2018/10/16
将棋界に数々の伝説を残したレジェンド、加藤一二三九段。中でもおやつに関しする逸話の数は他の棋士の追随を許しません。そんな加藤九段が歴代の名棋士達との勝負で魅せた、傑作おやつエピソードをご紹介します。

米長永世棋聖との「みかん合戦」
1981年、加藤十段と米長棋聖は十段戦で激突しました。当時トップ棋士同士の二人は他棋戦でも頻繁に対戦しており、米長棋聖いわく「気は合わないけど、顔は合う」ライバル関係でした。
対局場の係の方:「おやつは何にされますか?」
加藤:「あっ!ええ!みかんをお願いします!皿に一杯で!ハイ」
米長:「加藤さんと同じものを。量は加藤さんのより多くしてね」
昼下がり、対局場には大量のみかんが。加藤十段が黙々と食べ始めると、米長棋聖も負けじと応戦します。両者共に指し手もそこそこに、一説には2時間以上もみかんを食べ続けました。異例の事態に、ついに記録係が耐え切れずに別室にいた立会人に「部屋がみかん臭くて死にそうです」。
中継カメラなどなかった当時。慌てて立会人が対局場へ駆けつけると、そこには大量のみかんの皮と、手を黄色に変色させた両対局者が・・・。ちなみにこのタイトル戦はみかん合戦でも優勢だった加藤十段が見事に防衛を果たしました。
「加藤さんと僕は、戦友であり親友。盤を挟んでどんなに泥沼の戦いをしても、お互いのことをよき理解者だと思っているんですよ」
(内藤國雄・米長邦雄 「勝負師」より)
後年には、おやつに大量の板チョコをほおばる加藤九段に、対局相手の米長永世棋聖が「俺にも食べさせてくれないか」と申し出て、二人で仲良く食べたこともありました。
中原16世名人との「ケーキ三つ注文事件」
中原誠16世名人と加藤九段は何度もタイトル戦で戦っていますが、中でも印象に残る話として中原16世名人が何度も語っておられるのが「ケーキ三つ注文事件」です。
とあるタイトル戦でのこと、加藤九段はおやつにケーキを三つ注文しました。長い一日となるタイトル戦の大舞台、対局室では両対局者と記録係が長時間同じ空間で将棋と向き合います。しかし、対局者は自由におやつが頼めますが、記録係には通常配られません。
(ああ、加藤さんは私と記録係の分も注文してくれたんだ)
中原16世名人は加藤九段の気遣いに感心します。しかし、15時過ぎにおやつが運ばれてくると、加藤九段はおもむろにケーキを三つともペロリと完食してしまいました。
加藤九段は後に「いや普通中々相手のためにケーキ頼みませんよね?」と当然のように語っています。加藤九段の健啖家ぶりを考えると、恐らく中原16世名人がその姿をまだ見慣れていない初期のタイトル戦のエピソードだったのでしょう。
ちなみに中原16世名人との他のタイトル戦では、昼食に「トースト8枚に2倍のオムレツ、それにホットミルク、ミックスジュース、コーンスープを2杯ずつ」頼み、さらに対局開始直後に「カルピスがほしいな。そう、ジャーに一杯入れてきてください」と注文しています。
谷川九段も「ケーキ三つ」を目撃
加藤九段の食欲は50代に入っても衰えを知りません。近代将棋1999年5月号に掲載された観戦記より:
関西将棋会館で谷川-加藤と井上-島のA級順位戦。
(中略)
夕休再開後、3回控え室の研究をのぞいていたら、入り口付近で加藤九段がうろうろしているのが見えた。
「何かご用でしょうか」と聞くと、「だれかケーキを買ってきてくれないでしょうか」とのこと。
その声が聞こえたのか、部屋の奥から「いい子がいます!」と神崎六段の大きな声。出てきたのは同門の橋本三段(注:後の崇載八段)だ。加藤先生の注文は「ショートケーキを3つ」。といっても、こんな時間に近くのケーキ屋さんはあいてないので、橋本君はホテルプラザへ走った。
あとは塾生から聴いたのだが、加藤先生は夕方、天ぷら定食を注文したのに、なぜか天ぷらを食べ残していたそうだ。順位戦は長い将棋だから、そのぶん、ケーキで栄養補給しようということだったんだろう。
ところが、勝負が終わってから対局室をのぞくと、ケーキは2つ残っていた。あれれ、どうなってるの。
感想戦が終わってから谷川さんと飲みにいく、そこで私がケーキの話を持ち出すと、谷川さんは、あきれた、という顔をしてこう言った。
「加藤先生は4時ごろ、ケーキを2つ食べてましたよ」
うーむ。ということはケーキは全部で5つ頼んだのだ。天ぷらを残したワケが、これでわかった。
(近代将棋1999年5月号)
深夜の出来事に羽生竜王も唖然
1999年のA級順位戦。長考派の加藤九段は序盤から大量に持ち時間を使い、夕食休憩をとうに終えてようやく戦いが始まった頃には、6時間の持ち時間のうち既に5時間50分を使っていました。
難解な局面で持ち時間が切迫する中、午後9時半頃に加藤九段は突然みかんを食べ始め、僅か1分ほどで3個を食べてしまいました。羽生竜王も「あまりの電光石火の出来事に、対局中にもかかわらず唖然とした」とのこと。
もちろん盤外戦術ではなく、純粋にお腹が空いたのでしょうが、あの泰然自若を絵に描いたような羽生竜王をも動じさせる加藤九段は、さすがの迫力です。
晩年にも数々の大食漢伝説
— 藤森哲也 (@tetsu_59) February 12, 2015
「私はかつて鍋焼きうどんとざるそばを一度に食べたことがあります」
「カキフライ定食と、グリルチキン定食を一度に2つ食べたこともある」
「大阪の将棋会館で対局がある時は、鍋焼きうどんと、おにぎりを6つ頼んでいます」
(「将棋世界」2017年3月号、加藤一二三九段と藤井聡太四段の対談より)
63年にも及ぶ加藤九段の長い棋士人生を支えたのは、未だ衰えない食欲に象徴される、体力の充実だったのですね。
コメント
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