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豊島棋聖が菅井王位を破り最終局へ、逆境を跳ね返した驚異の勝負術を徹底検証

time 2018/09/11

第59期王位戦七番勝負第6局、菅井竜也王位vs豊島将之棋聖の対局は、豊島棋聖が165手で勝利し、通算成績を3勝3敗のタイに戻しました。


防衛に王手を掛けた菅井王位に形勢でも持ち時間でもリードを奪われる苦しい状況から、勝負手を連発してフルセットに持ち込んだ豊島棋聖の驚異的な勝負術を検証します。

出典:Abema TV

居飛穴の暴力

先手番の豊島棋聖のゴキゲン中飛車を牽制する立ち上がりに対し、菅井王位は角道を開けたまま四間飛穴熊を目指します。角交換の含みを残して居飛車穴熊を牽制する現代的な振り飛車らしい作戦ですが、豊島棋聖は工夫を凝らした駒組で構わず居飛車穴熊へ潜りました。通常の相穴熊と比べると振り飛車側にかなりポイントを許す展開となりましたが、豊島棋聖はそれでも居飛車が勝ちやすいと主張した形で、1日目から両者の主張が真っ向からぶつかる激しい展開となりました。

先手は居飛車穴熊に組むために序盤に角の動きで手損をしており、その間に後手は7六の歩を召し取る戦果を上げたことで通常の相穴熊より得をしています。しかしここで▲7七銀引と自ら銀交換を迫ったのが見えづらい着想で、豊島棋聖がうまく戦機を捉えたようです。△同銀成には▲同角とさらに交換を挑まれ、先に飛車先を突破できる先手が指しやすくなります。そこで菅井王位は△6五銀と引きましたが、この2手の交換は自玉を固めながら後手の銀を後退させた居飛車が大きく得をした形です。

ただし、本譜は△6五銀に対して▲2六飛と浮いたため、△4六歩、▲同角、△5六銀と再び銀を活用され、後手も戦える形になりました。▲2六飛では平凡に▲2五歩、△2二飛、▲2五歩と進めておけば、互角の捌き合いに持ち込めば自然と玉形の差が活きそうな展開で、先手がリードを奪えた気がします。

ひねり出した封じ手

△4九飛に対し、豊島棋聖が71手目を封じました。序盤はかなり早く飛ばす傾向が強い両者の対戦とはいえ、1日目でこれほど手数が進むことはタイトル戦では非常に珍しく、既にどちらかが倒れていてもおかしくない局面です。

封じ手は▲6六歩でした。6五銀に居座られると将来7筋に香を打たれる手が厳しいため、銀を後退させる自然な一手ではありますが、後手陣を固めてしまう意味もあるため、粘りに出ている感も受けます。しかし続く△7四銀に対して▲5六桂が豊島棋聖の用意の一手で、△6三銀と受けた手にじっと▲3四成桂と進んでみると、成桂を4四~5三と活用する目途が立ち、先手がやや盛り返したようです。

攻めを繋げる

豊島棋聖は駒得を活かすべく▲2三角打と自陣へ利かして長期戦を目指していますが、ここで△6五歩と突いた手がいかにも味の良い一着で、歩が参戦したことで細く見えた後手の攻めに厚みが加わりました。以下▲3一飛、△6六歩、▲5三成桂に、△6七歩成が5六角が動けない瞬間を突いた攻めで、▲同金と取るしかないようではやはり先手が自信の持てない形勢のようです。

鬼手

お互いに自陣に手を戻すような手を交えたことで耐久力が上がっていますが、着実なと金攻めを見せられた先手に対し、後手陣は▲5一竜と迫っても△6二銀がぴったりの受けになる形で、迫り方が難しく見えます。しかし、残り時間が早くも1時間を切った豊島棋聖はここで▲8四桂(!)という鬼手をひねり出します。

△同歩と取らせてから▲5一竜と回れば、△6二銀には▲9二角成~▲5九龍と竜を抜けるというカラクリです。さすがの菅井王位も30分近く手が止まりましたが、意を決して△同歩、▲5一竜に△6八歩成と踏み込み、先手も▲6一歩成と壮絶な殴り合いへ突入しました。

最速の殴り合い

▲7五歩に対して△8二銀と早逃げした局面。▲7四歩と取るとその瞬間が甘く△7六歩から大量の持ち歩を活かして寄せられてしまいます。そこで豊島棋聖は▲7三香(!)とスピードアップを図り、△同桂、▲7四歩、△8五桂に、さらに▲7三歩成と踏み込みました。

千日手のアヤ

数手進み、▲8三金と迫った局面。感想戦では菅井王位はここで△8二銀打とした手を悔やんでおられましたが、代わりに△8二金打と受ければ最低でも千日手には持ち込めた可能性が高そうです。とは言え、△8二銀打ちの後もギリギリのせめぎ合いが続き、後手にも勝機は残されていました。

最後のミス

△7七桂不成に▲7九金打と埋めた局面。菅井王位は△8九桂成、▲同金、△7七桂、▲同金、△8八香とスピードアップの手筋を駆使し、▲同金、△5九龍、▲8九香と竜を5筋へ回ってから△7四銀と手を戻しましたが、駒を渡したことで直後の▲6四桂が痛打となり、ついに形勢が傾きました。以下△8三銀左上、▲5一龍、△6一歩に、▲7四角が鮮やかな決め手で、△5一竜と取らせても▲8三角成、△同銀、▲7五桂で先手の攻めが切れない形となり、豊島棋聖の一手勝ちがはっきりしました。

▲7九金打の局面では、駒を渡さずに単に△7四銀と手を戻していれば、▲同角に△7三香で激戦が続いていました。以下▲6三銀、△7一銀打以下の千日手になっていた可能性もありそうです。

やや苦しそうな将棋を中終盤に勝負手を連発してものにした豊島棋聖は、自身初の2冠まで残り1勝と迫りました。逆に菅井王位としては持ち時間でも追い込む勝ちパターンに入ったと思われた局面も多かっただけに、落胆は大きいかも知れません。

関西を代表する両雄の激戦は泣いても笑っても最終局を残すのみとなりましたが、ここまで結果的に全て先手番が勝利しているだけに、振り駒の行方も勝敗に少なからず影響を及ぼすしそうです。

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