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将棋名局集「豊島惜敗」:羽生vs豊島 第62期王座戦第5局

time 2018/03/08

毎年のように高勝率を挙げながら、後一歩のところでタイトルを逃している豊島八段。今年度も王将挑戦を果たし、順位戦では一時星二つの差をつけて独走していましたが、王将戦は2勝3敗とカド番に立たされ、順位戦はプレーオフで後4連勝が必要と、いずれも後がなくなっています。その豊島八段が羽生王座を土俵際まで追い詰めた、2014年の王座戦最終局をご紹介します。


第62期王座戦五番勝負第5局

2014年10月23日
羽生善治王座(2勝) vs 豊島将之七段(2勝)
対局場:神奈川県横浜市「横浜ロイヤルパークホテル」
持ち時間:各5時間

当時史上最速となる中学2年の4月には三段昇段を果たすなど、早くからその才能を注目されていた豊島七段。デビュー以来ほぼ毎年7割を超える勝率を挙げ、評判通りの活躍を見せますが、タイトル戦には2010年に王将戦に登場(久保王将に2勝4敗で敗退)した以外は縁がなく、本局は久しぶりに掴んだチャンスでした。

一方の羽生4冠は、この年は名人戦で森内名人にストレート勝ちを収めるなど、王座戦開幕前まで18勝3敗と絶好調でした。その勢いのまま、王座戦も第1,2局と連勝スタートを切ります。

しかし豊島七段も第3局を横歩取りの激戦の末に制すと、第4局では意表の先手中飛車を採用して快勝し、勝負は最終局までもつれ込みます。

新時代の象徴、「△6二玉」

ここで豊島八段は△6二玉から美濃囲いへの組み換えを図ります。現在では時々見られる指し方ですが、4年前にはまだ珍しい構想で、この年の3月に行われた第3期電王戦では将棋ソフトのYSSが豊島七段相手に指して注目を集めていました。その将棋は本局と全体の形はかなり違ったため、豊島七段が序盤に速攻を決めて勝っていますが、YSSとの対戦を通じて△6二玉から美濃囲いを目指す構想そのものは優秀だと認識されたようです。

また、豊島七段はこの頃から将棋ソフトを取り入れた研究の割合を増やしています。過去の常識が将棋ソフトによって次々と塗り替えられている現代将棋の香りが、本局の序盤からも感じられます。

長い駒組が続き、対抗形のような局面へ進展しています。右辺の後手の駒の活用が難しく、先手がやや良さそうですが、ゆっくりしていると△2四歩から桂を取る手が間に合うため、具体的な良さを求めなければならない局面でもあります。そこで羽生4冠は▲1四歩と仕掛け、△同歩、▲5六歩、△2四歩、▲1二歩と、ねじり合いに突入します。

後手は歩の手筋を駆使して手を作ろうとしていますが、7一角と3二金が依然として機能しておらず、中々突破口が見つかりません。豊島七段は△7五桂と打ちましたが、▲7六金、△3五歩、▲同銀、△同銀、▲同角、△6七銀に、▲7五金と取られて攻め駒不足が目立ってしまいました。

△7五桂では、やや苦しいながらも△4六歩と突き、▲同歩、△3五歩、▲4七銀、△2五銀と、息長く指した方が良かったようです。

羽生4冠、最短の勝ちを目指す

▲同歩から丁寧に受けていても勝てそうな局面ですが、羽生4冠は▲9五歩(!)、△4五飛、▲9四歩(!)と踏み込みます。後手玉の急所を突いた非常に厳しい攻めですが、相手に大駒を渡したことで一手争いの斬り合いになり、先手優勢ながら後手も希望が持てる展開になりました。

端を突破された後手玉は風前の灯ですが、豊島七段は△9三飛成(!)、▲同竜、△8二銀と、タイトルへの執念を見せます。竜を逃げても先手が良さそうですが、後手玉が当分寄らない形になるため△5七桂成からかなりの長期戦を覚悟しなければなりません。

一分将棋の先手は▲同竜と踏み込みます。△同玉、▲9一銀・・・羽生4冠の指が何度も震え、豊島七段も最後の一分を使い切ります。両対局者も控室の棋士達も結論を出せずにいる中、秒読みの声だけが響き続けます。

結果的には▲9一銀では▲9三銀が正解で、本譜は後手に一瞬のチャンスが訪れます。

59秒まで読まれた豊島七段は△5一金と指しましたが、▲5四香が詰めろになり大勢が喫しました。代わりに△5二金上としていれば、先手玉ももう一枚銀を渡すと△6九銀、▲同玉、△5七桂不成以下の詰みがあるため、先手優勢ながらもまだ難解な終盤が続いていました。

豊島八段の不運

A級棋士でありながら未だに7割近い通算勝率をキープしている豊島八段。絶好調の羽生4冠を後一歩まで追い詰めた2014年の王座戦以降も、常に全棋士トップクラスのレーティングを維持するなど、いつタイトルを取っても不思議ではない状態が続いています。しかし、今年度は王将挑戦を果たし、順位戦も一時は星二つの差をつけて独走していたものの、現在は王将戦は2勝3敗と追い込まれており、順位戦も挑戦まで5連勝が必要な6者プレーオフに引きずり込まれてしまいました。

真の将棋界最強は誰だ?「レーティング」が示す「不運な棋士とは?」

後一歩のところで何度も栄冠を逃している豊島八段。今年こそはその確かな実力でタイトルを掴めるでしょうか。

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