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B級2組昇級を決めた永瀬七段の伝説の1手:「角不成」特集

time 2018/03/14

今期8割に迫る高勝率を挙げ、順位戦でもB級2組昇級を決めた永瀬拓矢七段。その永瀬七段は、過去に「角不成」という非常に珍しい手を大舞台で指したことがある、数少ない棋士でもあります。


今回は「角不成」という、数万局に1局レベルの珍事にまつわる対局をいくつかご紹介します。

角を成らない理由

飛車、角、歩を成ると、それぞれ完全上位互換の駒に変化するため、不成の方がいいケースというのは殆どありません(ちなみに銀、桂、香の成駒は成る前の完全上互換ではないため、不成の方が良いことは多々あります)。

成っても成らなくても直後に相手に取り返されるため結果は同じ、ということはありますが、その場合でも「不成」を選択する人は殆どおらず、中には「不成」を失礼だと感じる相手もいます。非常に持ち時間が短い練習将棋などでは、駒を動かすために要する時間を少しでも短縮するために「不成」が飛び出すこともありますが、プロの公式戦ではそのようなことも起こり得ません。

そのため、「角不成」が理論上最善手となるのは、敵玉を詰ます際に不成によって打ち歩詰めを回避できる場合のみです。少なくとも、プロ同士の対局ではそうなのですが・・・

永瀬七段の角不成

2015年に行われた、プロ棋士対将棋ソフトの団体戦、電王戦Final。第2局でSeleneと対戦した永瀬七段は、中盤からやや苦戦を強いられますが、一瞬のチャンスを活かして逆転に成功します。

当時のソフトは先手有利と認識していた局面ですが、実際はここから△2七角成から攻め続けた数十手先に先手玉に寄りがあり、後手が勝勢になっています。後手の永瀬七段も読み切っていましたが、ここであえて△2七「角不成」と指します。

成でも不成でも、この場合は先手は▲同玉と取るしかないため同じ局面へ合流します。しかし、永瀬七段は事前の練習の中で、Seleneがバグにより「角不成」という(殆ど実戦で登場することがない)指し手を認識出来ないという事実を発見していました。結局Seleneは△2七角不成に対して続行不能に陥り、協議の結果永瀬七段の勝ちとなりました。

局後の感想では、勝ちを確信した局面になった場合にのみ「角不成」を使用するつもりだったと永瀬七段は語っています。実際にこの対局でも「角不成」を指すだけならここまでにチャンスは何度もあったため、Seleneのバグが直接勝敗に影響を及ぼしたわけではありません。しかし、「99%以上の勝ち(の局面)を、さらに100%に近づけようとした恐ろしい勝負師魂」(立会人の三浦弘行九段)を見せつけた、永瀬七段らしい勝ち方でした。

谷川九段の角不成

棋士同士の公式戦で最も有名な「角不成」は、1983年の王位戦リーグ、谷川浩司名人対大山康晴15世名人の対局です。

ここから先手の谷川名人は▲8三桂不成と後手玉を詰ましに行きます。以下△同金、▲7二銀、△同金、▲6一金、△8二玉、▲7二桂成、△同玉、▲6二金、△7三玉、▲6三金、△同玉、▲5二角打、△6四玉、▲6三金、△6五玉。

そして▲4三角引不成(!):

以下△5四歩、▲6六銀打、△同と、▲同歩、△5五玉、▲5六歩までで、大山15世名人が投了しました。

この時、先ほどの角不成に代えて▲4三角引成だと、投了図で後手玉が4四へ逃げられず打ち歩詰めの禁じ手になってしまいます。永世名人同士の対局にふさわしい、35手詰という長手数の芸術的な実戦詰将棋でした。

タイトル戦の幻の角不成

惜しくも実戦には現れませんでしたが、タイトル戦の変化の中で角不成が登場したこともあります。2013年の第70期王将戦第1局、佐藤王将対渡辺2冠の終盤戦。

佐藤王将はここで▲4五桂と打ちましたが、結果的には▲3四桂が正解でした。渡辺2冠の予定は△1九歩成でしたが、以下▲2一飛、△3一香、▲2二桂成、△2四飛、▲3五玉、△2二金(香の利きで王手)に、▲3三桂、△同金、▲同「角不成」という絶妙手がありました:

以下△3四歩、▲4五玉、△5三桂、▲5四玉、△4二桂、▲4三玉、△5二金、▲4四玉と進んだ時に、角不成の効果で後手は△4三歩と打てません。

感想戦でこの手を指摘された佐藤王将は「ひえー、そんな手が」と悲鳴を上げて天を仰ぎました。タイトル戦の勝利のみならず、歴史に残るような「角不成」を指すチャンスを逃してしまったことも、棋士としては悔やまれるところでしょうか。

詰将棋では比較的頻繁に見られるものの、実戦で出現することは非常に稀な「角不成」。将棋ソフトのバグという特殊事情があったものの、大舞台で「角不成」を実現させた永瀬七段は、何かを「持っている」と感じさせる棋士の一人です。

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