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叡王戦第2局:高見六段が逆転勝ち、実戦的勝負術と最終盤のドラマを徹底検証

time 2018/04/29

第3期叡王戦七番勝負第2局は、高見泰地六段が金井恒太六段に135手で勝利し、対戦成績を2勝0敗としました。


常に最善手を追求する金井六段の格調高い指し回しと、不利な将棋を逆転させた高見六段の勝負術、そして最終盤に起きたちょっとしたハプニングを徹底検証します。

出典:ニコニコ生放送

終わっていなかった矢倉    

先手の高見六段の矢倉模様の出だしに対し、金井六段は飛車先を受けずに早繰り銀を繰り出す現代的な構えを採用します。

お互いに矢倉に組み合うゆっくりした展開を経て、金井六段が先に銀交換を目指した局面ですが、このタイミングで▲4六角の飛車取りが利くのが後手の泣き所です。玉が戦場に近い後手は反撃を避けるために△7三歩と受けるしかありませんが、これにより後手は攻めの銀をさばいたものの後に▲7二歩と打たれる傷が残り、一概に成功とはいえない進行です。

先手が▲7二歩と1筋を絡めて反撃転じた局面。△3一金には▲1二歩から1筋を攻めた後に▲6五香と打つ手が厳しく、後手がかなり長く受けに回る展開を強いられます。しかしこの局面で△8八歩と打った手が絶妙のタイミングで、▲同金なら先手玉をかなり弱体化させたことで△3一金以下の展開で先手の強攻に対するかなりの抑止力となります。高見六段は▲7七桂を選択しましたが、△8九歩成とと金を作ったも大きく、ねじり合いが続きました。

絶妙の利かし

金井六段の残り時間が切迫し、それに合わせて高見六段が時間攻め気味に指し手を速めたことで、少し前に両者にやや疑問手と思える手が出ましたが、結果的には互角の戦いが続いています。持ち時間が20分強しかないこともあり、第一感で浮かぶ△6二歩を手拍子で指してしまいそうな局面ですが、金井六段は残り7分になるまで考えた末に△6六歩と叩きました。

本譜の進行を考えると▲同角が勝ったようですが、高見六段は▲同金。このギリギリの利かしを入れた後で△6二歩、▲8八金、△4二馬、▲6二成香、△2九香成と進んだ局面は、△6六歩が先手陣を大きく弱体化させた効果で次の△4五桂打が厳しく、後手優勢がはっきりしました。

先手としては、結果的には▲8八金に代えて▲6四歩、△6三歩、▲同歩成、△6二歩、▲6四歩以下の千日手を目指すしかなかったようですが、先に成香を取られる上に後手から打開する手段もありそうなだけに、実戦的には選びづらい手順でしょう。

最善手を徹底的に追及して△6六歩というギリギリの利かしにたどり着いたのは、いかにも金井六段らしい指し回しだったと思います。しかし、その代償として失った15分近い持ち時間が、後々大きくものをいうことになります。

時間攻め

金井六段がリードを広げていますが、高見六段も1分将棋の相手に対して持ち駒を自陣に投入して粘りつつ、1手数秒程度の時間攻めを執拗に繰り返してミスを誘っています。本譜は△6八歩、▲同玉、△6六桂、▲同香、△6七歩、▲同金、△4八成銀と成銀を逃しましたが、この手順は先手玉を上部へ逃してしまう感触が非常に悪い上に▲6三香成の反撃も誘発してしまい、形勢は急接近しました。

△6八歩では平凡に△3六成銀、▲同馬、△4五桂と迫る手が分かりやすかったようです。3六銀をさばかせてしまうことには抵抗を覚えますがそれ以上に次に△5七銀と上部から押し潰す手が厳しく、△4五桂に対して▲4六歩なら△2五銀として▲1四馬を防ぎながら馬を攻める手があります。後手は4二馬の存在により自玉が安全なので、先手の馬をいじめながら確実に上部から先手玉へ迫るような展開を選べば紛れがありません。

勝ちの幻覚

上部が開け先手玉が寄せづらく、既に形勢は混沌としていますが。ここで△3三馬と逃げておけば後手玉も簡単には寄らない形で形勢不明の泥仕合が続いていましたが、金井六段は△7五馬(!)と派手な手で雌雄を決しに行きました。▲同金の一手に、△6六銀と上部を抑えた先手玉は急激に危険な形になっています。

高見六段も時間攻めを行う中でかなりの早指しを続けていたため、△7五馬を指される前から完全に読み切っていたとは思えません。しかし実際は△6六銀に▲9九飛とと金を外す手がぴったりの受けで、ついに体が入れ替わりました。

自分だけが延々と1分将棋が続く苦しい状況の中、まるで次の一手のような△7五馬を発見して勝ち筋の幻覚を見てしまったのは、金井六段としては運にも見放されていました。「勝負の流れ」という言葉をあえて使うと、△6八歩から先手玉を上部へ追ってしまった悪手の罪がそれだけ重かったということでしょう。

最終盤のドラマ

高見六段が勝勢の最終盤で、平凡に▲3一角、△同飛、▲同桂成とすれば後手玉は必至で、先手玉には角を渡しても詰みはなく、高見六段の勝ちでした。

本譜は▲2九飛と回ったため、金井六段に最後のチャンスが訪れました。後手玉はがんじがらめで非常に危ない形ですが、目をつぶって△3三金打と受けておけば、先手は2四馬や2三桂を取られると後手の持ち駒の条件次第で自玉に詰み筋が生じるため、寄せ切るのは容易ではありませんでした。

本譜は▲2九飛に△2五歩と打ったため、▲3一角以下の手順に合流して先手が事なきを得ました。秒読みに追われていたとはいえ、受け一方で先手に何のプレッシャーも与えられない△2五歩は粘りを欠いたと言わざるを得ないでしょう。

また、▲3一同桂成の局面では、高見六段が指した直後に席を立つ場面がありました。取材が1時間近くは続くであろう感想戦の前にお手洗いに立ったのだと思われますが、1分将棋の金井六段は結果的に投げるに投げられない格好になってしまいました。

1分将棋の相手に対して考える猶予を与えないための時間攻めには何の問題もありませんし、相手の手番の局面で勝ちを確信して席を立つことも本来自由です。しかしこの両方が同時に行われると、ギリギリの勝負が長時間続いた末の他意のない出来事だったことが明らかだとしても(万が一意識的に盤外戦術として行っていたのだとすれば、大山15世名人を彷彿とさせる恐るべき勝負への執着心です)、見る側としてはあまりに勝負に徹しすぎているように思えてしまいました。

高見六段はこの時点で20分以上持ち時間を残していたため、(相手が投了する可能性があるほど)勝敗がはっきりしていたこの場面では自分の手番で席を立つことも当然可能でした。また、この少し前に▲2九飛という、一つ間違えれば混戦に持ち込まれかねなかった指し手が現れたことも、本局の最終盤にすっきりしない印象が残った理由の一つでしょう。

本局は勝負としては高見六段の勝負術が光り、初タイトル獲得へ向けて大きく前進する2勝目を挙げました。しかし、持ち時間を残すことよりも最善手を指すことを追求して△6六歩へたどり着いた金井六段の指し回しや、終局直後に将棋が殆ど指せないという観戦記者に対して非常に丁寧に解説していた姿勢、七番勝負を1局でも多く見たいという観戦者の勝手な事情、そして本局の最終盤の盤上盤外の出来事などを総合すると、個人的には第3局以降は俄然金井六段を応援したくなった一局でした。

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