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菅井王位が防衛に王手、豊島棋聖の技を逆用した遠大な構想力を徹底検証

time 2018/08/30

第59期王位戦七番勝負第5局、菅井竜也王位vs豊島将之棋聖の対局は、菅井王位が133手で勝利し、通算成績を3勝2敗として初防衛に王手を掛けました。


豊島棋聖らしい細かいポイントを稼ぎに来た指し手を巧みに逆用した、菅井王位の秀逸な構想力を検証します。

出典:Abema TV

意表の向かい飛車

先手の菅井王位の向かい飛車に対し、豊島棋聖は左美濃へ。菅井王位は第1局、第3局と先手番でいずれも十八番の中飛車で勝利していた上、本局も初手▲5六歩で始まっただけに意表の戦型選択となりましたが、その後も早い段階で飛車を7筋へ振り直して歩を交換するなど、意欲的な序盤を展開しました。

最強の封じ手

▲4六銀の局面で豊島棋聖が50手目を封じました。

封じ手は△2五歩でした。後手はゆっくりしていると▲5五歩から4四角に圧力を掛けられる展開になりそうだったため、△6五歩の開戦は避けられないところでしたが、△2五歩はその前に玉頭にも争点を作る最も激しい一手です。▲2五同歩にそこで△6五歩と突けば、▲5五歩には△2五桂と跳ねる手が生じます(以下▲5四歩、△3七桂成、▲同銀は2枚替えでも直後の△6六歩の取り込みが厳しく後手が指せそうです)。

ただし2筋は後手玉にとっても傷であるためリスクを伴う仕掛けでもあり、△2五桂に▲2六角、△5五銀、▲4四角、△同銀、▲2六歩と進んでみると、先手陣はバラバラながら次の▲2五歩が桂得をしながら玉頭に拠点を築く大きな楽しみとして残っており、後手の仕掛けの成否は微妙なところです。

僅かなスキ

数手進み、▲7八歩と受けた局面。ここで豊島棋聖は△1七桂成と、取られる寸前の桂を成り捨てました。先手からは次に▲2五歩と伸ばして後手玉に大きなプレッシャーを掛ける味が良く、桂が取れなくても▲2五歩と指して来そうなほどなので、それならば先に△1七桂成、▲同香と取らせることで先手の玉形を乱したわけです。

気づきづらい細かいポイントをそつなく積み重ねていく豊島棋聖らしい一手でしたが、本局では例外的にこの成り捨てが結果的に数十手先の玉頭戦で先手に有利に働いてしまいました。

数手進み、玉頭で小競り合いが勃発しています。菅井王位がじっと▲2六歩と傷を消したのに対し、豊島棋聖も△2三歩と玉頭を補強しました。終盤で玉頭戦になることがほぼ確実なので、まず損になることはなさそうな鍛えが入った一着に見えましたが、打ったばかりの歩を▲2五歩と突く手が生じました。△同銀、▲3七桂に△2六歩と打てなくなっており、△2四香、▲2五桂、△同香、▲2六桂まで進んでみると、急所の銀を奪われたことが大きく、先手が玉頭の勢力争いで一歩リードを奪いました。

△2三歩では代わりに△6四香と打つ手が勝った気がします。玉頭戦に持ち込もうとしている先手に対し、左辺に駒を投入する△6四香はいわゆる「攻めている場所が違う」という状態になりかねない指しづらさはありますが、現実的には次に△7八馬~△6七歩成と突破して金を入手する実利も大きく、激戦が続いていた可能性が高そうです。

絶好の活用

数手進み、△5四桂と打った手に対し、▲1九飛と回った手が絶好の反撃となりました。△7八馬の当たりを未然に避けつつ、次の▲1五歩が後手玉の端の薄さを直撃する非常に厳しい反撃となります。

豊島棋聖としては、先ほどの△1七桂成、▲同香という交換が結果的に▲1九飛の活用を許した上、1筋が争点となったことで△2三歩と2筋を補強した手も殆ど効果を発揮しない展開にされてしまいました。実際の形勢はまだ微差でしたが、非常に悪手になりづらそうな指し手が完全に裏目に出た形で、実戦的には後手が勝ちづらい流れになっていたようです。

勝てない流れ

先手は順調に1筋を食い破ったものの、後手も5七金を剥がせたポイントは大きく、予断を許さない情勢です。しかしここで△4五馬と引いた手がやや甘く、▲2四歩、△同歩、▲2三歩が後手玉の急所を突く厳しい追撃となりました。この後も豊島棋聖は攻守に勝負手を織り交ぜながら30手以上粘りましたが、菅井王位が的確な寄せでチャンスを与えませんでした。

△4五馬では△2四桂と、敵の打ちたいところへ打ちつつ△1六歩や△3六桂の反撃を見せていれば、後手にも勝機は残されていたようです。

本局は豊島棋聖が細かくポイントを積み重ねに行った△1七桂成や△2三歩が、結果的に菅井王位の1筋からの反撃を誘発してしまいました。とはいえ、△1七桂成が20手以上先に▲1九飛という絶好の活用を許したことは結果論でしかなく、そのような展開に持ち込んだ菅井王位の構想力を称えるべきでしょう。

菅井王位はこれで通算成績を3勝2敗とし、初防衛に向けて大きく前進しましたが、ここまでの5局は全て先手番が制しているという事実もあります。後手番だった第2局と第4局は完敗を喫していることもあり、第6局にどのような作戦をぶつけて来るかが注目されます。

 

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