将棋を100倍楽しむ!

将棋名局集「▲7七桂」:深浦vs羽生 第48期王位戦第7局

time 2018/03/02

2017年の「炎の7番勝負」で藤井聡太四段に敗れた後、藤井四段が住む愛知まで通って研究会を行っていたという深浦康市九段。勝負への執念と不利になってからの粘り腰は天下一品で、叡王戦では藤井四段が局後へ脇息へ崩れ落ちるような大逆転勝ちを収め、見事に雪辱を果たしました。



本局は2年連続でフルセットにもつれ込んだ、深浦九段と羽生竜王の王位戦からの一局です。

第48期王位戦七番勝負第7局

2007年9月25日
深浦康市八段(3勝) vs 羽生善治3冠(3勝)
対局場:神奈川県泰野市「陣屋」
持ち時間:各8時間

毎年のように高勝率を残しながら、五段時代の1996年以来タイトル戦から遠ざかっていた深浦八段。しかしこの年はついに王位戦で挑戦権を獲得すると、羽生3冠相手に一進一退の攻防を繰り広げ、両者3勝3敗で最終局へもつれ込みます。

振り駒で深浦八段の先手となり、羽生3冠はゴキゲン中飛車を採用します。第6局では羽生3冠のゴキゲン中飛車に対して深浦八段が快勝していたのですが、大一番で裏芸ともいえる振り飛車をそれでも連投する辺りは、勝負師の意地でしょうか。

深浦八段が居飛車穴熊を目指し、羽生3冠は飛車を3筋へ転換します。

まだまだ駒組が続きそうな局面ですが、深浦八段は▲3八飛と早くも動きます。以下△6三金、▲3六歩、△同歩、▲同銀、△5六歩と、両者共に自陣に不安を抱えたまま決戦になりました。

居飛車対振り飛車の戦いは、居飛車側が十分に穴熊に組めれば玉の堅さの違いで作戦勝ちになるケースが多いです。しかし、△3四飛+△3三桂の形は、石田流と呼ばれる振り飛車側の理想形の一つで、居飛車穴熊対石田流の戦いは必ずしも居飛車の作戦勝ちとは言えません。

本局の場合は△5五歩+△5四銀の形も好形で、通常の石田流よりも後手が得している形です。そのため、深浦八段は▲7九金から自陣の整備を続け合う持久戦はあまり面白くない、と判断されたのかも知れません。

ここで△3七歩が攻めの継続を図る手筋。先手の飛車が3八から移動すると6六の角を成られてしまうので▲同桂の一手ですが、△3六歩、▲4五桂(▲同銀は△4六飛で後手良し)、△3七歩成で突破に成功しました。

ただし、先手の桂を手順に働かせた意味もあり、以下▲6六金、△3八と、▲6五金、△6七飛と切りあいが続き、形勢は難解です。

先手が細い攻めをつなげてリードを奪いつつありますが、ここで▲6二金打としたのがやや重たい攻めで、△5四飛で差が詰まりました。▲6三歩、△同銀としてから▲6二金打と指せば銀取りにもなり、△5二銀には▲4四角が次に▲7二飛までの詰めろとなるぴったりの一手で、優位を拡大できていたようです。

薄い玉型で耐えていた後手に、ついに待望の反撃が回ってきた局面。後手玉は詰まず、先手玉は△8八角成以下の詰めろで、6八の銀を取っても△8八角成、▲同玉、△7九銀以下詰んでしまいます。

秘技、「▲7七桂」

ここで▲7七桂(!)が詰めろ逃れの詰めろとなる絶妙手。△6九銀成不成、▲6二金打、△同角、▲同金、△同玉、▲5三角、△同玉に、▲6五桂と竜を取る手がぴったり王手になります。最後は7八の香も働いて後手玉は詰み、深浦八段の勝ちとなりました。

幻の返し技、「△7六桂」

しかし、実は▲7七桂に対しては△7六桂(!)という「詰めろ逃れの詰めろ逃れの詰めろ」がありました。▲6二金打以下の攻めは最後に7六桂が7八香を遮断する形になり、後手玉は詰みません。

ただし、△7六桂に対しては▲6三金、△同玉、▲6一竜という筋があり、この時に7六桂と使ってあるために持ち駒に桂がなく、△6二金と合い駒をするしかないため後手玉は非常に危険です。しかし、この順も後手玉は僅かに詰まず、結果的には後手が勝っていたようです。

絶体絶命の局面から、穴熊の守備駒をフル活用した「▲7七桂」という「詰めろ逃れの詰めろ」と、それを上回る幻の「詰めろ逃れの詰めろ逃れの詰めろ」、「△7六桂」。劇的な最終盤で最後に勝利の女神がほほ笑んだのが天才ではなく苦労人だった、というところにも、ドラマ性を感じずにはいられません。

深浦八段は悲願の初タイトルを獲得し、その後3連覇を果たします。王位戦で見せたような終盤の強靭な粘り腰を、再びタイトル戦で見たいファンは多いはずです。

 

宜しければクリックをお願いします
ヾ(@⌒ー⌒@)ノ
bougin にほんブログ村 その他趣味ブログ 将棋へ
 



down

コメントする







 当サイトについて

ベンダー

ベンダー

将棋界の最新ニュース、独自のコラム、詳しい棋譜解説から将棋めし情報まで、将棋を100倍楽しむためのコンテンツをご紹介します。
当サイトはリンクフリーですが、記事・画像の無断転載は固くお断り致します。相互リンクをご希望の際は、サイト下部のお問い合わせフォームよりご連絡下さい。
管理人の棋力はアマ五段くらい。好きな棋士は谷川浩司九段、「将棋の渡辺くん」に登場する渡辺棋王、佐々木勇気六段の話をする三枚堂達也六段、「りゅうおうのおしごと!」に登場する空銀子女流二冠です。

メールマガジン登録

当サイトの更新情報をメールでお知らせします。受信箱を確認して登録手続きを完了して下さい。