将棋を100倍楽しむ!

羽生竜王が深浦九段に勝利、死力を尽くした勝負術と深夜の大逆転を徹底検証

time 2018/08/09

第77期A級順位戦、羽生善治竜王vs深浦康市九段の対局は、羽生竜王が142手で勝利しました。


羽生竜王が驚異の粘りで深夜0時過ぎに大逆転を呼び込んだ激戦を検証します。

出典:Abema TV

巧みな仕掛け

深浦九段の先手で相掛かりへ進み、先手が8筋の歩を受けずに早い段階で持ち駒の角を手放す意欲的な指し回しを見せます。

ここから△3五歩、▲2六飛にじっと△7三桂と跳ねたのが羽生竜王らしい独特の呼吸でした。単に△7三桂だと▲4七銀から形よく組まれてしまうのに対し、△3五歩、▲2六飛の交換を入れておけば△1五角の傷があるため▲4七銀と上がりづらくなっています。

深浦九段は約1時間の長考の末、▲3五歩と取りましたが、△3六歩、▲同飛、△2八角、▲1八香、△1九角成に、香を受けるために▲2七銀と上がるしかないようでは自信が持てない展開でしょう。とはいえ、▲3五歩か▲4七銀以外の手では先手にはプラスになる手はあまり見当たらず、後手は△3三銀から自然に駒を活用する楽しみがあるため、不本意ながら決戦に応じるしかない状況だったようです。

手渡しの勝負術

香得を果たした後手の馬がさらに飛車と金に圧力を掛けており、先手がかなり苦しい局面ですが、ここでじっと▲8四歩と打った手がさすがの勝負術でした。後手がゆっくりしていると▲9六歩~▲9五歩が間に合いますが、△7四歩には▲同桂が、△3四香には▲5五飛があるため、先手の大駒は思いの他追われづらくなっています。

羽生竜王は△4三桂、▲3七飛、△3六歩、▲同飛、△1八馬と責め立てましたが、▲3七銀と辛抱され、負担になりそうだった飛車が曲がりなりにも馬と交換になったことで先手にも楽しみが生じて来ました。△4三桂に代えて△6四歩と角筋を緩和しておけば(▲同角には△8四飛)、次に△6三桂とこちらから桂を打てるのが大きく、後手がリードを保てていたようです。

逆転

数手進み、先手の2枚の角が躍動していますが、ここで△6二金と受けた手が当然に見えて疑問手となってしまいました。以下▲3四歩、△3二金、▲3三歩成、△3一金に、▲7四桂が絶好の活用となり、△6二金と上がった手が完全に咎められる形となってついに形勢が逆転しました。

▲7四桂が厳しかった以上、△6二金では△4二香とがっちり受けるしかありませんでしたが、ここに貴重な持ち駒を投入するようでは既に際どい勝負に持ち込まれていることは確かでしょう。結果的に羽生竜王の焦りを誘った▲8四歩(この局面まで9四飛を完全に封殺していることも見逃せません)からの深浦九段の勝負術が光った展開でした。

23時30分頃の局面。羽生竜王の必死の粘りにより深浦九段にややミスが出て、後手に僅かなチャンスが生じています。羽生竜王は△4二金、▲8二桂成に△3七歩と反撃しましたが、▲5九金がいかにも深浦流の粘り腰。△2九飛成と逃げるしかないようでは▲4七金で先手玉がかなり安全になってしまいました。

△4二金では△5二玉と早逃げし、▲4四銀に△4二金と受けていれば難解な形勢でした。本譜と比べ、▲8二桂成に△6三銀と逃げられる点や、後に△6四歩で角筋を止められることが大きく、後手玉は見た目以上に粘りが効く形です。

開き直りの勝負術

0時過ぎの局面。数手前に1分将棋に突入した羽生竜王は△3七とと引いて開き直りました。確実な攻めを見せつつ、△3六とと銀を取れば将来△5二玉~△4三玉からの上部脱出ルートも開けるため、先手は寄せを催促されています。

△3七とは厳密には危険な一手でしたが、代えて△7四歩のような手では先は長くなるものの玉形が薄い後手がかなり勝ちづらい展開は避けられません。相手に「間違えたら許しません」というプレッシャーを掛けることは逆転の必須テクニックの一つで、結果的に深浦九段の指し手がこの後乱れました。

深夜の激闘

数手進み、深浦九段が本局で最も勝ちに近づいた局面。ここで▲3四桂、△4四歩、▲4二桂成、△同玉、▲3四銀と進めれば明快に先手勝ちでしたが、本譜は▲5三銀不成、△同金、▲4五桂、△6四桂。以下▲4一銀、△4二玉に、▲3三歩ならなおも先手勝ちでしたが、▲3四歩と一路控えて垂らしたため、△5四金と見えづらい受けを繰り出されてさらに焦ることになりました。

ついに再逆転

成駒の網の目をくぐって逃げ回る後手玉を、ついに▲7五桂で捕らえたかに見えた局面。しかしここで△8一角と放った手が唯一の受けで、ついに形勢が逆転しました。以下▲8三歩成、△4七と、▲7二とに、△5八とから先手は合駒がないため何といきなり詰まされてしまいました。

△7九金を見て深浦九段が投了されました。中盤以降完全に封じ込められていた9四飛が、最後は詰みに重要な役割を果たしています。自らの敗北を受け入れる時間となった投了直前の数手を指す深浦九段の姿からは、溢れんばかりの無念さが滲み出ていました。

本局は羽生竜王が序盤から巧みな仕掛けでペースを握りましたが、深浦九段の実戦的な粘りに逆転を許し、劣勢の局面がかなり長く続きました。ここまで8勝11敗と苦戦が続いている今年度の姿をそのまま反映するような展開かと思われましたが、秒読みの最終盤で相手のミスを誘った開き直りはさすがの勝負術で、若手時代の「羽生マジック」を彷彿とさせる指し回しでした。10月以降の竜王戦に向け、復調のきっかけとなる大きな勝利になるかも知れません。

宜しければクリックをお願いします
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
bougin にほんブログ村 その他趣味ブログ 将棋へ
 



down

コメントする







 当サイトについて

ベンダー

ベンダー

将棋界の最新ニュース、独自のコラム、詳しい棋譜解説から将棋めし情報まで、将棋を100倍楽しむためのコンテンツをご紹介します。
当サイトはリンクフリーですが、記事・画像の無断転載は固くお断り致します。相互リンクをご希望の際は、サイト下部のお問い合わせフォームよりご連絡下さい。
管理人の棋力はアマ五段くらい。好きな棋士は谷川浩司九段、「将棋の渡辺くん」に登場する渡辺棋王、佐々木勇気六段の話をする三枚堂達也六段、「りゅうおうのおしごと!」に登場する空銀子女流二冠です。

メールマガジン登録

当サイトの更新情報をメールでお知らせします。受信箱を確認して登録手続きを完了して下さい。