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将棋名局集「▲7七桂」:渡辺vs佐藤(天)第41期棋王戦第4局

time 2018/02/23

飛ぶ鳥を落とす勢いの佐藤八段に、渡辺棋王が死力を尽くして立ちはだかった2015年度棋王戦。第4局は渡辺棋王が「自分の全公式戦の中でも3本の指に入る将棋だった」と語る大熱戦となりました。


第41期棋王戦第4局

2016年3月21日
渡辺明棋王(2勝) vs 佐藤天彦八段(1勝)
対局場:栃木「宇都宮グランドホテル」
持ち時間:各4時間

この年は王座戦で羽生4冠をフルセットまで追い詰め、A級順位戦でも名人挑戦を決めるなど、絶好調だった佐藤八段。一方の渡辺棋王も竜王復位を復位を果たすなど、両者充実著しい状態で迎えた棋王戦。第1は渡辺棋王、第2局は佐藤八段がそれぞれ単手数で制した後、第3局は相穴熊のねじり合いの末に渡辺棋王が2勝目を挙げます。

カド番の佐藤八段は横歩取りを採用します。この年の佐藤八段は特に後手番の横歩取りではここまで14勝3敗と圧倒的な勝率を挙げており、躍進の原動力となっていました。

渡辺棋王が▲8五桂と跳ねて、本格的な戦いへ突入しました。次に▲7四歩、▲5五角、▲4五桂など複数の狙いがあり、ここでは先手がうまく戦機を掴んだ感じでしょうか。

後手は△7三桂と応じ、▲同桂成、△同角、▲4五桂打に△4一桂打と、千日手含みで頑張ります。

渡辺棋王、踏み込む

先手が千日手を打開して攻め続けた局面。ここで渡辺棋王は▲3三角成と踏み込み、△同玉に▲3四桂と打ちます。後手玉をしばりながら次に▲2五銀で飛車を詰ます狙いですが、△2五桂が「敵の打ちたいところへ打て」の格言通りの受けで、形勢は難しくなりました。

▲3四桂では▲4五桂、△2二玉、▲3四桂、△1二玉、▲3三銀と平凡に追う方が勝ったようです。

先手の飛車が後手玉に迫った瞬間に、王手飛車を含みに後手も敵玉へ肉薄して迎えた局面。お互いの桂が急所に刺さる、壮絶な打ち合いになっています。

ここで△2六飛が、▲4五桂までの詰めろを防ぎながら間接的に先手玉の上部脱出をけん制する攻防手。▲2七歩、△同成桂、▲2五歩と再度詰めろを掛けますが、△4五角がそれを受けながら飛車取りとなる切り返し。しかし先手も▲6四飛、△同歩、▲5六桂と応じ、両者1分将棋の中で形勢不明の激戦でが続きます。

後手玉はまたしても風前の灯ですが、△5六飛と切り、▲同歩に△2七角成が詰めろ逃れの詰めろです。しかし▲7七桂と打った手がその詰めろを受けながら左辺への後手玉の退路を塞ぐ、もはや本局で何度目かわからない攻防手で、クライマックスを迎えます。

秘技、「▲7七桂」

△6八飛成は詰めろにならないため、▲6四角成で先手の勝ちです。佐藤八段は△8五桂と迫りましたが、▲9六玉で先手玉が寄らなくなり、ついに大勢が決しました。

後手の唯一の勝ち筋は△8五金で、▲同桂は△8八銀から詰みます。そのため▲3四飛、△4五玉、▲4六歩と迫りますが、強く△同玉と取る手があり、▲6四角成に△4七玉で逃げ切れていました。いずれ取られてしまいそうなところへ後手玉の寄せに役立ちそうな駒を打つ△8五金と、先手に手順に▲6四角成の活用を許す△4六同玉という、読みづらい手の組み合わせが唯一の勝ち筋だったのは、佐藤八段にとって不運だったと言うしかありません。

ちなみに、△8五金、▲3四飛、△4五玉に▲4六銀と打つと、△5六玉、▲5七銀引、△4五玉、▲4六歩、△5四玉で詰みません。しかしここで先手の持ち駒に歩が1枚でもあれば、▲5五歩と打って王手を続けながら6六の桂を外す手順があり、先手の勝ちでした。

横歩取りは飛車、角、桂といった飛び道具が活躍しやすいことから「空中戦」と呼ばれますが、本局は大駒と全ての桂が目まぐるしく飛び交い、空中どころか宇宙で戦われているかのような壮絶な戦いとなりました。その大熱戦の最後に形勢を決めたのは、文字通りたった一枚の歩の差だったという事実が、本局の芸術性をさらに高めていると感じます。

渡辺棋王は本局に勝って防衛を果たし、翌年には5連覇で永世棋王の資格を獲得します。一方の佐藤八段も、直後に行われた名人戦で羽生4冠からタイトルを奪取しています。タイトル戦を羽生世代が支配する時代は終わりを迎えた感がありますが、躍進著しい20代の若手棋士の前には、当然ながらこの二人も大きな壁として立ちはだかり続けそうです。

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