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将棋名局集「△8一玉」:中原vs大山 第31期名人戦第2局

time 2018/03/02

鉄壁の守備力で無敵を誇った大山15世名人。多くの受け将棋の名局の中から、時代の覇権を懸けた中原16世名人との名人戦の一番です。


第31期名人戦七番勝負第2局

1972年4月7日
大山康晴名人(0勝) vs 中原誠2冠(1勝)
対局場:東京都渋谷区「羽澤ガーデン」
持ち時間:各9時間

デビュー以来毎年7割を超える高勝率を重ねていた中原2冠は、1970年に大山名人から十段と棋聖奪取し、大山名人以外では実に13年ぶりの2冠王となります。そして1972年にはついに名人戦へ登場し、3冠王の大山名人と相まみえます。名人位という最高峰のタイトルの重みに加え、中原2冠が勝てば両者のタイトル数も逆転する状況で、さらに第1局は中原2冠の圧勝となり、大山名人としては絶対に負けられない一局でした。

大山名人の中飛車に対し、中原2冠は棒銀から急戦を仕掛けます。

△6三銀~△7二飛が、大山将棋によく見られた急戦対策の一つです。美濃囲いをあえて崩してしまいますが、先手の玉頭に直接襲い掛かることで、先手の右辺の攻め駒が働く前に左辺を主戦場にしようとしています。振り飛車が△7二や▲3八へ飛車を転換するのは現代でも振り飛車穴熊においては良く見られる構想です。

とはいえ、先手に右辺の勢力圏を明け渡す指し方だけに、当然リスクもともないます。中原2冠は▲3五銀、△7五歩に▲4五歩と攻め、両者の主張が激しくぶつかります。

先手は角銀交換の駒得ながら、7六歩や4八との存在が大きく、忙しい局面です。しかしここで▲2八角と打った手が絶好の遠見の角でした。△6三歩などでは▲6五歩、△7三銀、▲7四歩で受けにならないので、△3七歩、▲同角、△5五歩と止めますが、▲7三歩、△同飛、▲5五角左、△同銀、▲同角と進み、玉頭の勢力図が一変しました。ただし、後手にも依然として△5八との楽しみが残っていて、形勢はまだ難解です。

先手は豊富な持ち駒と▲5五銀に加え3三の桂も補充できそうな局面で、守備駒から孤立した後手玉は絶体絶命に見えます。しかし、大山名人はここから△5三金、▲3三歩成、△5四歩と、相手の攻め駒をさらに呼び込みます。当然先手は猛然と襲い掛かりますが・・・

△8二玉には▲9四桂、△9二玉、▲9三桂成以下、△6二玉にも▲7四桂、△5一玉、▲9三桂成で次に▲6二角、△同金、▲7一飛成が非常に厳しく、後手玉は一手一手です。

「△8一玉」

しかしここで△8一玉(!)と引いた手が受けの絶妙手でした。

「玉は下段に落とせ」という、寄せの金言とも言うべき格言に真っ向から反する△8一玉が、この場合は例外的に正着で、なんと後手玉は寄りません。▲8三飛成、△8二歩に本譜は▲7三桂不成と追撃しましたが、△7一玉、▲6一桂成、△同銀、▲7二歩、△同銀、▲5三飛成に△6一銀打で、有効な攻めがなくなってしまいました。

▲7三桂不成に代えて▲9三桂不成としても、△9一玉、▲9二角、△9一玉、▲9三竜に、△7五角がぴったりでこれも後手が凌いでいます。

「助からないと思っても助かっている」

大山名人は「助からないと思っても助かっている」という言葉を好まれていました。

「わが家の宝物のなかに二枚の陶板があります。一枚は『助からないと思っても助かっている』 もう一枚は『一灯破闇』という文字が書いてあります。(中略)

終盤になって形勢が悪く、つい弱気になってあきらめようかと思ったとき、この陶板の文句を思い出します。『助からない』という弱気を吹きとばして『助かっている』という気持ちで盤上を見直します。不思議なもので苦戦のなかから『一灯闇を破る』手が浮かんできます」

(「大山、中原激闘123番」より)

「△8一玉」という例外的な妙手に象徴される大山名人の受けの強さを支えたのは、このようなメンタルの強さだったのではないでしょうか。

名人戦7番勝負は本局を境に大山名人が盛り返し、3勝2敗と先に防衛に王手を掛けます。しかし、第6、7局で中原2冠が意表の振り飛車を採用し、逆転でタイトルを奪取します。結果的にその後大山15世名人が再び名人の座に就くことはなく、時代は中原時代へと移行します。

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