2018/10/16
第66期王座戦五番勝負第1局、中村太地王座vs斎藤慎太郎七段の対局は、斎藤七段が145手で勝利しました。
第1局から大熱戦となったイケメン対決を検証します。
出典：Abema TV現代角換わり
斎藤七段の先手で角換わり腰掛銀へ。プロ棋界での流行形の上に棋界屈指の研究家として知られる二人の対戦だけに、午前中から早いペースで進行しました。
角換わりは数年前までは右金を▲５八／△５二へ上がる形が主流でしたが、△６二金+△８一飛型が登場して大きく様変わりしました。本局では中村王座が金を玉からさらに遠い△７二へ上がったため、一昔前の感覚からするとより違和感を感じそうですが、△６一飛と転換して後手番ながら仕掛けの味を見せる構想もプロ間では既に知られていました。
斎藤七段は1時間3分の長考の末、▲３五歩と仕掛けました。
攻めを呼び込む
数手進み、▲２四歩と突いた局面。△同歩と取る一手にも見えましたが、中村王座は昼食休憩を挟む考慮の末、△４四歩と強く催促しました。こうなると先手も桂を取り切られる前に攻め続けるしかなく、▲２三歩成、△同銀、▲２四歩、△３四銀、▲２三角と一直線の展開となりました。
△４四歩では平凡に△同歩と取り、▲２四飛、△２三金、▲２九飛、△２五歩と手厚く受ける手も有力だっただけに、中村王座としては△４四歩はさらに良さを求めた一手だったと思われます。しかしこの後を見ると、2筋突破を狙った先手の確実な攻めを後手はうまくかわし切ることが出来なかったため、結果的にはやや危険だったようです。
斬り合いを回避
2筋を破った先手に対し、後手が△３九銀と反撃に転じた局面。ここで強く▲２四飛と踏み込んでいれば、斎藤七段が勝利へ近づいていた気がします。△４八銀成、▲３四飛に△２五角の詰めろ竜取りが気になりますが、▲３三と、△５二玉と飛車にひもを付けてから▲７九玉と早逃げすれば先手玉はかなり寄りづらい形で、一方大駒が攻撃目標にされそうな後手陣は収拾困難でした。
本譜は斎藤七段が▲３二金、△４二玉、▲４二金、△５二玉と利かしてから▲３八飛と自陣に手を戻したため、△４八銀成、▲同飛と飛車が攻めに働かない形となり形勢が接近しました。
牙をむいたマムシ
先手は右辺の金駒を活用して確実に後手玉に迫っていますが、後手はこの瞬間はやや猶予があります。しかし本譜は△７六歩、▲同銀、△８六飛と迫ったため、▲５二とが痛打になりました。△同角と取ると▲同金、△同玉に▲８七歩と受けられて困る（△７六飛には▲４三角）ため、△７一玉と逃げましたが、▲６一と、△８一玉と手順に駒を取ってから▲８七銀打とがっちり受けられてしまいました。
▲５二とがあるとすると、△７六歩では単に△４七馬と右辺から迫るしかなかったようです。
不敗の態勢
中村王座が手筋を駆使して先手玉に迫っていますが、ここで▲６七角（！）と打った手が「絶対に負けない」という信念を感じさせるような辛い受けでした。以下△６五歩に▲８五歩、△６四飛、▲５三銀不成、△６一飛、▲５二金と右辺の遊び駒まで活用し、斎藤七段が不敗の態勢を築きました。このまま押し切るかと思われましたが・・・
あわや逆転
先の▲６七角は妙手でしたが、1分将棋の斎藤七段が手堅い方針を貫き過ぎるあまり俄かに差が詰まっています。中村王座はここで持ち時間を使い切り、59秒まで読まれた末に△７三金と逃げましたが、▲７五歩と催促されてようやく先手の勝ちがはっきりしました。次に▲７四歩と取る手が攻防手になるため、後手は駒を渡さずに詰めろを続けることが出来ません。
△７三金では△８六歩や△６六銀など、先手玉に迫る非常に怖い手段もありましたが、遅い終局時刻にも関わらずみっちり行われた感想戦でも後手の勝ちは発見されませんでした。
勝勢に近い形勢から非常に嫌な流れに持ち込まれた斎藤七段としては、土壇場で勝ちが残っていたのは幸運でした。一方の中村王座も本局の序中盤には課題が残ったと思われますが、最終盤の追い上げはさすがの迫力でした。第2局以降も激戦が期待されます。
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