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将棋名局集「大一番の強さ」:渡辺vs永瀬 第28期竜王戦挑戦者決定戦

time 2018/03/29

棋王戦最終局を明日に控えている渡辺明棋王と永瀬拓矢七段。今年度の永瀬七段は他棋戦でも絶好調で、棋王戦では悲願の初タイトル獲得まで後1勝と迫っていますが、今シリーズ開幕前までは渡辺棋王に1勝5敗と大きく負け越していました。本局は両者の対戦の中で、大勝負で渡辺棋王の持ち味が最大限に発揮された一番です。


出典:Abema TV

第28期竜王戦挑戦者決定三番勝負第3局

2015年9月14日
渡辺明棋王(1勝) vs 永瀬拓矢六段(1勝)
対局場:東京将棋会館
持ち時間:各5時間

デビュー以来毎年のように高勝率を残しながら、2013年度には棋王戦挑戦者決定戦で敗れ、順位戦も僅か1枚の順位の差で昇級を逃すなど、ここ一番での敗戦や運のなさが目立っていた永瀬六段。しかし2015年度は例年をも上回るペースで勝ち続け、竜王戦では準決勝で羽生名人を破って挑戦者決定戦へ進出しました。

対する渡辺棋王も、前年度末にフルセットの末王将位を奪われたものの、その後は10勝3敗としり上がりに調子を取り戻して竜王戦を勝ち上がっていました。

両者1勝1敗で迎えた第3局は、渡辺棋王の先手で角換わりに。

右辺の小競り合いを経て結果的に先手が2~4筋の歩交換を果たした局面。3四銀+2三金と盛り上がった格好がいかにも受け将棋の永瀬六段らしい指し方ですが、平凡に△2八角のような手では▲7一角、△7二飛、▲4二飛成、△同飛に、▲5三角成もしくは▲4五桂(△同銀右と取らせてから▲5三角成とすることで△4九飛成を封じています)から強襲されて自信が持てない展開です。

永瀬六段はここで△4四歩という手筋の受けを繰り出しました。次こそ△2八角があるため先手も▲同飛と取るしかなく、△2六角、▲7一角、△7二飛と進み、今度は桂取りに打った角が5三の地点も睨んでいるため、▲4二飛成が成立しません。そこで渡辺棋王は今度は▲5四飛と切り(△同歩は▲2六角成)、△7一飛、▲6四飛と進行します。

渡辺棋王の大局観

後手が2六へ打った角を3七~7三と活用した局面。攻撃の要である竜が取られそうな情勢ですが、あっさり▲同竜と取り、△同桂、▲5五角、△3三歩、▲7三角成と進めた局面を、先手が指せると判断していたのが渡辺棋王の秀逸な大局観でした。飛車角交換の上に先手から次に早い攻めがあるわけでもなく、一見すると不安を覚えますが、持ち歩の差(4枚対0枚)、駒の働きの差(7三馬対4一飛)、玉形の差(先手はどこかで▲6七銀と引き締める手の味が絶品)などの細かい加点要素が徐々に物をいう展開となって行きます。

後手が△4一飛の活用を図った局面ですが、▲2八馬と引きつけたのが腰の重たい受けでした。△6九飛成に▲6八金右、△5九竜、▲3七角と一貫して竜を追い、△4九竜に▲9一角成と進んで先手優勢がはっきりしました。後手は△4九飛成と成って一段目に二枚飛車の形を築く以外に先手玉へ有効な攻めがなく、先手は香を入手したことで次の▲3六桂~▲2四歩が非常に厳しい狙いとなっています。

結果的には、▲2八馬には△3六飛成と成って息長く指せば、やや苦しめながら後手もまだ戦えました。しかし、△3六飛成は次に積極的な狙いがない粘りの手なので、細かい攻めを繋げる技術が天下一品の渡辺棋王を相手に指すにはかなり勇気がいる手ではあります。

見た目以上の差

後手が苦心の手順でと金を作る間に、先手は待望の▲3六桂を実現させました。駒の損得は殆どないものの、先ほど述べた加点要素(持ち歩の差、駒の働きの差、玉形の差)がより鮮明になっており、見た目以上に形勢に差がついています。この後は▲4四香に対して歩を受けられず(持ち歩の差)、4一飛や5四銀が馬で狙われ(駒の働きの差)、玉頭の嫌味も最後まで解消出来ない(玉形の差)という、後手にとって辛い展開が続き、渡辺棋王が押し切りました。

永瀬将棋の進化

△7三馬と引きつけられてもあっさり飛車角交換に応じて指せると見た大局観は、後の▲2五歩からの細かい攻めを繋げられる渡辺棋王の技術があってこそ成立する感覚で、本局は渡辺将棋の典型的な勝ちパターンが決まった将棋でした。

一方、この当時と現在の永瀬将棋を比べると、明らかに現在の方が攻撃性を増しています。例えば、後手番で角換わり相腰掛け銀を受けることは少なくなり、多くの戦型で攻撃的な早繰り銀を採用していますし、裏芸である振り飛車の採用率も減少しています。現代将棋の全体的な傾向として積極策が重視されている影響もありますが、元々棋界トップクラスだった中終盤の受けの技術が序盤からリードを奪いに行く姿勢と融合したことが、今年度の飛躍に繋がっているようです。

渡辺棋王の優れた大局観と攻めの技術に押されていた永瀬七段の受け将棋が、現代将棋の積極性をうまく取り入れたことで、互角の攻防が繰り広げられている今期の棋王戦。今年度の成績や勢いは明らかに永瀬七段が上回っていますが、渡辺棋王には数々のタイトル戦で発揮してきたここ一番での勝負強さがあります。明日行われる最終局で、最後に笑うのはどちらでしょうか。

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