2018/10/16
第31期竜王戦5組準々決勝、阿部光瑠六段vs藤井聡太六段の対局は、136手で藤井六段が勝利しました。船江恒平六段と石井健太郎五段の勝者と対戦する準決勝に勝利すると、竜王戦2年連続昇級により七段昇段となります。
現代将棋の中盤術
角換わりの出だしから後手の藤井六段の早繰り銀に対し、阿部六段は右玉を採用します。お互いに長考を繰り返す非常にスローペースな進行の末、夕食休憩明けにようやく局面が動きます。
後手は桂得を果たしましたが、先手はその代償として左辺の抑え込み模様と後手の歩切れを主張しています。指す手が難しいところですが、藤井六段は△5五歩、▲同歩、△9四歩と、いかにも実戦的な手順を繰り出しました。5筋の突き捨てにはすぐに直接的な狙いがあるわけではありませんが、現代将棋では将棋ソフトの影響もあり以前よりかなり早いタイミングで歩を突き捨てるケースが目立っています。また、本局の場合は将来▲6六角と打たれると△5五歩が入らなくなる(▲同角と取られる)という理由もあります。
右玉の世界
数手進み、歩切れの後手が6筋で歩の入手を図った局面。金を玉へ近づけながら6四歩を支える▲5七金寄や▲5六金が非常に味が良さそうですが、阿部六段は何と反対側へ▲7七金。そして△8八角に対してさらに▲6八金寄(!)。
先ほどの局面で5筋へ金を逃げると、△7七角ともたれられて後の△8六角成の銀取りが受けづらく先手も容易ではなかったようです。本譜は△9三桂、▲8九飛、△7七角成、▲同金、△6四金と進みましたが、そこで▲8四歩と突いた手が想像以上に厳しく、後手は駒の損得でも玉形でも勝っているにもかかわらず自信が持てない形勢になったようです。
▲7七金からの一連の手順は、先の局面を正確に判断する大局観を持ち、右玉の特性を知り尽くした阿部六段ならではの差し回しでした。
惜しい逸機
依然として▲8三歩成を見せられた藤井六段が攻めさせられている局面。先手玉を逃しながら駒を捌かせてしまっているので、△7八銀の両取りは見た目ほどは厳しくありません。
阿部六段は「両取り逃げるべからず」の格言通り▲8三歩成と指しましたが、じっと△8一飛、▲8二と、△5一飛と辛抱され、両取りが残った先手が逆に忙しい展開となってしまいました。▲5八金と鍛えの入った一手をひねり出したものの、△8九銀成と飛車を取られた駒損は大きく、形勢が入れ替わりました。
当然に見えた▲8三歩成では先に▲7三歩成ならば、△同銀には▲8三歩成、△8一飛、▲8二と、△5一飛に今度は▲8三飛成が銀取りになるのが大きく、先手が指せていたようです。
激戦に終止符
阿部六段が苦しい中で40手以上も粘り続け、角のバリケードで得た一瞬の猶予を活かして勝負手を繰り出した局面。玉頭に火の手が上がった後手玉も怖いところですが、△同金、▲同角に△6九竜と踏み込んだのが熱戦に終止符を打つ一手となりました。▲2四歩、△同金、▲同香、△同銀、▲2三歩、△同玉、▲2五歩に、△2七金打以下の詰みに打ち取った藤井六段が、5組準決勝進出を決めています。
中盤の難解なねじり合いと、阿部六段の強靭な粘りを藤井六段が振り切った終盤の1分将棋は見ごたえ十分で、個人的には藤井六段のこれまでの公式戦の中でも5本の指に入る熱戦だったと思います。阿部六段としては敗れた悔しさと比べると達成感など皆無でしょうが、本局の内容を見れば誰もが最近の好成績に納得することでしょう。他の多くの棋戦でも勝ち進んでいる両対局者の今後の活躍から目が離せません。
コメント
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