2018/10/16
渡辺明棋王に永瀬拓矢七段が挑戦している、第43期棋王戦。両者2勝2敗で迎える明日の最終局は、永瀬七段が初タイトルを、渡辺棋王が棋王戦6連覇と2004年から守り続けてきたタイトルホルダーとしての地位を懸けた、どちらも負けられない大一番となります。

熱戦が期待される第5局ですが、今シリーズで同時に注目を集めているのが永瀬七段の徹底したバナナの大量注文です。一般人の感覚からするとさすがにこれだけ食べ続けて飽きないのかと不思議に思えますが、将棋界ではおやつに同じフルーツを食べ続ける棋士も珍しくないようです。
過去にタイトル戦などのおやつでフルーツを連投した棋士のエピソードをご紹介します。
バナナ
永瀬七段が初めてタイトル戦に登場した2016年の棋聖戦では、6~8月の暑さ対策なのか、対局中に「冷えピタ」をおでこに貼る姿が印象的でした。見た目に捕らわれずに、一度有効と認めたものはとことん使用し続ける姿は、凝り性が多い棋士らしくも感じられました。
2度目のタイトル挑戦となった今年度の棋王戦では、季節の違いもあり「冷えピタ」は採用されていませんが、代わって永瀬七段の新ルーティーンとなったのが大量のバナナ摂取でした。第1局の3本に始まり、第2局は午前、午後のおやつに合計5本、第3局は2度のおやつと昼食に合計8本(!)、第4局も7.5本と、実に23.5本ものバナナを完食しています。

日本人のバナナの年間消費量が約42本なので、4日間の消費量としては日本人平均の約100倍にも上ります。
永瀬七段と世代が近い若手棋士でも思わず笑ってしまうような食べっぷりです。
みかん
加藤一二三九段のおやつはケーキ、チーズ、チョコレートなど、時代によって多岐に渡りますが、フルーツの中では特にみかんを好まれていました。
1981年の十段戦で、米長邦雄棋聖の挑戦を受けた加藤十段。当時トップ棋士同士の二人は他棋戦でも頻繁に対戦しており、米長棋聖いわく「気は合わないけど、顔は合う」ライバル関係でした。
対局場の係の方:「おやつは何にされますか?」
加藤:「あっ!ええ!みかんをお願いします!皿に一杯で!ハイ」
米長:「加藤さんと同じものを。量は加藤さんのより多くしてね」
昼下がり、対局場には大量のみかんが。加藤十段が黙々と食べ始めると、米長棋聖も負けじと応戦します。両者共に指し手もそこそこに、一説には2時間以上もみかんを食べ続けました。部屋中に充満するみかん臭についに記録係が耐え切れなくなり、別室にいた立会人に「部屋がみかん臭くて死にそうです」と泣きつく異例の事態となりました。
また、加藤九段は大食いだけでなく早食いも超一流で、1999年の羽生四冠とのA級順位戦では、持ち時間も残り少ない午後9時半頃の緊迫した局面で突然みかんを食べ始め、1分間で3個を平らげてしまう電光石火の早業で羽生四冠を唖然とさせています。
パパイア、マンゴー、パパイア
2011年の第24期竜王戦で、渡辺明竜王に挑戦した丸山忠久九段。普段から健啖家として知られる丸山九段ですが、このシリーズは第1局、第2局と、二日制の対局の二日とも午前・午後のおやつにパパイア、昼食にマンゴーを注文しています。第2局が行われた大阪ではよほどパパイアが気に入ったのか、二日目に「パパイア3倍盛り」というおやつ注文まで飛び出しています。
第3局でも当然のように午前10時にパパイア:
昼食にマンゴー:
15時にパパイア:
そして第4局では1日目に安定のパパイア、マンゴー、パパイアのローテーションを採用した後、何と2日目は朝食にもパパイア。ちなみに一緒に注文しているのは「ふぐちり」です・・・
そして10時のおやつには、1日目からの増量を希望したパパイア・・・
昼食では何故かマンゴーの注文が間に合わずパパイアに。溢れんばかりのウナギのボリュームにも目を奪われます・・・
しかし余程マンゴーが食べたかったのか、15時のおやつではマンゴーとパパイアが同時に登場!
ちなみに、丸山九段の執拗なパパイア/マンゴーコンボに触発されたのか、ここで渡辺竜王もケーキ3個という勝負手(!)を放っています:
・・・が、局面が佳境を迎える時間帯にこれだけの量を完食することは出来ず、結局終局までケーキが手元に残ってしまいました。やはりおやつの大量注文は限られた棋士にしか指しこなせない特殊な戦法のようです。
フルーツ盛り合わせ
中には「フルーツしか頼まない、ただしフルーツであれば何でもいい」という妥協的なこだわりを持つ棋士もいます。昨年初タイトルを獲得した菅井竜也王位は、第1、第2局と全てのおやつで「フルーツ盛り合わせ」を注文し、幸先よく2連勝スタートを切ります。第2局以降は食べやすさを重要視して二皿に分けた配膳を希望するなど、細部へのこだわりも見せました。

第3局1日目のおやつでは「タピオカ入りココナッツミルク」という新手を放ったのが裏目に出て、2日目のおやつが配られる前に投了に追い込まれるという完敗を喫してしまいます。しかし第4局以降は「フルーツ盛り合わせ」を主力メニューに戻し、羽生三冠を4勝1敗と圧倒しました。
菅井王位はフルーツの名産地として知られる岡山県出身でもあり、あらゆるフルーツとの相性が良いようです。
栄養価ではバナナに軍配か
バナナ、みかん、パパイア、マンゴーの栄養価を調べてみました。
やはり純粋に糖分を補給する目的ならば、永瀬流のバナナが正解なようです。しかし、個人的にはバランス重視の菅井流が、玉の堅さよりもバランスを重視する現代将棋にも合っている気がします(^-^;。
明日の棋王戦第5局では、果たして永瀬七段はバナナを何本注文するのでしょうか?
コメント
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現会長佐藤康光九段は、タイトル戦でおやつにキウイを連採されてたようですよ。
昼食の分析は他でもされてますけど、おやつの分析は初めて見て新鮮でした。
by 観る将初段 3月 29, 2018 9:01 pm
佐藤会長のキウイ好きも有名ですが、フルーツ盛り合わせの一部として頼まれることが多かったようですね。
ご本人曰く、「周りがキウイ、キウイと騒ぐから、意地になってキウイを頼んでいた」という側面もあったようですが(笑)
by ベンダー 3月 29, 2018 9:52 pm