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豊島八段が王位戦挑戦者に!試練のダブルタイトル戦は早くも二日後に開幕

time 2018/06/04

第59期王位戦挑戦者戦、羽生善治竜王vs豊島将之八段の対局は、豊島八段が126手で勝利し、菅井竜也王位への挑戦権を獲得しました。


二日後に開幕する棋聖戦でも激戦を予想させる、白熱のねじり合いとなった一戦を検証します。

現代将棋の純文学

羽生竜王の先手で角換わり腰掛銀となり、午前中から早いペースで指し手が進みました。

▲4八金型の先後同形は現代角換わりにおける大きなテーマで、端歩の関係が違う類似形も含めると変化は多岐に渡ります。過去には「将棋の純文学」と呼ばれた矢倉が絶滅の危機に瀕している現在のプロ棋界では、新たな「純文学」と呼んでもいいほど重要な戦型でしょう。

本局では羽生竜王は▲6六歩と突き、△6五歩と突かせてから▲3五歩、△同歩、▲4五桂と仕掛けました。

後手から△6五歩と攻めて来ることが見えているだけに損なようですが、▲6六歩、△6五歩の交換を入れることで後の▲7五歩の桂頭攻めに期待しています(▲6六歩を突いていないと△同歩、▲7四歩に△6五桂と跳ねられます)。本譜もそのように進み、左辺でのねじり合いが勃発しました。

混戦模様に

先手の大駒がつらい形を強いられ、ここでは後手が良さそうでしたが、△4五歩と取った手がやや甘く、▲8五桂、△7四飛に▲7六歩が大駒を近づけて受ける手筋になりました。次に▲7五銀と出られると双方の飛車の働きが一気に逆転してしまうため△同飛と取るしかありませんが、忙しい局面で一歩で一手を稼げたのは大きく、形勢は急接近しました。

△4五歩では△8六歩という絶妙のタイミングの利かしがありました。▲同歩ならそこで△4五歩と取れば、▲8五歩には△8六桂、▲8五桂には△8七歩がそれぞれ痛打となります。そのため△8六歩には取らずに▲6七金右と上がるしかなさそうですが、そこで△7四飛と引いておけば、先手は8七の傷をカバーしながら8五桂をうまく取り切ることが困難で、△4五歩の楽しみが残っている後手が優勢だったようです。

▲7七桂と▲8六歩のどちらでも△8五桂が取れない、という不思議な形は、部分的には若き日の森内vs羽生戦で後手の羽生四段が見せた印象深い勝ち筋に似ていますが、後手の飛車がこれほど先手の金銀と接近している形ではより一層見えづらい手ではありました。

最先端の中盤技術

数手進み、先手は駒得を果たした上に大駒の活用の目途も立った形となり、後手の指し手が非常に悩ましい局面ですが、ここで豊島八段がじっと△4二歩と自陣に手を入れたのが何とも味わい深い妙手でした。直接的に何らかの攻めを受けたわけではありませんが、スカスカの後手玉の周囲のスペースを埋めることが終盤になれば必ず活きると見ています。

本局の解説者の一人だった広瀬章人八段は、「豊島八段はやや形勢を損ねたと感じた時にに、切り替えて粘りに出るのが早い」と仰っていましたが、△4二歩も自分からは決して崩れない、という強い意志を感じさせる一手です。また、中盤戦で玉の周囲を歩で埋める一手の価値が思いの他大きいという大局観は、将棋ソフトの棋譜によく現れる指し方でもあり、人間相手の研究会を殆どしなくなったという豊島八段らしい一着だった気がします。

濃密なせめぎあいが続く中、難解な形勢が続いていましたが、ここで▲7七同金と取った手が結果的には敗着となったようです。以下△7六歩、▲同金、△同飛、▲7七歩に△7九角が厳しい寄せで、▲7八玉、△6六桂、▲6七玉に△7四飛と銀を補充する手がぴったりとなり(▲6二飛成には△7八銀以下詰み)、▲同飛に△5八桂成と取られて後手の速度勝ちがはっきりしました。

△7七歩の局面では▲7九金と引くしかなく、先手玉は非常に怖い形ながら後手も決定打となると難しかったようです。そこで後手も△5三角などと手を戻すことになり、形勢不明のねじり合いが続いていたと思われます。羽生竜王としては苦しめの将棋を盛り返していただけに、▲7九金を逃してほぼ一直線のレールの上に乗せられてしまったのは悔やまれるところです。

試練のダブルタイトル戦へ

最終盤、後手玉に詰みは無く、先手玉は受けなしです。△4七金を着手した豊島八段は、持ち時間を4分残して席を立ちます。羽生竜王は持ち時間を使い切って1分将棋となり、▲3四桂、△1三玉、▲3一角と首を差し出しました。△2二銀と打った豊島八段は再び席を立ち、▲同桂成と指された1分後に戻ると△3八桂成と最後の一手を着手しました。豊島八段ほどの実力者でも、最強の相手を破っての挑戦権獲得を目前にして心が震えたのかも知れません。

勝った豊島八段は王将戦、棋聖戦に続いて今年3度目の挑戦権獲得となり、二日後に開幕する棋聖戦へ向けた追い風にもなる大きな勝利を挙げました。ただし、豊島八段はこれまで幾度となく後一歩のところでタイトルを逃してしまっており、今年度の羽生竜王との勝負はタイトル戦の舞台である棋聖戦五番勝負が本番でしょう。

また、王位戦で激突する菅井王位も、羽生竜王と同じく豊島八段に勝ち越している(5勝2敗)数少ない棋士の一人であり、将棋界で最もスキがない男である豊島八段と言えども、当然ながら簡単に勝てる相手ではありません。

通算勝率に象徴される安定感では将棋界最強と言っても過言ではない豊島八段ですが、今年の夏こそは初タイトルを手にすることが出来るでしょうか。一ファンとしては、棋聖戦と王位戦が重なる過密日程の末に2勝3敗と3勝4敗で共に惜敗、という結果だけは避けて欲しいと切に願っています。

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