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「恩返し」を阻止する難しさ:将棋界の師弟戦にまつわるエピソード

time 2018/03/28

将棋界では、公式戦で弟子が師匠に勝つことを「恩返し」と言います。3月8日には藤井聡太六段が師匠の杉本昌隆七段へ「恩返し」を果たしましたが、自身は棋士になる前に師匠が亡くなってしまっていた杉本七段が局後のインタビューで藤井六段に感謝の言葉を述べられていたことに、感動を覚えた方も多かったのではないでしょうか。


出典:産経新聞

藤井六段公式戦14連勝!師弟対決に勝利

「青は藍より出でて藍より青し」ということわざがあるように、日本人の美意識としては弟子の成長を喜ぶ師匠が多いですが、将棋界に限ると例え弟子にでも負けたくない、という負けず嫌いな師匠も多いはずです。杉本七段も、対局前に藤井六段対策として弟子の経験が少ない戦型を若手棋士と研究していたり、その展開に持ち込むためにあえて先手番で千日手に誘導するなど、勝利への執念を見せました。

しかし、このように弟子に対しても全力で立ちはだかる師匠が多い将棋界でも、「師弟戦」全体としては意外にも弟子が大きく勝ち越しています。一方で、最後まで弟子に自分を超えさせなかった伝説的な師匠も存在しました。このような「師弟戦」にまつわるエピソードをご紹介します。

「恩返し」を食い止める難しさ

1953年以降の記録が残っている公式戦で、師匠と弟子の対局は合計423局あり、弟子が254勝169敗(勝率60.0%)と勝ち越しています。さらに、直近30年に限ると弟子の24勝7敗(77.4%)と勝率が跳ね上がっています。

要因はいくつか考えられますが、最も影響力が大きそうなのは以下の二つでしょうか:

  • 過去30年間は概ね羽生世代が将棋界のトップに君臨してきた期間と重なりますが、この世代のトップ棋士の多くは弟子を取っていません。そのため、トップ棋士が師匠となる師弟戦が減少しています。
  • 近年の将棋界は若手の勝率が高い傾向が強まっています。将棋界の殆どの師弟は年齢が二回り以上離れていますが、師弟戦に限らずベテランが大きく年の離れた後輩を負かすことが難しい時代でもあります。

ただし、ここ数年では深浦康市九段、谷川浩司九段、木村一基九段といったB級1組以上のトップ棋士を師匠に持つ棋士が誕生している、20代~30代前半で弟子を取る棋士が増えている、といった傾向も見られるので、今後は「師匠」側の巻き返しが始まるかも知れません。

中には偉大過ぎる師匠も

師弟戦の中で最も対局数が多いのは、大山康晴15世名人と有吉道夫九段の対戦です。69局(大山15世名人の40勝29敗)という数字は現在より棋戦数が少なかった時代としては師弟戦以外のカードを含めても上位に来る実績で、師弟戦では2位に3倍以上の大差をつけています。

この両者はタイトル戦でも戦っており、1969年の第28期名人戦では有吉九段が第5局までに3勝2敗と獲得に王手を掛けましたが、そこから大山15世名人が連勝で名人位を死守しています。合計4度行われた師弟のタイトル戦は結果的に全て大山15世名人が制しており、有吉九段にとっては通算成績の差以上にタイトル戦での師匠は巨大な壁であり続けたようです。

また、二人以上の弟子が棋士になった師匠の中で、師弟戦において最も高い勝率を誇ったのは中原誠16世名人でした。計11度経験した師弟戦の成績は10勝1敗と、一度しか「恩返し」を許していません。超一流棋士の中原16世名人の勝率が高いのは当然ですが、弟子との対局ではより一層闘志を燃やされていたのかも知れません。

畠山鎮七段/斎藤慎太郎七段

過去にA級順位戦で師弟戦が行われた例は、管理人が知る限り大山vs有吉戦のみです(少なくとも過去30年ではこの師弟のみです)。その一歩手前となる来期のB級1組で対戦することが決まっているのが、畠山鎮七段と斎藤慎太郎七段の師弟です。

斎藤七段の奨励会時代から「一番長い持ち時間で指そう」と約束していたという畠山七段は、2016年度に長年在籍したB級1組から降級してしまいましたが、この時入れ替わりで昇級したのが斎藤七段でした。しかし畠山七段は翌年底力を発揮し、B級2組から1期で復帰を果たしたことで、念願の順位戦での師弟対決を実現させました。

名指導者にして自身もB級1組昇級、畠山鎮七段とは?

深浦康市九段/佐々木大地四段

同じ長崎県出身の深浦九段と佐々木四段は、将棋番組へ出演するたびにお互いのエピソードを楽しそうに語り合う姿が印象的な師弟です。今年度のA級順位戦最終局では、A級残留を懸けて戦っていた深浦九段の応援のために、佐々木四段はプライベートで静岡の対局場まで駆けつけています。

そんな師匠思いの佐々木四段ですが、将棋番組に解説者として出演した際、深夜に「二歩」の手を解説するという痛恨のミスを犯してしまったことがあります。偶然そのシーンを目撃した深浦九段は、後日別の番組でその様子をここぞとばかりにイジりましたが、その直後に自身にもまさかのハプニングが・・・

順位戦プレーオフ舞台裏:解説の深浦九段にまさかのハプニング

将棋界における師匠と弟子の関係性は十人十色ですが、師弟戦が全ての棋士にとって特別な対局であることは間違いないでしょう。ちなみに、本日は棋王戦予選で森下卓九段と増田康宏五段の師弟対決が行われています。2015年に行われた初対決では森下九段が貫禄を示していますが、増田五段は今度こそ「恩返し」を果たすことが出来るでしょうか。

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