2018/10/16
昨年度のC級1組順位戦は、千田翔太六段が10戦全勝、永瀬拓矢七段が9勝1敗でそれぞれB級2組昇級を果たしました。先日発売された「将棋世界」5月号では順位戦昇級者の喜びの声が伝えられていますが、その中でこの二人はライバル視するある棋士の名を揃って挙げています。
熾烈な昇級争い
永瀬七段の「昇級者喜びの声」より:
いま、改めてリーグ表を眺めている。
喜ぶにはまだ早いと自分を律したいところだが、彼より先に昇級することができたことは、どうしても喜ばずにはいられない。もし先を越されていたら、耐え難い悔しさを感じていたことだろう。その彼とは誰であるかは、あえて記さないでおく。ただひとつ、島朗九段には大感謝である。
(「将棋世界」2018年5月号)
千田六段の順位戦を振り返る自戦記より:
筆者とAは大事なところで激突することが多い。筆者に酷い目にあった、とAは言うのだが、こちらも大概酷い目に合っている。そのような関係であるから、今期の順位戦で当たりたくないと思うのは、互いにとって当然のことだった。
(中略)
幸いにもくじ運に恵まれたようで、懸念していた両者の対戦は組まれなかった。それだけでなく、他の有力候補の当たりが厳しいのに対して、筆者とAの当たりは悪くなかった。内心、同時昇級もあるかもしれないと思っていた。
違和感を持ったのは、大阪に帰ってからだった。「あれ、ひょっとして」と思うや否や、まるでトン死筋が見えたかのように、最悪のケースに気づいてしまった。「Aが全勝すると、頭ハネがあるじゃん」
順位2位で頭ハネされる可能性に気づいた途端、頭が痛くなった。
(「将棋世界」2018年5月号)
永瀬七段は「彼」に先に昇級されることを「耐え難い悔しさ」と表現し、千田六段に至っては順位戦開幕前から「Aが全勝」することで自身が9勝1敗でも昇級出来ない可能性を心配しています。
ちなみに、順位戦昇級者の中で、ライバル視する特定の棋士の存在に言及していたのはこの二人だけでした。永瀬七段と千田六段が「彼」の存在をいかに強烈に意識しているかが伺えます。
二人がライバル視する「彼」とは
永瀬七段と千田六段が言及した「彼」とは、ほぼ間違いなく佐々木勇気六段です。
永瀬七段と佐々木六段は小学生時代からしのぎを削ってきたライバルで、プロ入り後も頻繁に研究会を行う仲です。2歳年上の永瀬七段が1年早く四段昇段を果たしましたが、2013年のC級2組順位戦では永瀬七段が僅か順位1枚の差により佐々木六段に頭ハネを食らっています。永瀬七段の「耐え難い悔しさ」とは、4年前の実体験に基づいた言葉のようです。
ここで11年前の写真など。 pic.twitter.com/y76aZO1XTn
— 勝又清和 (@katsumata) March 20, 2015
また、千田六段は佐々木六段と同年齢で、お互いに最も公式戦での対戦数が多い相手です(千田六段の5勝4敗)。2013年の加古川清流戦決勝3番勝負では佐々木六段が勝利し、同年の順位戦でも結果的に勝者が昇級していた直接対決を佐々木六段が制していますが、2016年の棋王戦挑戦者決定戦では千田六段が借りを返しています。
佐々木六段は毎年のように7割に迫る高勝率を収めていますが、順位戦に限ると前年は6勝4敗と平凡な成績に終わっています。にもかかわらず永瀬七段と千田六段が昇級を争うライバルとして佐々木六段を強く意識していたのは、数多くの対戦を通して佐々木六段の実力を認めていることの表れでしょう。
9勝1敗で頭ハネ
C級1組は年々参加者が少しずつ増加していますが、昨年度は参加者が37名に対して昇級枠が2名と、C級2組(50名に対して3名)以上の非常に高い競争率でした。その影響もあり、佐々木六段と高崎一生六段が9勝1敗の好成績でも昇級を逃すという不運に見舞われました。特に佐々木六段は順位が6位と上位だったにもかかわらず頭ハネを食らっており、結果的に千田六段の開幕前の心配は概ね当たっていたことになります。
ただし、昇級した千田六段と永瀬七段も、前年に後一歩のところで昇級を逃しており(特に永瀬七段は9勝1敗で頭ハネ)、順位を大きく上げたことが今回の昇級に繋がっています。今期のC級1組は順位が1位となる佐々木六段が昇級の最有力候補となるでしょう・・・
・・・と言いたいところですが、今期はC級2組から藤井聡太六段が昇級して来るため、一概には言い切れません。毎年熾烈を極めるC級1組の昇級争いから、今年も目が離せませんね。