2018/10/16
将棋の入門書は数多く出版されていますが、将棋をこれから始めようという方には、名前に聞き覚えのあるプロ棋士が書いたものの方が手に取りやすいのではないでしょうか。
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棋士は公式戦の対局の合間に執筆などの普及活動も行いますが、入門書に関しては時として違う動機もあるようです。
森内九段の妙手と、佐藤九段の対策
1997年に放送された将棋番組で、森内俊之八段と佐藤康光八段は当時アイドルだった佐藤藍子さんと共演しました。
休憩時間に森内八段は、佐藤藍子さんに「将棋はできますか?」と声をかけます。
20歳の女性が将棋を指せる確率は残念ながら低く、佐藤藍子さんはあまり将棋を知らないようでしたが、森内八段はすかさず「僕、最近将棋の入門書を出したんですよ」と言い、次の休憩時間にはサイン入りの入門書をプレゼントしました。
このことを聞きつけたのが中井広恵女流六段でした:
後日、森内八段に会ったので、さっそく真相を確かめてみた。
「この間、あの佐藤藍子に速攻をかけたんだって?」
すると、隣にいた佐藤康光八段が、
「ちょっと広恵ちゃん、聞いて下さいよ。ずっと休み時間も二人で話しているんですよ。絶対森内君怪しいからよく調べて下さい」
佐藤八段がこんなにムキになるなんて、彼も狙っていたのかしら?
「入門書にサインしてあげたんでしょ?」
とさらに突っ込みを入れると、
「たまたま持っていたんで…本当ですよ」。
「またぁ、ちゃんと用意していったくせに。で、やっちゃん(A級の先生に大変失礼なのだが昔からそう呼んでいたので)はあげなかったの?」
すると、急に佐藤八段が真剣な面持ちで、
「広恵ちゃん、入門書出していますか?」
と聞いてきた。
「次の一手の本は出しているけど、入門書はないの」
「一冊は出しておく一手ですよ。初対面の人にあげるには一番ですから。僕も今まで入門書の大切さがわからなかったんですけど、この日ほど出していなかったことを後悔した時はありません。だって、佐藤藍子さんにいきなり『康光流現代矢倉』をあげても変な人と思われるだけでしょう」
確かに、あの本はプロが読んでも、面白い高度な本。初心者がもらっても、目をパチクリさせてしまうだろう。
森内八段には、それから何を聞いても「さぁー」とはぐらかされるばかり。一方、佐藤八段は、よほど悔しかったのか、ずっと入門書の話ばかりしていた。
そして、さんざん話をした後、私の顔を見てアッと叫び、決まり文句の
「原稿には書かないで下さいよ」。
ごめんね、書いちゃった。でも、あの時約束はしなかったものね。
(「近代将棋」1997年10月号)
ちなみに、佐藤九段は翌年には実際に入門書を出版しています。女性にプレゼントすることはあったのでしょうか。
最近の若手棋士が書く本は、最新の序盤研究などの有段者向けのものが殆どです。しかし、独身のうちは入門書を一冊は出しておくべきでしょう。