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将棋名局集「△7七桂」:羽生vs谷川 第9期竜王戦第2局

time 2018/02/23

この将棋は管理人が全てのプロ棋士の棋譜の中で最も好きなものです。これが初見だというあなたは、これから伝説の絶妙手を体感できる非常に幸運な方です!


第9期竜王戦七番勝負第2局

1996年10月29日
羽生善治6冠(1勝) vs 谷川浩司九段(0勝)
対局場:岡山県倉敷市「芸文館」
持ち時間:各8時間

空前絶後の7冠独占から8か月。羽生竜王は棋聖こそ三浦弘行五段に失ったものの、棋王・名人・王座・王位と防衛戦を勝ち続け、6冠を堅持していました。

一方の谷川九段は、王将を4連敗で奪われ、背後から日本中のカメラが勝者の羽生7冠へ向けられる屈辱を味わったばかり。それでも竜王戦は準決勝で森内俊之八段、挑戦者決定3番勝負で佐藤康光八段と難敵を連破して挑戦者となりましたが、第1局は熱戦の末に先手番を落としてしまいます。

第2局は角換わりとなります。先手番で主流である腰掛銀に対し、後手の棒銀は相性が良いとされていました。腰掛銀、早繰り銀、棒銀はじゃんけんの関係にある、などと良く言われますね。

ちなみに現代では、▲3八銀・3七桂型で待ち構える形に対する後手の勝率が芳しくなく、棒銀そのものがプロではあまり見られません。

ここから▲6五歩と突き、△7四歩に▲6八飛と転換しました。6筋からの反撃を見せて棒銀をけん制する手法は現代でも見られます。後手も△7三銀と引き上げ、一気の急戦は回避されて駒組が続きました。

ここでは7三の銀の使い方が難しく、5筋の位も銀に狙われて負担になりそうな形で、先手が作戦勝ちでしょう。羽生6冠は具体的な有利さを求め、▲6一角と動きます。以下、△6二飛、▲8三角成、△9二角、▲同馬、△同飛、▲2五桂と、全面戦争に突入です。

後手、反撃開始

後手に2五の桂を取らせる間に先手は金銀を活用し、6筋の突破が受かりません。

ここで△5五歩と叩いたのが妙手。▲同金だと△6四銀、▲同飛、△7三角で浮き駒となった金を狙われるため、▲同銀と取りましたが、△7五歩で先手玉に嫌味が付きました。

△5五歩▲同銀となった局面は、先手の飛車が素通しとなり、すぐに成り込まれてしまいますが、7三に銀がいれば飛車が成った瞬間に△6二飛とぶつける返し技があります。働きが弱い9二の飛車を活用されるだけではなく、現状では玉形の差(先手玉の守りは金銀2枚に対し、後手玉は3枚)により飛車交換は後手に有利なため、先手はうかつに飛車が成れません。

7三の銀は序盤から働きが今一つだったため、6四の銀となら喜んで交換してしまいそうですが、この場合は潜在的に飛車成りをけん制するという隠れた働きが生じているのですね。

ちなみに、8八玉・6八飛(もしくは角金銀のような高い駒)という配置に対して桂を持っている場合、△7五歩と突く手はいわゆる「筋」という手です。「7六に桂を打てれば両取り」という、単純ながら厳しい狙いを含みに先手玉を弱体化させることができ、悪手になることは殆どありません。

8一の馬を6三へ引いた局面です。飛車交換は依然として玉が固い後手有利なので、先手としては後手の6二飛・7三銀を抑え込みながら、中央の金銀が厚みとなって働く長期戦を目指したいところです。

しかし、結果的にはこの▲6三馬は危険で、▲6三歩なら僅かながら先手の模様が良かったようです。

ここで谷川九段は△5九角。依然として飛車は渡せないので▲6九飛ですが、そこで伝説の絶妙手が飛び出します!

「光速流」さく裂、△7七桂

一体何枚駒が当たっているか分からないような忙しい局面で、さらに焦点に捨てる△7七桂!痺れますね~

▲同桂や▲同金と取ると、△7六歩で後手の攻めが加速します。一方、桂を捨てる前に銀を取ると、後から△7七桂と打っても手抜かれる恐れが生じます。▲6九飛と引いたこの瞬間だからこそ、飛車取りになっていて先手も応対せざるを得ないのですね。

そこで先手は▲5九飛と角を取り、後手も△6三飛。6筋は先手の飛車の勢力圏だったのですが、いつの間にか後手の飛車が大活躍しています。

ここで▲6五銀と逃げながら後手の飛車筋を止めていれば、まだ難しい形勢でした。しかし、谷川九段の一連のハードパンチの前に、さすがの羽生6冠も最善手を指し続けることは至難の業で、▲5四角と打ってしまい、△6八角(!)がさく裂しました。

▲5八飛、△8九桂成、▲同玉、△7六歩と進んで、ついに先手玉は収拾困難となりました。6三飛、6八角のどちらを取っても、△7七歩成を含みに上から押しつぶされてしまう形です。

△6三桂を見て、羽生6冠が投了されました。5五の銀を取って駒を補充する手もあり、先手玉は一手一手の寄り形です。

谷川九段はこの勢いのまま4勝1敗で竜王奪取に成功します。さらにその半年後には羽生5冠から名人位も奪還し、無冠から華麗なる復活を果たします。

その後は2004年に渡辺明竜王が誕生するまで、将棋界のタイトルは羽生世代の棋士達と谷川九段で争われる時代が続きました。

△5九角、▲6九飛、△7七桂という手順は、まさにこれしかないという唯一の攻め筋で、あまりにもカッコ良すぎる組み立てでした。谷川光速流対羽生マジックの戦いは両者の卓越した終盤力で多くのドラマを生み出して来ましたが、本局はその中でも谷川九段の最高傑作ではないかと管理人は思います。

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管理人の棋力はアマ五段くらい。好きな棋士は谷川浩司九段、「将棋の渡辺くん」に登場する渡辺棋王、佐々木勇気六段の話をする三枚堂達也六段、「りゅうおうのおしごと!」に登場する空銀子女流二冠です。

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