七段が▲3四歩とさらに踏み込んだため、△2三歩、▲3三歩成と必然的に駒の取り合いになりました。これも2枚替えの上に自陣の桂の活用も見込めそうな魅力的な手順で、優勢の時はシンプルに指すべしという経験則とも合致する構想でしたが、本局の場合は後手に飛車を渡したことが見た目以上に大きく、この後西尾六段にチャンスが訪れます。

一瞬のチャンス

午後22時過ぎ、藤井七段が▲4五桂と跳ねた局面。西尾六段は▲3三歩を避けて△3五飛と浮きましたが、▲4六金が後手の大駒を制圧する手厚い妙手で、△2五飛にもさらに▲2六歩、△同飛、▲2七歩と責め立てられて後手は飛車の逃げ場に窮しました。やむなく△3七歩から斬り合いになりましたが、後の▲6五桂が敵玉に迫りながら8八角を活用し、さらに自玉の逃走経路も広げる一石三鳥の妙手となることが約束された形で、以降は藤井七段がきっちり一手勝ちを収めました。

しかし、実際は▲4五桂の局面では後手に本局唯一のチャンスが訪れており、△3五飛に代えて△3七歩と叩いていればむしろ後手良しでもおかしくない形勢でした。▲2九銀と逃げるしかありませんが、△2五飛の両取りが厳しい追撃で、急所の4五桂を取れる上に▲6五桂の活用も牽制出来る形です。大駒を手放すため長い勝負にはなりますが、本譜の斬り合いでは明らかに先手に分がありそうだったため、後手としてはこの順を選ぶしかありませんでした。また、△3七歩が生じていたことを考慮すると藤井七段の▲4五桂はやや危険だったようで、先に▲6五桂と逆側の桂から跳ねた方が良かった気がします。

本局は藤井七段が序盤から機敏に9筋の弱点を突いて優位を築きましたが、西尾六段も持ち時間を惜しみなく投入して何とか局面の均衡を保ち続けました。しかし、結果的には持ち時間の切迫もあり、後手は苦戦を意識する時間が長く続いた末に22時過ぎに訪れた唯一のチャンスをものに出来ませんでした。

アマチュア目線から見ると、序中盤で持ち時間の大半を使い果たすことが多いプロの公式戦は理解に苦しむことも多いですが、終盤までに決定的な差を付けられてしまうとプロレベルでは逆転不可能だという現実もあるため、やむを得ない側面もあります。そんな中、夜戦に入っても殆どミスが見られない藤井七段の終盤力は、持ち時間6時間の順位戦で未だにデビュー以来無敗を維持している安定感も頷ける大きな武器となっています。

宜しければクリックをお願いします
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
bougin にほんブログ村 その他趣味ブログ 将棋へ
 



down

コメントする







 当サイトについて

ベンダー

ベンダー

将棋界の最新ニュース、独自のコラム、詳しい棋譜解説から将棋めし情報まで、将棋を100倍楽しむためのコンテンツをご紹介します。
当サイトはリンクフリーですが、記事・画像の無断転載は固くお断り致します。相互リンクをご希望の際は、サイト下部のお問い合わせフォームよりご連絡下さい。
管理人の棋力はアマ五段くらい。好きな棋士は谷川浩司九段、「将棋の渡辺くん」に登場する渡辺棋王、佐々木勇気六段の話をする三枚堂達也六段、「りゅうおうのおしごと!」に登場する空銀子女流二冠です。

メールマガジン登録

当サイトの更新情報をメールでお知らせします。受信箱を確認して登録手続きを完了して下さい。